2019年逃亡犯条例改正案
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2019年逃亡犯条例改正案

香港特別行政区立法会
立法経緯
法案起草日2019年3月29日
提出者香港保安局長・李家超
概要
 審議停止中→完全撤回

2019年逃亡犯条例改正案(2019ねんとうぼうはんじょうれいかいせいあん、中国語: 2019年逃犯及刑事事宜相互法律協助法例(修訂)條例草案、英語: Fugitive Offenders and Mutual Legal Assistance in Criminal Matters Legislation (Amendment) Bill 2019)は2019年香港で提出された法案。短縮形で逃犯条例修訂草案、非公式名称は逃犯条例(略称)、送中条例[注釈 1]、引渡条例などがある。

香港の世論は反対寄りであり[注釈 2]、2019年6月9日に行われた3度目の反対デモでは人口の約7分の1にあたる103万人が参加し(主催者発表、警察発表は24万人)[2]2003年の「香港特別行政区基本法23条国家安全保障条例」案に反対した50万人規模のデモを大きく上回った[3]。政府側は改正案の審議続行を強硬に主張した[4]が、21日夜に「政府は改正作業を完全に停止した。来年7月に廃案になる事実を受け入れる」という声明を発表したが、廃案とは発表しておらず、2020年7月までに法改正を再開する可能性が残されていたものの、9月4日に撤回を正式決定し[5]、10月23日に撤回するも[6]2019年-2020年香港民主化デモに発展した。
概要法案提出者
香港保安局局長
ジョン・リー(李家超)

本改正案は容疑者の身柄引き渡し手続きを簡略化し、中国大陸マカオ台湾中華民国)にも刑事事件の容疑者を引き渡しできるようにするものである[7]。改正案の背景には台湾で起きた潘暁穎殺人事件があり、逃亡犯条例の規定により容疑者を台湾に引き渡すことができなかったが、香港政府は逃亡犯条例の規定で中国大陸やマカオが除外されていることが「抜け穴」であると主張した。改正案が成立した場合、香港行政長官は事例毎に引き渡し要請を受け付けることになる。要請を受け付ける容疑には殺人罪のほかには贈収賄、入出国審査官に対する詐欺など7年以上の懲役刑が科される可能性のある犯罪が30種類以上含まれる[8][9]。また、中国大陸などから要請を受けて資産凍結差押を行うこともできるようになる[10]。改正案の提出直後より、世論は香港の裁判権の独立性に悪影響を及ぼすと危惧し、香港法廷弁護士協会(英語版)、香港事務弁護士協会(英語版)、キリスト教の教会などが中国大陸への引き渡しを盛り込む改正案への反対を表明した[11]。中学校約350校(香港の中学校の7割にあたる)で教師、学生、卒業生が改正案撤回を求める請願書を提出した。

2019年4月3日、改正案は香港立法会第一読会を通過[12]、4月17日には立法会で法案に関する委員会が設立され1回目の会議が行われた[13]。5月6日、民主派は親政府の建制派と陳維安(中国語版)ら立法会の秘書からの妨害を受けるものの、委員会の会議を続行して委員会主席(委員長)の選挙を行い、民主党の?謹申(中国語版)が主席に、公民党の郭榮鏗(中国語版)が副主席に当選した[14]。5月20日、香港政府は立法会に委員会を経由せずに、6月12日に立法会総会での審議(第二読会)を続行するよう要求したが[15]、6月9日に香港のみならず6か国16都市で反対デモが実施され(中国語版)、中でも香港のデモ(中国語版)は103万人が参加し(主催者発表)、60軒以上の商店が罷業した[16][17]。同日夜に香港政府が第二読会の予定日を6月12日のまま変更しないと発表すると[18]、1,000人以上のデモ参加者が立法会の占領を試み、警察によって鎮圧された。

台湾では大陸委員会が殺人事件の露見以来その解決に奔走していると述べ、香港政府に対し司法協力を3度提出したにもかかわらず返事がなかったという。香港政府では保安局(中国語版)の局長李家超が4月に港台経済文化合作協進会(中国語版)と台港経済文化合作策進会(中国語版)を通じて交渉を行ったと返答した。大陸委員会は李明哲事件(中国語版)の再来を恐れ、法改正により台湾人が中国大陸に引き渡される可能性が出てくる場合は法改正の理由である潘曉穎殺人事件の容疑者引き渡しを拒否し、危険情報のレベルを上げることも検討すると述べた[19]。アメリカ、イギリス、カナダ政府やアメリカ商工会議所なども憂慮を表明[20]、特に法改正により香港に滞在する自国民が人権問題を抱える中国に引き渡され、人権が侵害される可能性が浮上することを問題とした[21][22]欧州連合は外交申し入れ(英語版)を発して抗議した[23]

一方、国務院香港マカオ事務弁公室中央政府駐香港連絡弁公室は改正案への支持を表明、中でも前者は5月17日に香港特別行政区全国人民代表大会代表全国政治協商会議香港地区委員を呼び出し、改正案を支持する世論を作ることを要求した[24]
背景
逃亡犯条例の制定

本土研究社(香港前途研究計画(中国語版))の研究が引用したイギリス外務・英連邦省のアーカイブによると、イギリス統治期の1992年に逃亡犯条例が制定されたとき、「司法制度、刑罰の制度、人権が十分守られる政府とのみ犯罪人引渡しのできる関係を結ぶ」と強調しており、香港返還の後でも変わらないとした[25]。条例制定の本来の意図(英語版)では犯罪人引渡し条約を締結しなかったことを「抜け穴」としておらず、本土研究社はイギリスが中国を信用していない上、引き渡しの悪用を憂いたことをその理由とした。また、中国は1988年7月に犯罪人引渡し関連の法律と制度の整備が不十分であると認め、相互法的援助条約の交渉において刑法関連の案件を棚上げにして、民事訴訟と商業、貿易関連でのみ相互法的援助を行うことを提案した[26][27]。2000年に中華人民共和国引き渡し法が発効する直前(発効日は2000年12月28日)、香港が中国と犯罪人引渡し条約を交渉していたことについてイギリス外相ロビン・クックが議会に報告書を提出、交渉の結果が香港基本法および香港の裁判手続に適合することを望むとした。イギリス庶民院は外務・英連邦省に対し、香港と中国が締結するいかなる協定でも人権蹂躙を防ぐ条項が盛り込まれるよう促すことを提案した[28]

1997年以降の香港の警察と中国の公安警察は相互に通知した上で国外追放という形で犯罪人引渡しを行っており、2015年までに公安警察は約170人を逮捕して香港の警察に引き渡し[29]、一方で香港の警察も2008年に六四天安門事件の中心人物の1人で米国永住ビザを有する周勇軍(中国語版)を深?に追放したといった例はあるが、公安警察と比べて引渡しの人数は少ない[30]


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