2015年欧州難民危機
[Wikipedia|▼Menu]
シリア難民が2014年での最大の難民グループ(390万人、前年比155万人増)で、ここ30年間で常にトップに位置していたアフガニスタン難民のグループ(260万人)を追い越した[30]。大半のシリア難民はトルコレバノンヨルダンなどの近隣諸国に受け入れられているが、2011年以降ヨーロッパ諸国への難民申請が着実に増加しており、2015年の時点で348,540件に達している[33]。全世界の難民の60パーセントはアフリカ諸国出身者、すなわちソマリアスーダン南スーダンコンゴ民主共和国中央アフリカ共和国エリトリアなどが占める[34]
欧州における難民危機の始まりギリシャ、トルコ、ブルガリアの国境とマリツァ川

2007年から2011年にかけて、中東やアフリカから相当数の不法移民(undocumented migrants)がトルコ・ギリシャ国境を越えた。それを受けて、欧州対外国境管理協力機関(Frontex)は国境管理を強化した[35]マリツァ川から外れた部分の国境にフェンスを建設すると、2012年ギリシャへ流入する移民は95パーセント減少した[36]。続いて2015年にはブルガリアがトルコからの移民の流入を防ぐ目的で国境フェンスを強化した[37][38]

アラブの春以降の北アフリカの不安定な情勢とリビア内戦がアフリカから海路でのヨーロッパへの移民を容易にしている。リビアの不安定な中央政府は港の管理まで手が回らず、ヨーロッパ各国と連携がとれる状態にも無い。そのためにピープル・スマグリング(人の密輸)が横行している。このリビアの内戦は、かつて仕事を求めてリビアにやってきたアフリカの移民たちのリビア離れを促し、別の移民先を求める動機となっている[39]

2013年ランペドゥーザ島難民船沈没事故では、360名の死者を出した。これを受けてイタリア政府は、オペレーション・マレ・ノストラム(Operation Mare Nostrum)を開始した。捜索と救助を担う大規模な作戦で、強襲揚陸艦が導入され難民の保護に活用された[40]。2014年にはイタリア政府は、一国が担うには経済的負担が大きすぎることを理由にこの作戦を終了した。捜索と救助は欧州対外国境管理協力機関が引き継ぎ、この作戦はオペレーション・トリトンと呼ばれる[41]。イタリア政府は作戦の継続のためにEUに対し経済的な援助を打診していたが、各加盟国はその要請に応じなかった[42]。イギリス政府はイタリアへの協力を拒んだ理由として、作戦が危険な地中海ルートによる移民の流入に拍車をかけてしまう可能性、それによりさらなる悲劇を引き起こす可能性への危惧を挙げた[43]。この作戦は2機の哨戒機と3隻の船舶を7つのチームが運用し、審査の手続きまで行う。月間の予算は290万ユーロと試算されている[41]
移民
統計
海路及び陸路による流入

2014年における国別の不法越境者数
(陸路、海路合計)
[44]

シリア79,169
エリトリア34,586
不特定サブ・サハラ26,341
アフガニスタン22,132
コソボ22,069
マリ10,575
アルバニア9,323
ガンビア8,730
ナイジェリア8,715
ソマリア7,676
その他54,216
合計283,532

国際移住機関によれば、2014年だけで3,072名が地中海を越える過程で死亡するか行方不明になっている[45]。2000年から2014年の期間で22,000人の移民が死亡したと試算されている。

2014年には、283,532名の移民が不法にEUの国境を越えている。中央地中海、東地中海、西バルカンがおもなルートとなる[45][46][47]。このうち220,194名(2013年比で266%増)が地中海を越えており、そのうち半数はシリア、エリトリア、アフガニスタン出身者が占める[44]

2014年のこれら南ヨーロッパに到着した移民たちの大部分、170,664名(前年の277%増)はリビア経由でイタリアに入国している。一方で50,834名(前年の105%増)はトルコ経由でギリシャに入国している[48]。62,000名がイタリアに難民申請をしているが、大部分のシリア人とエリトリア人、すなわちイタリアに入国した移民の半数に当たる者たちはイタリアに留まらずにさらに北を目指して旅を続ける。彼らは主にドイツやスウェーデンを目的地にしている[49]

2015年には前年の傾向に変化が現れる。この年の移民到着者数でギリシャはイタリアを追い越して首位に立ち、ギリシャへの移民到着者数は最初の半年だけで前年を越えた。2015年の最初の6ヶ月だけでイタリアに67,500名が到着、出身国の内訳はエリトリア(25%)、ナイジェリア(10%)、ソマリア(10%)となる。一方のギリシャには68,000名が到着、内訳はシリア(57%)、アフガニスタン(22%)となる[50]。2015年の最初の半年だけで合計137,000名の移民が地中海を渡りヨーロッパへと入った[51]

2015年4月17日時点で、この年の1月からのイタリア到着者数は21,191名となった。3月には悪天候により減少したが4月10日以降に移民が殺到し、結果的に前年の同じ時期と同等の規模となった。しかしながら、死亡者数は2014年の最初の4ヶ月が96名だったのに対して2015年は500名を記録している。この数字は、4月13日と19日の大規模な沈没事故による犠牲者を含んでいない[52][53]


2015年8月初旬の国際連合難民高等弁務官事務所の発表によれば、2015年のこの時期までに250,000名の移民が海を越えてヨーロッパへと到着している。内訳は124,000名がギリシャ、98,000名がイタリアとなる[54]。欧州対外国境管理協力機関(Frontex)によれば7月は107,500名の移民がEUに到着したと試算されており、ひと月での最多記録となった[55]。8月には156,000名がEU圏内に到着、この年のEUの国境を越えた移民の数が500,000人を越えた(ただし、ハンガリー国境でセルビアにカウントされた移民たちは数週間前にトルコからギリシャを越えているときにもカウントされていることがわかっている)[56]

国際移住機関の試算によれば、2015年の9月10日時点で海を越えてヨーロッパへ渡った移民の数は432,761名で、これは2014年全体のおよそ2倍にあたる。2015年の移民の70パーセント(309,356名)はギリシャで登録されている。28パーセント(131,139名)がイタリアとなっているが、前年の同じ時期よりも増加率は落ち着いている。ギリシャに到着した者のうち70パーセント以上がシリア出身者で構成されている。国際移住機関の試算によればこの時期までに2,748名が地中海で命を落としている。このうちの2,620名が中央地中海ルートであるが、欧州対外国境管理協力機関(Frontex)の行っているオペレーション・トリトンの規模拡大が功を奏し、ここ数ヶ月の死亡率は低下している[57]

2016年1月時点で、約100万人の難民と経済移民が非合法なルートで欧州に入っている[58]
難民申請2015年1月1日から6月30日までにEUEFTA加盟国の受け取った難民申請。ユーロスタットのデータに基づく。2015年1月1日から6月30日までにEUEFTA加盟国に対し難民申請をした人々の出身国。

ユーロスタットによれば、欧州連合加盟国は2014年に626,715件の難民申請を受け付けた。これは、672,000件を記録した1992年以降で最大となる。これら申請者の出身国はそのうちのおよそ半分をシリア(20%)、アフガニスタン(7%)、コソボ(6%)、エリトリア(6%)、セルビア(5%)の5カ国が占める[59]

2014年の申請のうちで160,000件以上が1回目の審査で認定を受け、保護状態(protection status)に置かれた。23,000件は2度目の審査で規定を通過し、難民認定を受けている。審査通過率は1回目が45パーセント、2回目が18パーセントとなっている。認定を受けたもののうちの半数以上をシリア(68,000名、37%)、エリトリア(14,600名、8%)、アフガニスタン(14,100名、8%)出身者が占める[59]

ドイツ、スウェーデン、イタリア、フランスの4カ国が2014年にEUの受け取った申請全体の3分の2を占め、同様にこの4カ国が全体の3分の2の認定を出している。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:142 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef