2015年欧州難民危機
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ギリシャマケドニア国境の移民。2015年8月24日、ゲヴゲリヤオペレーション・トリトン(Operation Triton)の一環で定員超過の移民船の救助に当たるアイルランド海軍(Irish Naval Service)。2015年6月。

2015年欧州移民危機(: European migrant crisis[1][2][3][4][5])もしくは2015年欧州難民危機(: European refugee crisis[6][7][8][9] )とは、地中海ヨーロッパ南東部を経由してEUへ向かう100万人を超す難民移民[10]により引き起こされた社会的・政治的危機である。
概要

2015年、ヨーロッパ諸国には中東やアフリカなどから前年の二倍以上の難民が殺到し、国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)は2015年の年末、年初から欧州に到達した難民・移民の数は100万人を超えると発表した。[11]中東シリアイラク)、アフリカエリトリアナイジェリアソマリアスーダン)、南アジアアフガニスタンパキスタン[12]バルカン半島西部(コソボアルバニア[13]が移民および難民の主な出身地となっている。UNHCRによれば、2015年9月時点で地中海経由の難民の内訳はシリア(51%)、アフガニスタン(14%)、エリトリア(8%)である。移民の多く(69%)は成人男性である[14]。「欧州難民危機」という語は2000人近くの移民を乗せた5隻の船が地中海に沈み1200名の犠牲を出した事故を受けて2015年4月ごろ[15]から一般的に使われるようになった。

この沈没事故は、北アフリカの複数の国と中東のやはりいくつかの国々が抱えていた紛争を背景とし、EUの国々がイタリアが行っていた移民船救助作戦(Operation Mare Nostrum、以下OMN)への経済的支援を拒むという流れの中で発生した。このOMNは2014年11月に欧州対外国境管理協力機関主導のオペレーション・トリトン(Operation Triton)に引き継がれた。2015年4月23日、EU政府はイタリアが単独で行っていたOMNと同等の能力を期待し地中海の国境警備予算を3倍に増額することで合意した。この決定に対しアムネスティ・インターナショナルはオペレーションの範囲を拡大しなかったことに対してEUの決定を批判した[16]。数週間の後、EUはローマを本拠地とし、イタリアの海軍提督、エンリコ・クレデンディーノ(Enrico Credendino)の指揮する新たな作戦、EU Navfor Med(英語版)の開始を決定した[17]

ユーロスタットに拠れば、2014年の欧州連合加盟国が受け取った難民申請は626,000件で、これは672,000件の申請を受けた1992年以降で最多となる[18]。このうちの16万人が初回申請で受理された。初回で受理されなかった難民のうち約2万3千人が追加措置で庇護された。EUの難民庇護申請の約3分の2をドイツスウェーデンイタリアフランスが受け持ち、承認された庇護難民のうちの3分の2を受け持っている。EU加盟国それぞれの人口との比率でみれば、ハンガリー、スウェーデン、オーストリアが一人当たりの難民庇護申請の届出数が上位にくる[19][20]

2017年には玄関口となっていた国との協力もあって100万人を超えていた移民、難民の流入が20万人まで減少した[21]
背景
シェンゲン・エリアとダブリン規約青い範囲がシェンゲン圏

シェンゲン協定には26の国家(EUからの22カ国に加え欧州自由貿易連合から4カ国)が参加している。シェンゲン圏内では国境での検問が廃止され、一方で圏内外での往来が制限される。そして圏外との国境を抱える国々は国境管理の義務を負う。そしてダブリン規約(Dublin III Regulation)はEUの参加国に難民申請の調査を行う責任を負わせている。申請者の親族の居住地や人道的な理由が無い限りは、規定では不法移民(難民)が最初に到着した国が彼らに対する責任をもつことになっている。これはアサイラム・ショッピング、すなわちEU圏内の国々へ複数の難民申請を行う行為、あるいはアサイラム・オービッティング、すなわち目当ての国への難民申請をするために国々渡り歩く行為を防ぐための規定である。もしも不法移民(難民申請者)が別の加盟国に移動した場合は彼らが最初に到着した国へ送還することができる。この規定はシェンゲン圏外との国境を抱える国々、たとえばイタリア、ギリシャ、ハンガリーなどに対して責任を押し付けすぎていると批判された[22][23][24]
2015年以前の国外出生者の割合2010年から2014年のEU圏内の統計。EU圏外からの移民者数(緑)[25]、難民申請者数(オレンジ)[26]、不法越境者数(青)[27]

2014年のEU圏内居住者の圏外出生者数は3300万人でEU加盟28カ国の総人口(5億人強)の7%を占める。比較のために挙げると日本の総人口における国外出生者は1.63%[28]ロシアは7.7%[29]アメリカが13%、カナダが20%、オーストラリアが27%である。難民を除いた、つまり正規の手続きを踏んだEU圏内への移民者数は2010年から2013年の間に140万人であり、2010年以降減少している[25]

2014年以前の難民申請の2014年以前のピークは1992年(672,000件)、2001年(424,000件)、2013年(431,000件)である。2014年は626,000件を記録した[18] 。国際連合難民高等弁務官事務所によれば2014年末までに難民を受け入れた国は規模の大きい順にフランス(252,264件)、ドイツ(216,973件)、スウェーデン(142,207件)、イギリス(117,161件)である。上位10カ国にヨーロッパ以外の国は出てこない[30]

2014年以前に欧州対外国境管理協力機関が発見した不法越境者数のピークは、2011年(141,051名)である。この数字は陸路越境、海路越境の区別をしておらず、難民を装っているだけの人々も含まれる[31]
世界的な難民危機

国際連合難民高等弁務官事務所によれば、2014年末までに全世界で住む場所を追われた人々(国内避難民を含む)は5950万人に達し、第二次大戦以降では最多[32]、2011年以降では40%増加している。5950万人のうち、1440万人が難民(パレスチナ難民を除く)で、2013年比で270万人(23%)増加している。加えて180万人は受け入れ先を探している難民申請者である。シリア難民が2014年での最大の難民グループ(390万人、前年比155万人増)で、ここ30年間で常にトップに位置していたアフガニスタン難民のグループ(260万人)を追い越した[30]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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