2009年アメリカ復興・再投資法
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2009年アメリカ復興・再投資法
American Recovery and Reinvestment Act of 2009

正式題名雇用の維持および創出、社会基盤への投資、エネルギー効率と科学、失業者への援助、2009年9月30日までの会計年度において州と地方自治体の財政安定と、そのほかの目的のために追加の歳出を行う法律 (An act making supplemental appropriations for job preservation and creation, infrastructure investment, energy efficiency and science, assistance to the unemployed, State, and local fiscal stabilization, for the fiscal year ending September 30, 2009, and for other purposes)
頭字語(口語)ARRA
通称復興法 (The Recovery Act)、景気刺激策 (Stimulus)、景気刺激パッケージ (The Stimulus Package)
制定議会アメリカ合衆国第111議会
施行日2009年2月17日
引用
一般法律 ⇒111-5
Stat.123 Stat. 115
立法経緯


デイヴ・オウビー(英語版)(民主党ウィスコンシン州選出)議員が2009年1月26日にH.R. 1として下院に提出。

歳出委員会および予算委員会で審議。

2009年1月28日に下院通過。( ⇒244?188

2009年2月10日に上院通過。( ⇒61?37

2009年2月12日に合同協議委員会により報告。 2009年2月13日に下院にて( ⇒246?183) 2009年2月13日に上院にて承認。( ⇒60?38

2009年2月17日にバラク・オバマ大統領が法案に署名。

2009年アメリカ復興・再投資法(2009ねんアメリカふっこう・さいとうしほう、英語: American Recovery and Reinvestment Act of 2009、略称ARRA)(Pub.L.  ⇒111?5)、通称景気刺激策 (the Stimulus)、復興法 (The Recovery Act) は、アメリカ合衆国第111議会において2009年2月に制定され、バラク・オバマ大統領が2009年2月17日に署名して成立した、景気刺激対策法である。

ARRAの主な目的は、2000年代後期の大不況に対応して、できるだけ早く雇用を維持・創出することであった。2次的な目的は、大不況でもっとも影響を受けた人々に一時的な救済策を提供し、社会基盤・教育・保健・再生可能エネルギーへ投資することであった。この景気刺激策の予算額は2009年から2019年までの間に、制定時点で7870億ドル、後に8310億ドルと見積もられた[1]。法律には、社会基盤、教育、保健、エネルギー、連邦税の優遇措置への直接的な支出と、失業給付の拡大やその他の社会福祉の提供が含まれている。ARRAの理論的裏付けはケインズ経済学にあり、不況に際しては雇用を維持しさらに経済が衰退するのを防ぐために、政府は公的支出を拡大することで、民間の支出減少を相殺するべきだというものである。しかし法律が通過して少し後に、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンは、この法律を支持しつつも、「民間の支出減少の3分の1もカバーできていない」として、あまりに規模の小さすぎる景気刺激策だと批判した[2]
制定過程

法案の上院案および下院案はどちらも、主に民主党の議会委員会の指導者とスタッフによって書かれた。法案関連の作業はオバマ大統領が2009年1月20日に政権を引き継ぐ前に開始されていたため、オバマ次期大統領の首席補佐官らは委員会の指導者やスタッフたちと複数回の会合を開催した。2009年1月10日にオバマ次期大統領の運営陣は、検討中の典型的な景気刺激策による雇用への影響の予備的な分析を示した報告書を発行した[3]
下院アメリカ復興・再投資法の公式ウェブサイト"Recovery.gov"の公式紋章

下院の法案H.R. 1は、2009年1月26日に提出された[4]。法案は下院歳出委員会の委員長である民主党のデイヴ・オウビーが提案者となり、他に9人の民主党議員が共同提案者となった。1月23日に下院議長ナンシー・ペロシは、2009年2月16日までにはオバマ大統領に署名を求めて提出できるように審議が進んでいると述べた[5]。本会議での投票には206の修正案が提案されていたが、そのうち11のみが採用され、これにより法律の迅速な成立が可能となった[6]

2009年1月28日に下院では、賛成244、反対188により法案が可決された[7]。民主党議員は11人を除いて賛成したが、177人の共和党議員は反対した(共和党の1人は投票しなかった)[8]
上院

上院の法案S. 1は2009年1月6日に提案され、後に下院法案の修正案S.Amdt. 570に置き換えられた。法案は、上院少数党院内総務ハリー・リードが提案者となり、他の16人の民主党議員と民主党会派に加わってはいるが無所属ジョー・リーバーマンが共同提案者となった。

上院は2009年2月2日の週に2750億ドルの税引当の件から法案審議を開始した[5]。上院案と下院案の重要な相違点は、代替ミニマム税(英語版)の修正の1年延長を含めるかどうかで、これにより法案の予算総額は700億ドルの増額となるものであった。

共和党議員は、減税を増やし社会基盤以外に関連した支出を減らすようにする修正案をいくつか提案した[9]。共和党議員は、社会基盤への支出を増額し、住宅税額控除を7,500ドルから15,000ドルに倍増させ、またその適用を初回のみではなくすべての住宅購入者に拡大することを強く求めており、オバマ大統領と上院民主党議員は共和党議員の提案に妥協する用意があると示唆していたものの、結局法律に組み入れられることはなかった[10]。他に検討された修正案としては、2009年自由法、上院財務委員会のマリア・キャントウェル(英語版)(民主党)とオリン・ハッチ(共和党)の提案した電気自動車への税制優遇措置を含めること[11]、共和党のジム・デミントの提案した「宗派的な教育、宗教上の礼拝、神学校または神学部、あるいは施設の機能の本質的な部分に宗教上の役割が含まれるもの」への支出を禁じる文言を法案から削ること[12]などがあった。

上院は、オバマ大統領の強い後押しを受けて2月7日に特別土曜討論会を開催した。上院は法案に関する議事を打ち切って法案自体の採決を行うために本会議に送るという動議を2月9日に採決し、61対36(棄権2)で可決した[13] 。2月10日に、上院は61対37(棄権1)で可決した[14]。民主党議員は全員が賛成したが、共和党議員は3人のみ(スーザン・コリンズオリンピア・スノーアーレン・スペクター)が賛成し、このうちスペクターは後に民主党に転じている[15]。この時点で、上院の法案の予算額は8380億ドルであった[16]
下院・上院・両院協議会の法案の比較バラク・オバマ大統領が2009年2月17日にコロラド州デンバーで署名してARRAは成立した。副大統領のジョー・バイデンが背後に立っているバラク・オバマ大統領が、ARRAで認可された2,000番目のプロジェクトについて演説している。副大統領のジョー・バイデンおよび運輸長官レイモンド・ラフッドとともに

オバマの原案により近かった下院の法案に対して、上院の共和党議員は前代未聞の水準の法案修正(ほぼ1500億ドルに達する)を行った。修正でもっとも大きな損をしたのは州政府[17](財政安定基金を厳しく制限した)と低収入労働者(税額控除を削減した)で、これに対して利益を得たのは高齢者(オバマ原案および下院法案ではほとんど除外されていた)と高収入の納税者であった。上院が可決した8270億ドルの経済再建策と下院が可決した8200億ドル、そして両院協議会で最終的に可決した7870億ドルの策は、この額の中でもさらに大きな違いがある。追加の債務が10年余りにわたって3500億ドル追加された。多くの歳出は2年で期限切れとなる[18]

上院案と下院案で主な歳出先の違いとしては、上院案でより多く支出するのが保健対策(1533億ドル対1400億ドル)、再生エネルギープログラム(740億ドル対394億ドル)、住宅購入者税額控除(355億ドル対260億ドル)、高齢者への新たな支払いと代替ミニマム税期限の1年延長である。下院案が多く支出するのは教育(1430億ドル対1191億ドル)、社会基盤(904億ドル対620億ドル)、低所得労働者と失業者への支援(715億ドル対665億ドル)である[16]
支出(上院5520億ドル対下院5450億ドル).mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}.mw-parser-output .listen .side-box-text{line-height:1.1em}.mw-parser-output .listen-plain{border:none;background:transparent}.mw-parser-output .listen-embedded{width:100%;margin:0;border-width:1px 0 0 0;background:transparent}.mw-parser-output .listen-header{padding:2px}.mw-parser-output .listen-embedded .listen-header{padding:2px 0}.mw-parser-output .listen-file-header{padding:4px 0}.mw-parser-output .listen .description{padding-top:2px}.mw-parser-output .listen .mw-tmh-player{max-width:100%}@media(max-width:719px){.mw-parser-output .listen{clear:both}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .listen:not(.listen-noimage){width:320px}.mw-parser-output .listen-left{overflow:visible;float:left}.mw-parser-output .listen-center{float:none;margin-left:auto;margin-right:auto}}.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}オバマ大統領の議会合同協議会に際しての演説、ジョー・バイデン副大統領およびナンシー・ペロシ下院議長とともに第111議会においてのオバマ大統領の演説議会合同協議会前の演説(2009年2月24日) (52:20)バラク・オバマ大統領の、2月24日の議会合同協議会前の演説。アメリカ復興・再投資法が演説の焦点であった。議会合同協議会前の演説(2009年2月24日)(音声のみ)音声のみこれらの音声や映像がうまく視聴できない場合は、Help:音声・動画の再生をご覧ください。

低所得者・失業者支援

上院 - 470億ドルを12月31日から追加の失業者給付として支給する、1週あたり25ドルの増加、職業訓練の提供、2011会計年度に165億ドルを費やしてフードスタンプ支給を12パーセント増加させる、1回のボーナス支払いを行う、30億ドルを一時的福祉の支払いに費やす

下院 - 失業保険を同等の拡大、200億ドルを費やしてフードスタンプ支給を14パーセント増加させる、25億ドルを一時的福祉の支払いに費やす、10億ドルを住宅暖房補助金に使う、10億ドルを地域活動団体に費やす


直接現金支給

上院 - 170億ドルを追加補償所得および社会福祉の受給者、年金の受給者に1回のみ300ドルの支給に費やす

下院 - 40億ドルを高齢者に対する追加補償所得および社会福祉障害者保険の追加支払いに充て、450ドルを個人に、630ドルを結婚している夫婦に支給する。

議会合同協議会 - 追加補償所得、社会福祉(通常および障害者)保険、退役軍人年金、鉄道退職者、州退職者年金の受給者に対して1回のみ250ドルの支給を行う[19]


社会基盤

上院 - 460億ドルを交通プロジェクトに支出する、うち270億ドルを高速道路と橋の建設および修理に、115億ドルを都市交通や鉄道のプロジェクトに費やす、46億ドルを陸軍工兵隊に、50億ドルを公共住宅の改善に、64億ドルを浄水・飲料水関連のプロジェクトに支出する

下院 - 470億ドルを交通プロジェクトに支出する、うち270億ドルを高速道路と橋の建設および修理に、120億ドルを都市交通(うち75億ドルはバスなどの設備購入)に費やす、310億ドルを連邦政府の建物およびその他の社会基盤の建設と修理に費やす


保健

上院 - 1985年包括的予算調整法(英語版) (COBRA) のプログラムに基づき、非自発的な失業者に対する健康管理保険の継続費用を補助するために210億ドル支出する、州政府に対してメディケイドの費用を870億ドル支援する、健康情報技術システムの近代化に220億ドルを支出する、健康に関する研究とアメリカ国立衛生研究所の設備の建設に100億ドルを支出する

下院 - COBRAのプログラムに基づき非自発的な失業者に対する健康管理保険の継続費用を補助するために、あるいはメディケイドを通じて健康管理を提供するために、400億ドル支出する、州政府に対してメディケイドの費用を870億ドル支援する、健康情報技術システムの近代化に200億ドルを支出する、予防的対策に40億ドルを支出する、地域健康センターに15億ドルを支出する、鳥インフルエンザ対策に4億2000万ドルを支出する、エイズ・性感染症・結核対策に3億3500万ドルを支出する


議会合同協議会 - 2008年9月1日から2009年12月31日までの間にレイオフされた労働者に対して、65パーセントのCOBRA補助金を9か月間支給する、すでにレイオフされていた労働者についてはCOBRA補助金を60日間支給する[20]

教育

上院 - 教育支援金の削除を回避し包括補助金を提供して州財政を支援するために550億ドルを支出する、特別教育と落ちこぼれ防止法(英語版)のために学区に対して250億ドルを支出する、ペル・グラント(英語版)(大学生向けの返済不要奨学金)の最大支給額を400ドル増やして5,250ドルに拡大するために140億ドルを支出する、ヘッドスタートのために20億ドルを支出する

下院 - 州および学区に対して同様の支援を行う、学校の近代化のために210億ドルを支出する、ペル・グラントの最大支給額を500ドル増やして5,350ドルに拡大する、ヘッドスタートのために20億ドルを支出する

議会合同協議会 - 議会報告書はほとんどの教育支援を州財政安定化基金(教育省が管理する)に統合し、膨大な制約付きであるがこの基金に関する権限を州知事に与えた、州知事は教育への資金拠出を2008年のレベルに復帰させるために450億ドルを支出することを求められていたが、2005年から2006年にかけての水準を維持しようと州に求めることはほとんど不可能であった[21]ネバダ州のように景気後退の影響を強く受けている州は、2005年から2006年にかけての教育への支出水準を維持する資金を見出すことは実質的に不可能であった[22]アーカンソー州ノースカロライナ州のようにこの時点で教育支出を削減していなかった州については、何も支援されなかった[23]、これは50州の間で連邦法を最大限に利用するためにどのように予算を組み替えればよいかという法的・政治的な闘争を招く結果となった、多くの州では、州の予算を他の目的に使えるようにするために、教育への支出を2005年から2006年にかけての最小水準にさらに削減することになり、連邦政府の総歳出額に比べると教育への支出額はかなり減ることになった


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