2ストローク機関
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現在、2ストロークのガソリンエンジンが多用されているのは、極めて小型のエンジンでなければシステムの成立しにくい機器類(小型発電機草刈機チェーンソーなどの可搬機器、可搬消防ポンプ、ラジコン模型用エンジンなど)が主である。そのほとんどで、ジョセフ・デイのコンセプトに基づく、バルブレス・シリンダーポート、クランクケース圧縮、混合燃料潤滑方式が採用されている。
チャンバー

バルブレス・シリンダーポート2ストロークエンジンにおける圧縮効率の低下や吹き抜けに対する策として、ガソリンエンジンの場合はチャンバーを利用する方法がある(詳細はチャンバーを参照)。

チャンバーの形状は特定の回転域で充填効率が高まり、高トルクが得られる回転域「パワーバンド」が表れる事が多い。中には、YPVSのようにシリンダーの排気ポートを電動で可変させたり、V-TACSのようにサブチャンバーを開閉させる事によりパワーバンドを広げる工夫もある。YEISのように吸気側にチャンバーを設ける工夫もある。1970年代中頃の2輪ロードレース世界選手権WGPでは、500 ccクラスにおいて日本メーカー参戦とともに4気筒500 ccエンジンが台頭していくが、その当初からクランク回転180度ごとに2気筒ずつ点火する180度等間隔同爆がヤマハスズキによって採用、ホンダは120度(3気筒)/90度(4気筒)ごとに1気筒ずつの等間隔爆発が採用されていた。その後1992年にデビューした92年型ホンダ・NSR500ではクランク回転の292度と68度地点で点火される不等間隔同爆エンジンが採用された。これは最高出力を求めていった結果、1万回転近くから1万2千回転前後で突然最大トルクが発生する、パワーバンド(最大トルク発生回転域)が狭い、扱いがシビア(いわゆるピーキー)であった今までのレース用の大出力2ストロークエンジンから、ピークパワーやレスポンスを犠牲にしても、爆発を不等間隔にしてタイヤの空走区間を増やすことによって、特にホンダが悩まされていたトラクション性能を劇的に向上させた。結果大幅なラップタイムの短縮に加え、当時多発していた転倒も扱いやすい特性で減少し高い安定度も実現した。その圧倒的な差から、ライバルの各メーカーでも270度-90度や300度-60度などの不等間隔同爆エンジンが採用されるきっかけとなった経緯がある。
2ストロークガソリンエンジン185ccの2ストロークエンジンを搭載したボンド・ミニカーLJ50型2ストロークエンジンを搭載したスズキ・ジムニー(1976年)

ガソリンを燃料とするものは、小出力の小型機器に用いられる。

2ストロークガソリン機関では、ガソリン空気混合気を吸気し、これを掃気 (en:Scavenging (automotive)) にも用いなければならないので、クランクケース内で一次圧縮を行う必要がある。すなわち、燃焼室側が圧縮行程の時、同時にピストン上昇による負圧を利用して吸気を行う。この吸気は燃焼室側が膨張行程でピストンが下降する際に同時に圧縮され(一時圧縮)、下死点付近で開いた掃気ポートより噴き出して膨張行程を終えた残留燃焼ガスを排気ポートから追い出す(掃気)と同時に新気でシリンダ内を充填する。

FI(燃料噴射装置)については1960年代からオートバイ競技の世界で試行錯誤が見られるが、2ストロークエンジンのピストン速度の範囲に対応するのが難しく、速度の範囲が狭い船舶用を除いては長らく実用化されなかった。1999年にオートバイメーカーのアプリリアがオービタル社およびシーメンス社とともに「Ditechシステム」を開発。初めて2ストロークにおけるFIと直噴を実用化して50 ccスクーターに搭載し、燃費を従来の40 %、排出ガスに含まれる有害物質を80 %それぞれ削減することに成功した[6]

掃気時にはシリンダ内の残留ガス(排気)と新気の混合が避けられず、残留ガスを全て排気しようとすると、混合した新気(未燃ガスとオイル)も一部排出されてしまう。このため、排気ガスには大量の炭化水素が含まれるが、燃焼室の温度が低いために窒素酸化物は少ない。炭化水素は触媒で燃やすことが可能であり、もともと窒素酸化物は少なく対応が不要のため、当時の排気ガス規制は合格することができたが、将来的に窒素酸化物の規制が厳しくなると合格できる目処はたたなくなっていった。

その為、西ヨーロッパおよび日本の普通自動車及び小型自動車では4ストロークエンジンの性能が向上してきた1960年代後半にはほとんど姿を消しており、排気量が小さな日本の軽自動車においても1980年代に2ストロークエンジンは絶滅した。

世界保健機関 (WHO) は東南アジアと太平洋地域において大気汚染によって毎年、537,000人が死亡していると報告している。1億台に及ぶ2ストロークエンジンのタクシーとオートバイが要因である[7][リンク切れ][8][リンク切れ]。

ただし現在でも比較的排ガス規制の緩いオートバイやチェーンソーなどでは、改良を重ねながら2ストロークガソリンエンジンが用いられている。また4ストロークの技術を応用したり、対抗ピストン型にすることで4ストロークガソリンエンジンの環境性能を凌ぐ可能性があるとも考えられており、実験開発は一部のメーカーで継続されている。
2ストロークガソリンエンジンの特徴

小型・軽量・単純・安価でメンテナンスが簡単。4ストロークエンジンの
カムポペットバルブを駆動するシリンダーヘッド部分が不要で構造が単純である事から。ただしメンテナンスの頻度は増える[9]ため、一長一短の面もある。

気筒内のガス交換の不完全さから、アイドリング時の回転は不整で、排気脈動も不整となる(充填効率や静粛性、快適性で劣る)。振動も大きいため、これを打ち消す用のカウンターバランサーが用いられることもある[10]

ガソリンとオイルが混ざる都合上、2ストローク専用のオイルが必要であり、さらに走行後は補充の必要がある。

一部の例外を除き、燃料供給装置は基本的にはキャブレターとなる。

気筒内のガス交換の不完全さに加え、掃気効率が悪く、完全燃焼せず、未燃焼ガスの吹き抜けが起こるためCOHCが多く、エンジンオイルが燃料と一緒に燃焼するため、排気ガス中に有害物質が多い。同じ理由で、4ストロークエンジン比で燃費が劣ると共に、エンジンオイルの消費量が多い。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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