2ストローク機関
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2ストローク機関(ツーストロークきかん)は内燃機関の一種で、2行程で1周期とする2ストローク1サイクルレシプロエンジン式の名称。英語のtwo-stroke cycleの省略で、昭和年間以前には2サイクル機関・2行程機関とも呼ばれた。
概要
定義動弁機構を持たない一般的2ストローク・ガソリンエンジンの模式図。潤滑油は燃料に混合するか、もしくは独立配管で潤滑箇所に供給され、燃料と一緒に燃やされる。この形式のエンジンでは、掃気圧力と一次圧縮の圧力は、いずれもピストンの下降に伴うクランク室の容積変化により得ている

2ストロークエンジンは1往復(行程換算2回 (=2 stroke))で1周期を完結するエンジンで、ピストン1往復(クランクシャフト1回転)ごとに燃料燃焼する。



2ストローク・ガソリンエンジンの行程

行程は以下の通りである。
上昇行程 : ピストンが上昇する間に排気と
吸気の圧縮を行う。

下降行程 : 燃料の燃焼(爆発)によりピストンが下降し、その後半で排気を行う。

ここまでの行程で動力伝達軸であるクランクシャフトは1回転する。

掃気は2ストローク機関特有の動作で、圧力のかかった新気(混合気または空気)をシリンダー内へ導入し、その勢いとピストンの圧縮力で同時に燃焼ガス排出するものであり、掃気ポートがピストンの下降によって開かれ、上昇によって閉じられるまで続く。掃気に圧力を与えることを一次圧縮と呼び、ピストンの下降に伴うクランクケースの容積変化による方法と、外部に装備した圧縮機または過給器による方法とがある。

このように、4ストローク機関での4行程を2つずつ同時に行うことで、ピストン上死点で毎回燃焼(点火/着火)が起こることが特徴である。
歴史
ルノアール・エンジン1861年製のルノアール・ガスエンジンの模式図

最初の実用的な内燃2ストローク・エンジン(同時に、最初の実用内燃エンジン)となったのは、1858年に開発されたガス燃料機関のルノアール・エンジンである。考案者はベルギー出身でフランスで活動した技術者ジャン=ジョゼフ・エティエンヌ・ルノアール (Jean Joseph Etienne Lenoir) で、石炭ベースのガス灯用ガス ("Illuminating gas") を燃料とし、電気点火装置 (double-acting electric spark-ignition) による火花点火方式を用いた。この発明は、1860年にフランスで特許を取得している。

工場での定置動力等には蒸気機関より軽便・簡易で、当時普及が進んでいた都市のガス供給網を利用できるメリットもあって、ある程度普及したが、後世の2ストローク・エンジンのような一次圧縮がなされないため、熱効率は著しく低かった。ルノアールは「機関内の圧力が高い構造は危険ではないか」と危惧していたからである。
クラーク式2ストロークエンジンクラークのエンジンに類似した構造を持つ1910年代のユニフロー2ストローク単気筒ガソリンエンジン。

2ストロークのガソリンエンジンは、1878年に、スコットランド出身のデュガルド・クラーク (en:Dugald Clark 1854-1932) が最初に製造し、1881年に英国特許を取得した[1]

既にこの時代には、圧縮行程を含む4ストロークのオットーサイクル・エンジンが実用化されており、燃料ガスの圧縮によって熱効率が高まることが認識されていた。

クラークのエンジンは、エンジン本体外部に独立したシリンダー式の圧縮装置・掃気装置を装備して4ストローク・エンジンの圧縮行程に代えたものであり、4ストロークエンジンに比肩する性能を出すことができたが、4ストロークエンジン同様に専用のバルブを設ける必要があるなど、構造がやや複雑で、掃気機構のフリクションロスもあった。

クラークによる、エンジン本体の外部に圧縮・掃気装置を設ける手法は、事実上世界初[2]の過給機付きエンジンともいえるものであり、のちにより構造簡略な回転式のスーパーチャージャーに置き換えられ、2ストローク、4ストロークの別なく利用されることになった。特に2ストローク・ディーゼルエンジンのメカニズムは、燃料供給とその点火(ディーゼルエンジンでは着火)手段を除けば原理的にはクラークの手法を踏襲していると言ってよい。ただし、クラーク本人は「シリンダー式掃気装置は加圧ポンプではなく、単にシリンダー内の掃気を補助してスムーズに排気管へ燃焼ガスを排出させる為の装置に過ぎない」という主旨を述べていたとされる[3][4]
デイ式2ストロークエンジン

現在よく知られている形のシンプルな2ストローク・ガソリンエンジンは、1889年にイギリスのジョゼフ・デイ (Joseph Day 1855-1946) が発明した。意図としては、先行して開発された各種のガソリンエンジンの特許回避を目的としていた。

この単純なエンジンは「省略できる部品は全て省略し、4ストロークエンジンでは分離して完全に行われていた各行程を、効率を犠牲にして統合・簡略化した」ことで実現された。気筒頭の点火プラグを除いては、ポペットバルブすら持たない簡潔な構造故に、絶対的な効率以上に軽量・簡易性が要求される小型2ストロークエンジンの完成形となった。

その作動メカニズムは以下に示すいくつかの特異な要素を組み合わせて成立しており、極めてユニークな着想の集合体と言える。
バルブレス・シリンダーポート方式
シリンダー側面に吸排気それぞれの専用孔(ポート)を開け、その閉塞・開放は上下に往復するピストンの側面を利用する。これによって、燃焼室やクランクケースの外部に駆動装置を展開させる、複雑なバルブ開閉機構がいっさい省略できた。このバルブ省略のアイデアは、デイのもとで働いていたフレデリック・クック(Frederick Cock)の考案ともされる。
クランクケース圧縮および燃料ガス掃気
クランクシャフト回りのクランクケース部を密閉し、ピストンが上昇することでクランクケース内に生じる負圧を利用して、燃料ガスを導き入れる。そしてこのガスを、ピストンの下降によって予備圧縮する。これでクラーク式2ストローク機関のような独立の圧縮装置や、4ストロークエンジンにおける圧縮行程が不要になったが、クランクケースの密閉性確保には限度があり、吸入負圧は4ストロークエンジンほど高くない。燃焼室内の点火でピストンが押し下げられると、予備圧縮された新しい燃料ガスが掃気ポート経由で燃焼室に押し込まれ、排気ガスを排気ポートから押し出す。これで4ストロークエンジンにおける排気行程が不要になり、圧縮行程と合わせ2行程分省略した2ストロークエンジンを成立させることができた。だがこの構造で、圧縮効率の低下や、まだ燃焼していない新しいガスの一部が排気ガスと共に排出されてしまう「吹き抜け」の損失が生じた。

さらに、シリンダーポート構造やクランクケース圧縮機構を成立させるための特異な技術的着想として、混合燃料潤滑が取り入れられた。
混合燃料潤滑
内燃機関は機構上、運転中にエンジン内部のピストンリングや腰下(コンロッドやクランクシャフト、クランクケース)など可動部の適切な潤滑が常時行われないと、焼き付きを発生し破損してしまう。シリンダーポート構造やクランクケース圧縮機構を用いると、一般の4ストロークエンジンのようなクランクケース内へのオイル貯留も最低限の潤滑もできず、そのままではシステムとして成立しない。そのためデイ式エンジンでは、燃料にあらかじめ潤滑油(2ストロークエンジンの場合は2サイクルオイル)を混合し、燃料を使用するだけでエンジン内部の可動・摩擦部分が潤滑されるようにした。これによって潤滑を左右するオイルポンプなどの複雑なメカニズムを一切省略できるという、バルブ省略にも比肩する大きなメリットが生じる。一方、混合した潤滑油は燃料と共に燃えて排出されてしまう。従って潤滑油の消費が大きい不経済な性質がある。また潤滑油は(本来の燃料油と違って)燃焼性は必ずしも良いわけではないので、不完全燃焼や熱効率の低下、排気ポート周囲に付着する煤の発生といったロスの原因にもなる[5]1950年代には2ストロークエンジン自動車の一部で、燃料と潤滑油を別のタンクに貯留し、キャブレター直前で自動混合する取扱い省力化が試みられるようになる。その後、混合された燃料の供給を絞った状態だとエンジンの焼けつきが生じやすいことに着目し、1960年代には混合燃料を使わず、専用のオイルポンプと配管を介して潤滑油を潤滑箇所に圧送する手法が現れたが、メカニズムが複雑化してしまった一方、潤滑油を燃やしてしまう根本に変わりはない。

デイ式の2ストローク・エンジンは、小型の簡易なガソリンエンジンにおける決定的な方式となった。第一次世界大戦以降に広く用いられるようになり、特にDKWザックス (Fichtel & Sachs) などのドイツのメーカーにおいてその使用が顕著だった。小型のものを中心としたオートバイはもとより、1930年代以降は小型自動車にも盛んに使用されたが、1960年代以降自動車用から廃れ始め、1990年代になると2輪車でも排出ガス規制の面から4ストロークエンジンにその地位を譲るようになる。

現在、2ストロークのガソリンエンジンが多用されているのは、極めて小型のエンジンでなければシステムの成立しにくい機器類(小型発電機草刈機チェーンソーなどの可搬機器、可搬消防ポンプ、ラジコン模型用エンジンなど)が主である。


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