1984年_(小説)
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1948年12月4日、オーウェルはようやく『1984年』の最終稿をセッカー・アンド・ウォーバーグ社(Secker and Warburg)へ送り、同社から1949年6月8日に『1984年』が出版された[5][6]

1989年の時点で、『1984年』は65以上の言語に翻訳される成功を収めた[7]。『1984年』という題名、作中の用語や「ニュースピーク」の数々、そして著者オーウェルの名前自体が、今日では政府によるプライバシーの喪失を語る際に非常に強く結びつくようになった。「オーウェリアン(Orwellian、オーウェル的)」という形容詞は、『1984年』などでオーウェルが描いた全体主義的・管理主義的な思想や傾向や社会を指すのに使われるようになった。

当初、本作は『ヨーロッパ最後の人間(The Last Man in Europe)』と題されていた。しかし1948年10月22日付の出版者フレデリック・ウォーバーグに対する書簡で、オーウェルは題名を『ヨーロッパ最後の人間』にするか、『1984年』にするかで悩んでいると書いているが[8]、ウォーバーグは『ヨーロッパ最後の人間』という題名をもっと商業的に受ける題名に変えるよう示唆している[9]。オーウェルの題名変更の背景には、1884年に設立されたフェビアン協会の100周年の年であることを意識したという説[10]、舞台を1984年に設定しているジャック・ロンドンのディストピア小説『鉄の踵(The Iron Heel、1908年刊行)』やG.K.チェスタトンの『新ナポレオン奇譚(The Napoleon of Notting Hill、1904年刊行)』を意識したという説[11]、最初の妻アイリーン・オショーネシーの詩、『世紀の終わり、1984年(End of the Century, 1984)』からの影響があったとする説などがある[12]アンソニー・バージェスは著書『1985年(1978年刊行)』で、冷戦の進行する時代に幻滅したオーウェルが題名を執筆年の『1948年』にしようとしたという仮説を上げている。ペンギン・ブックス刊行のモダン・クラシック・エディションから出ている『1984年』の解説では、当初オーウェルが時代設定を1980年とし、その後執筆が長引くに連れて1982年に書きなおし、さらに執筆年の1948年をひっくり返した1984年へと書きなおしたとしている[13]

オーウェルは1946年のエッセイ『なぜ書くか(Why I Write)』では、1936年以来書いてきた作品のすべてにおいて、全体主義に反対しつつ民主社会主義を擁護してきたと述べている[14]。オーウェルはまた、1949年6月16日全米自動車労働組合のフランシス・ヘンソンにあてた手紙で、「ライフ」1949年7月25日号および「ニューヨーク・タイムズ・ブックレビュー」7月31日号に掲載される『1984年』からの抜粋について、次のように書いている。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}わたしの最新の小説は、社会主義イギリス労働党(私はその支持者です)を攻撃することを意図したのでは決してありません。しかし共産主義ファシズムですでに部分的に実現した(…)倒錯を暴露することを意図したものです(…)。小説の舞台はイギリスに置かれていますが、これは英語を話す民族が生来的に他より優れているわけではないこと、全体主義はもし戦わなければどこにおいても勝利しうることを強調するためです[15]

しかしアメリカなどでは、一般的には反共主義のバイブルとしても扱われた。アイザック・ドイッチャーは1955年に書いた『一九八四年 - 残酷な神秘主義の産物』の中で、ニューヨークの新聞売り子に「この本を読めば、なぜボルシェヴィキの頭上に原爆を落とさなければならないかわかるよ」と『1984年』を勧められ、「それはオーウェルが死ぬ数週間前のことだった。気の毒なオーウェルよ、君は自分の本が“憎悪週間”のこれほどみごとな主題のひとつになると想像できたであろうか」と書いている[16]
あらすじ

1950年代に勃発した第三次世界大戦核戦争を経て、1984年現在、世界はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの三つの超大国によって分割統治されている。さらに、間にある紛争地域をめぐって絶えず戦争が繰り返されている。本作の舞台となるオセアニアでは、思想・言語・結婚などあらゆる市民生活に統制が加えられ、物資は欠乏し、市民は常に「テレスクリーン」と呼ばれる双方向テレビジョン、さらには町なかに仕掛けられたマイクによって屋内・屋外を問わず、ほぼすべての行動が当局によって監視されている。

オセアニアの構成地域の一つ「エアストリップ・ワン(旧英国)」の最大都市ロンドンに住む主人公ウィンストン・スミスは、真理省の下級役人として日々歴史記録の改竄作業を行っていた。物心ついたころに見た旧体制やオセアニア成立当時の記憶は、記録が絶えず改竄されるため、存在したかどうかすら定かではない。ウィンストンは、古道具屋で買ったノートに自分の考えを書いて整理するという、禁止された行為に手を染める。ある日の仕事中、抹殺されたはずの3人の人物が載った過去の新聞記事を偶然に見つけたことで、体制への疑いは確信へと変わる。

「憎悪週間」の時間に遭遇した同僚の若い女性、ジュリアから手紙による告白を受け、出会いを重ねて愛し合うようになる。古い物の残るチャリントンという老人の店(ノートを買った古道具屋)を見つけ、隠れ家としてジュリアと共に過ごした。さらに、ウィンストンが話をしたがっていた党内局の高級官僚の1人、オブライエンと出会い、現体制に疑問を持っていることを告白した。エマニュエル・ゴールドスタインが書いたとされる禁書をオブライエンより渡されて読み、体制の裏側を知るようになる。

ところが、こうした行為が思想警察であったチャリントンの密告から明るみに出て、ジュリアと一緒にウィンストンは思想警察に捕らえられ、「愛情省」で尋問と拷問を受けることになる。最終的に彼は、愛情省の「101号室」で自分の信念を徹底的に打ち砕かれ、党の思想を受け入れ、処刑される日を想って心から党を愛すようになるのであった。

なお、本編の後に『ニュースピークの諸原理』と題された作者不詳の解説文が附されており、これが標準的英語の過去形で記されていることが、主人公ウィンストン・スミスの時代より遠い未来においてこの支配体制が破られることを暗示している。筆者のジョージ・オーウェルは、この部分を修正・削除するように要請された際、「削除は許せない」と修正を拒否した[17]
登場人物
ウィンストン・スミス
(英語版)(Winston Smith)
本作の主人公。39歳の男性。真理省記録局に勤務。キャサリンという妻がいるが、別居中。しばしば空想の世界に耽り、現体制の在り方に疑問を持つ。テレスクリーンから見えない物陰で密かに日記を付けており、これはイングソック下において極刑相当の「思考犯罪」行為に値する。見捨てられた存在であるプロレ達に「国を変える力がある」という考えの持ち主。ネズミが苦手。
ジュリア(英語版)(Julia)
本作のヒロイン。26歳の女性。真理省創作局に勤務。青年反セックス連盟の活動員。表面的には熱心な党員を装っているが、胸中ではウィンストンと同じく党の方針に疑問を抱いている。他方、党の情報の改竄など、自分自身にあまり関係のないことには興味がない。ウィンストンに手紙を使って告白し、監視をかいくぐって逢瀬を重ねる。
オブライエン(英語版)(O'Brien)
真理省党内局に所属する高級官僚。他の党員と違い、やや異色の雰囲気を持つ。ウィンストンの夢にたびたび現れる。秘密結社『兄弟同盟』の一員を名乗り、エマニュエル・ゴールドスタインが書いたとされる禁書をウィンストンに渡すが、実際はウィンストンとジュリアを捕らえるために接近する。人心掌握の術に長け、二重思考を巧みに使いこなす。
トム・パーソンズ(Tom Parsons)
ウィンストンの隣人。真理省に勤務。肥満型だが活動的。献身的でまじめな党員。幼い息子と娘がおり、二人とも父と同じく完全に洗脳されている。
パーソンズ夫人(Mrs. Parsons)
トム・パーソンズの妻。30歳くらいだが、年よりもかなり老けて見える。親を密告する機会を虎視眈々と狙っている自分の子供達に怯えている。
サイム(Syme)
ウィンストンの友人。真理省調査局に勤務。言語学者でニュースピークの開発スタッフの一人。饒舌で、また頭の回転も速い。ニュースピークの「言語の破壊」に興奮を覚え、心酔している。
チャリントン(Charrington)
63歳の男性。思想警察。古い時代への愛着を持つ老人を装い、下町で古道具屋を営む。ウィンストンに禁止されたノートを売ったり、ジュリアとの密会の場所を提供したりと彼らを支えるが、後に政府へ密告する。
ビッグ・ブラザー(Big Brother、偉大な兄弟)[注 1]
オセアニアの指導者。肖像では黒ひげをたくわえた温厚そうな人物として描かれている。モデルはヨシフ・スターリン
エマニュエル・ゴールドスタイン(Emmanuel Goldstein)
かつては「ビッグ・ブラザー」と並ぶオセアニアの指導者であったが、のちに反革命活動に転じ、現在は「人民の敵」として指名手配を受けている。「兄弟同盟」と呼ばれる反政府地下組織を指揮しているとされる。党によれば、いかにも狡猾(こうかつ)そうで山羊に似た顔立ちの老人。モデルはレフ・トロツキー。ゴールドスタインという名は、トロツキーの本名「ブロンシュテイン」のもじりである[注 2]
設定
地理『1984年』の世界のおおまかな地図。ピンクはオセアニア、オレンジはユーラシア、黄緑はイースタシア。間の白い地域は紛争地域と非居住地域である。

物語の舞台となる1984年は第三次世界大戦後の世界であり、オセアニア、ユーラシア、イースタシアの3つの超大国に分割統治されている。どの大国も一党独裁体制であり、イデオロギーの実情もそれほど違いはない。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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