16S rRNA遺伝子配列には、高度に保存されたプライマー結合部位に加えて、複数の超可変領域が含まれており、この領域の塩基配列を利用することで、細菌の系統的な同定を行うことができる[26][27]。現在、16S rRNA遺伝子配列シーケンシングは、表現型をベースとした細菌同定法に代わる迅速で安価な代替手法として、医学の分野で広く普及している[28]。また、細菌の識別のみならず、完全に新種な系統の発見や系統関係の再分類にも利用されている[29][30][31]。未培養系統の新種記載においても利用される[32][33]。次世代シーケンシング技術を活用することで、数千の16S rRNA配列を数時間程度で解析することが可能になっており、たとえば腸内細菌叢のメタゲノム研究などに利用されている[34]。 細菌が持つ16S rRNA遺伝子配列は一つとは限らず、複数の16S rRNA遺伝子がゲノム中にマルチコピーで含まれることが多い[35]。また例外として、一部の好熱性古細菌 (例えばThermoprotealesなど)には、16S rRNA遺伝子中にイントロンが含まれており、ユニバーサルプライマーのアニーリングに影響を与える可能性がある[36]。また、サンプル中の真核生物に由来するミトコンドリアや葉緑体が持つ16S rRNAもPCRで増幅されることがある。また、ユニバーサルプライマーを用いた群集構造解析は、環境中に存在している16S rRNAをすべて増幅してしまうために、生存個体のみならず死亡して溶菌したようなRNAの残骸をも増幅しうる。 進化が垂直伝達によって駆動されるという仮定の下では、16S rRNA遺伝子は種特異的であるみなすことができ、原核生物間の系統関係を推測する確実な遺伝的マーカーであると長年考えられてきた。しかしながら、研究が進むに連れ、これらの遺伝子においても遺伝子の水平伝播が発生していることが分かってきた。このような遺伝子の転移性は、特別な大腸菌の遺伝子システムを用いた実験的によって確認されている。すなわち、大腸菌が本来持つ16S rRNA遺伝子を欠失させ、大腸菌とは綱[37]あるいは門[38]レベルで系統が異なる生物種由来の外来16S rRNA遺伝子を導入したところ、変異株として増殖することが示された。このような門レベルで異なる16S rRNA遺伝子の機能的互換性は、サーマスサーモフィルスでも確認されている[39]。さらに、T. thermophilusでは、遺伝子全長の置換と部分的な置換の両方が観察された。部分的な置換は、宿主(T. thermophilus)と外来細菌の16S rRNA遺伝子間でさまざまなキメラが生成されることによる。このように、16S rRNA遺伝子は、垂直遺伝と水平遺伝子伝播を含む複数のメカニズムを通じて進化している可能性があり、特に後者については今まで考えられてきたよりもはるかに高い頻度で発生している可能性がある。 16S rRNA遺伝子はほぼ全ての微生物に存在し、適当に配列変化が起きるため、微生物の系統分類と同定に利用されてきた[40]。ほとんどの細菌および古細菌のタイプ株が持つ16S rRNA遺伝子の配列情報は、NCBIなどの公共データベースから入手できる。ただし、これらのデータベースに格納された配列は、品質が検証されていないことがよくある。そのため、16S rRNA配列のみを収集する2次データベースが広く使用されている。使用されるケースが多い有名なデータベースは以下のとおりである。 EzBioCloudデータベースは、以前はEzTaxon Ribosomal Database Project(RDP)は、関連するツール群やサービスと共にリボソームデータを提供するキュレーションデータベースである。系統的に纏められたリボソームRNA(rRNA)配列のアライメントや系統樹、rRNA二次構造図、およびアライメントの分析や表示をするさまざまなソフトウェアパッケージを提供している[42]。 SILVA Greengenesは、品質管理された包括的な16Sリファレンスデータベースである。de novo系統に基づいて分類されており、標準的な操作上の分類単位を提供する。現在は積極的に維持されておらず、最後の更新は2013年である[44][45]。
解析における注意点
16S rRNA遺伝子の交雑
16S rRNA配列データベース
EzBioCloud
Ribosomal Database Project
SILVA
GreenGenes
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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