黄砂
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ホルチン(科爾沁)砂漠(同上)(参考:中国語版ウィキペディアの記事)[25]

フンサンダク(渾善達克)砂漠(同上)(参考:中国語版ウィキペディアの記事)[25]

ツァイダム(柴達木)砂漠(中国青海省[26]

これらの地域はほとんどが東アジアだが、一部は中央アジアにも及んでいる。またこれ以外に、中国東北部(旧満州)、モンゴル北部、ロシアの一部なども発生源となっている可能性がある[27][28]

これらの発生地は、おおむね年間降水量が500ミリを下回り、所によっては100ミリ以下という乾燥地帯であるため、地表が砂で覆われている[29]。また、乾燥地帯が発生地ということは分かっているものの、飛来する砂塵の分析結果から、発生地は砂漠のみであるとする説、砂漠以外の乾燥した地域であるとする説、その両方であるとする説の3つが唱えられている(下の項参照)[30]
発生北京・天津付近を襲う濃い黄砂(2008年3月1日、PD NASA)中国・朝鮮半島・日本に広がる黄砂(2001年3月21日、PD NASA)低気圧の風に乗って移動する黄砂(2000年4月7日、PD NASA)

現在、黄砂の大部分は、発生地である乾燥地帯を襲う砂塵嵐により大気中に巻き上げられると考えられている[3]

砂塵嵐の発生の度合いは、年中乾燥した土地であればほぼ風だけで決まるが、降水のある土地では風に加えて、地形、表土の湿り具合、積雪凍結の有無、植生(植物の繁茂)、土壌粒子の大きさ、地表の凹凸の粗さなど、地表面のさまざまな状態に左右される[3]。土壌粒子の大きさに関しては、表土や岩石が温度変化を受けたとき、特に凍結と融解を繰り返したときに、風化により砂粒の微細化が進む[3]

1991年に村山信彦がまとめたところ[31]によれば、タクラマカン・ゴビ・黄土高原ともに上空 10mの平均風速が5m/sを超えると、局所的に地面から砂塵が舞い上がり始めるが、これが激しいもの、つまり砂塵嵐に発達するためには、ゴビで10m/s、タクラマカン・黄土高原で6m/s以上の風が吹いている必要がある。砂塵嵐によって砂が巻き上げられる高さは最大で上空7 ? 8km という報告があるが、観測装置が故障することがあるため推定である。また、強い低気圧が通過した前後などは砂塵嵐が多く発生し、黄砂の量も多くなる[3]

また降水量との関係で言うと、発生地で降水量が少ないほど黄砂の発生は多い傾向にある。降水量によって、土壌の乾燥状態、積雪や植物の有無といった地面の状態が変化するためである[3]

なお、砂塵嵐のことを中国語で沙塵暴(簡体字: 沙?暴、.mw-parser-output .pinyin{font-family:system-ui,"Helvetica Neue","Helvetica","Arial","Arial Unicode MS",sans-serif}.mw-parser-output .jyutping{font-family:"Helvetica Neue","Helvetica","Arial","Arial Unicode MS",sans-serif}?音: sh?chenbao シャーチェンパオ)といい、中国の市民の間では「黄砂」という言葉はほとんど使われず、「沙塵暴」をよく用いる[17][18]参考画像・イラクで発生した砂塵嵐(地域は異なるが黒風暴と同じ現象)

沙塵暴は時に猛烈に発達することがあり、中国の気象当局は、瞬間風速25m/s以上で視程が50メートル以下の砂塵嵐を「黒風暴」(簡体字: K?暴、ウイグル語で ???? ?????、英字表記:qara boran、日本語音写:カラボラン、「黒い嵐」「大嵐」「台風」の意[32])または「黒風」と規定、俗に「黒い嵐」などと呼ばれている。黒風暴は、寒冷前線の通過時などで大気が不安定になったときに、ダウンバーストガストフロントなどの局地的突風をきっかけに発生する。水平方向の大きさは小さいもので数百メートル、大きいものは100キロを超える。大きな渦を巻きながら移動し、これが押し寄せてくると、高さ数百メートルの「砂の壁」が迫ってくるように見える。「砂の壁」の中に入ると、急激に周りを飛ぶ砂の量が増え、(昼間であれば)次第に周囲が黄み・赤みを増しながら暗くなり、風も強まってくる。数十分ほど屋外は真っ暗となり、歩くことさえままならない状態となる一方、屋内に避難していても砂の進入によって日常生活が難しいほどになる。黒風暴の発生はごくまれではあるが、近年では1993年5月5日に発生して甚大な被害を出した(後節で詳しく解説)[4][27]

また、周囲を山脈に囲まれたタクラマカン砂漠などの高低差が大きい発生地では、山谷風と呼ばれるほぼ毎日同じ時間帯に吹く強風が砂塵嵐を強める要因になっているとの指摘もある。ゴビや黄土高原からの黄砂は上空1 - 2キロでよく観測されるのに対し、周囲を6,000メートル級の山脈に囲まれるタクラマカンからの黄砂は上空6キロ程度によく観測される傾向にあり、夏の「バックグラウンド黄砂」のおもな発生源となっている[18]
移動砂塵の飛散と移動のメカニズム。風(4)が吹くと、大きく分けて3つのパターンで粒子が移動する。
(1)転がるようにして進む砂。
(2)跳ねながら進む砂。
(3)空中を浮遊する砂。

単に砂塵が舞い上がると言っても、砂塵の粒の大きさによってその動きはまったく違う。粒の直径が約1ミリ以上のものは回転運動、0.05ミリ(50μm) - 1ミリくらいのものは躍動運動、約0.05ミリ以下のものは浮遊運動をするといわれている(右図「砂塵の飛散と移動のメカニズム」)。回転運動をする砂は発生地周辺のみに到達し、移動する砂丘を構成する。躍動運動をする砂は地面を飛び跳ねながら移動し、沙塵暴のほとんどを構成する。浮遊運動をする砂は風に乗って上空を移動し、遠くまで到達する[3]

浮遊運動をする砂の運動を詳しく見ると、砂塵嵐によって巻き上げられたあと、日中暖まった空気が上昇することによって起きる上昇気流に乗って、上空500メートル - 2キロ付近に上昇して移動する。発生地付近では、砂塵の濃度や粒子の大きさがバラバラで非常に複雑な分布であるが、離れるに従って高度1 - 2キロ付近に濃度が高い層ができる傾向にある。この付近の上空500メートル - 2キロより下の大気は大気境界層といい、空気の流れが複雑な層である。これより上には自由大気という層があり、一部の粒子がこの層にまで上昇してくると、安定した速い気流に乗って遠くまで運ばれる。ただ、低気圧が発達しながら移動するなどして、激しい風によって空気がかき混ぜられた場合は、日本上空で最大6 - 7キロ程度と、もっと高い高度にも高濃度の層ができて遠くまで運ばれることもある。また、昼に発生して大気境界層を浮遊している砂塵は、になって大気境界層と自由大気の境界が下がってきてもそのまま同じ高度にとどまるため、一部は自由大気に入って遠くまで運ばれることになる[3]

東アジアや中央アジアなどの広い範囲には偏西風が吹いている。しかし、地上付近では偏西風の影響が少ないため、気圧配置によって砂塵は東以外の方向にも流される。しかし、高度が高くなると偏西風の影響が強くなるため、上空高くに舞い上がった黄砂は東寄りに流される。これにより砂塵は発生地の東側の地域への到達が多い傾向にある[3]

なお、日本へ到来する黄砂について、「ジェット気流に乗って大陸から日本へやってくる」と解説される例があるが、ジェット気流はおもに高度8 - 13キロを吹いている風である一方で、上述のとおり黄砂は発生源から離れると高度1 - 2キロに濃度が高い層が出来る傾向にある。したがって、遠方まで輸送された黄砂の事例をみると、ジェット気流よりもかなり下層で輸送されていて、ジェット気流によって輸送されたとは見なせない事例もある[33]
落下

こういった過程を経て粒の大きな砂から落下していく。北京では粒子の直径がおよそ4 - 20μm、発生後3、4日経って到達する日本では4μm前後という調査結果がある[34][35]。韓国気象庁の解説では、上空に舞い上がって運ばれる黄砂は、3割が発生地に、2割が発生地の周辺地域に、5割が日本・韓国や太平洋などの遠方に運ばれて落下・沈着するという[36]

そして、より近い発生地からの黄砂のほうが飛来の頻度が高い。たとえば、朝鮮半島で観測される黄砂は多くが西方の黄土高原・ゴビ砂漠などで発生したもので、タクラマカン砂漠で発生したものはまれである。朝鮮半島とタクラマカン砂漠は5,000キロ以上離れており、長距離運搬される条件が整ったときにしか砂塵は到達しない。また、韓国に到達する黄砂の「発生から飛来までの経過日数」と「飛来時に黄砂が分布する平均高度」を調べた韓国気象庁の資料では、タクラマカン砂漠は経過日数4 - 8日・高度4 - 8キロ、中国北部の乾燥地帯は3 - 5日・1 - 5キロ、黄土高原は 2 - 4日・1 - 4キロ、中国東北部は 1 - 3日・1 - 3キロなどとなっている[36]

黄砂の年間発生量は年間2億 - 3億トン と推定され、対する降下量は北京で春には1か月間に1km2 あたり10 - 20トン程度、日本で1年間に1km2あたり1 - 5トンと推定されている[35][20]。ただしその量は、発生地の毎回の天候に左右される。なお、1998 - 2000年のデータでは北京の乾性降下物(乾いたばいじん)のうち8割が黄砂を含む土壌性の粒子であった[35]。また、日本における黄砂を含めたばいじんの総降下量は国内平均で1年間に1km2あたり40トン程度(1989年)とされ、黄砂はその1割程度にあたる[37]
季節変化黄砂が空を覆った風景。


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