麻薬
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その後、この条約が1925年に改定された時に、アジアやアフリカなど大麻の使用習慣のある国が消極的であったが、エジプトの提案でインド大麻も規制に追加された[3]。第二次世界大戦を経て国際連盟が解体し、引き継ぐ国際連合による1961年の麻薬に関する単一条約(Single Convention on Narcotic Drugs)によって、同じような分類で麻薬―Narcotics―が国際的な管理下に置かれた[4]。さらに、後続の国際条約である1988年の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(Convention Against Illicit Traffic in Narcotic Drugs and Psychotropic Substances)の、第1条n項において、「麻薬」とは1961年の条約にて指定されたものであると定義されている。

大麻の鎮痛作用はモルヒネなどより弱いが、致死量は不明であり、身体依存はなく離脱症状も軽度であり、有害性の異なった薬物である。またコカインはオピオイドや大麻とも異なり、興奮作用がある精神刺激薬であるが、注射部位に局所麻酔作用がある。
日本の法律上の定義

日本の法律上の便宜による、麻薬及び向精神薬取締法(現通称および旧名: 麻薬取締法)における「麻薬」の定義。

まず日本では、大麻繊維産業があったことから1948年に別個に大麻取締法を制定しており、戦後に乱用が問題となった覚醒剤類は覚醒剤取締法にて規制されている[5]。1970年には麻薬取締法にLSDを追加し、日本の法律上の麻薬はほとんどが幻覚剤になっているとされる[5]。日本では、向精神薬に関する条約の付表Iの、そのほとんどが幻覚剤であるものを、「日本の法理上は」麻薬としているということである[6]

この背景を詳しく説明すると、1961年の国際条約以降に乱用された薬物を規制するための、1971年の向精神薬に関する条約(Convention on Psychotropic Substances)が登場した。LSDのような幻覚剤や、覚醒剤やバルビツール酸系ベンゾジアゼピン系抗不安睡眠薬が国際的な管理下に置かれた。向精神薬に関する条約において、医療的な価値がないとみなされた幻覚剤のような薬物は付表(スケジュール)Iに、それ以外の覚醒剤や睡眠薬は危険性により付表II以下に指定されている。後続する1988年の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約の第1条r項において、「向精神薬」とは1971年の条約の付表Iから付表IVまでの物質であると定義されている。すべて「国際条約上は」向精神薬である。

付表Iの物質は、欧州議会の報告書によれば次のように説明される。「現在のところ医学的利用価値が認められず、公衆衛生に深刻な害を及ぼす危険性があるとされる薬物」[7]。日本では、付表II以下の医薬品については、だいたいは日本の法律上の向精神薬として管理される[5]

国際条約と日本法の照合国際条約規制物質日本法
麻薬に関する単一条約あへんあへんあへん法
大麻大麻大麻取締法
麻薬麻薬麻薬取締法
向精神薬に関する条約向精神薬 付表I(日本法の)麻薬
向精神薬 付表II第1種向精神薬
付表II一部の覚醒剤(日本法の)覚醒剤覚醒剤取締法
向精神薬 付表III第2種向精神薬麻薬取締法
向精神薬 付表IV第3種向精神薬
対象外タバコアルコールカフェイン

LSDには過剰摂取した際の致死量も不明で、また幻覚剤には強力な依存性もなく、離脱症状はない。脱法ドラッグのようなものは、流通の後に日本の法律上の麻薬に指定され規制されることがある。つまり、法的に規制される前は、日本の法律上の麻薬には該当しない。

欧米では、MDMA心的外傷後ストレス障害 (PTSD) の治療薬として役立てようとする動きもあり、治験が進行中である。
他の用法:薬物全般の意味

薬物 (drug) を指して、麻薬とした例である。薬物のうち、依存性や毒性、法規制の有無などを問わず、脳内の神経伝達物質に作用し、酩酊、多幸感、幻覚などをもたらすものを、俗に広義の麻薬に含めることがある。記事、薬物を参照のこと。このような特徴を持つ薬物は、アルコールや睡眠薬のように、規制管理が異なる薬物も該当する。しかしながら、アルコールや睡眠薬のような薬物は、上述のような麻薬とは異なり、致命的となる可能性のある離脱症状を生じる危険性がある。
医療利用

麻薬(定義1)は、痛みに対する感覚を鈍らせる。そのため、モルヒネやコデインは鎮痛剤として医療の現場で処方される。麻薬性鎮痛剤として、モルヒネのような効果を持つメペリジン(商標名:デメロール)やメサドンが開発されている。メサドンはヘロイン依存症の置換治療として、薬物から離脱するために利用される。

薬物の研究者は、これらの鎮痛薬の作用機序を探る過程で、麻薬に反応する脳内の受容体(オピオイド受容体)を発見した。脳内麻薬と呼ばれることもあるエンドルフィンは、人体に存在する天然の鎮痛物質である。麻薬はエンドルフィンと同様の働きをし、オピオイド受容体と結合することが明らかになった。麻薬のアンタゴニストとして作用する薬物は、麻薬の作用を阻害し、乱用や過剰摂取の症状を逆転させる。こうして、アヘン剤とオピオイド受容体のアンタゴニストを組み合わせることにより、副作用の無い新しいタイプの鎮痛剤が作られるに至った。
摂取方法

麻薬の人体への摂取方法は、血液を経由して脳内へ薬物成分を送り込む方法がほとんどである。その手段として、そのまま飲む経口摂取のほか、舌下する、粉末状の麻薬を歯茎に塗布する、粉末状の麻薬を鼻孔へ吸引し鼻腔粘膜から吸収する、直腸粘膜から吸収する、性器粘膜から吸収する、吸食する、蒸気を吸引する、注射器による静脈注射・筋肉注射、などがある。

経口摂取の場合、主に小腸から吸収され、肝臓で一旦解毒された後血液に混じるため、肝臓で分解される物質で直接脳内で作用させたい場合は、経口摂取以外の方法を採られる。
乱用による症状

種類により症状は様々であるが、ヘロインコカインなどの薬物では薬物依存症に陥りやすく、また依存症状が深刻になりやすい。

ヘロインには強い依存性がありニコチンと同等である[8]。ヘロインでは深刻な病変や、機能低下を起こさないということを薬物禁止を支持するジェイムズ・Q・ウィルソンでさえ認めており、禁断症状によって時々発生する肉体的障害や、清潔でない注射針によるHIVウイルスなど感染症の問題は、非合法化されていることに関係して考えられる[8]。タバコやアルコールの方が回復不能な障害を与えやすい[8]。しかし、オピオイドの過剰摂取による死亡の多さは問題である[9]

コカインのような精神刺激薬では、使用によって妄想状態に陥り、精神刺激薬精神病となり暴力を引き起こすこともある[8]。ヘロインそれ自体には使用者を犯罪に駆り立てるような効果はない[8]。暴力を強く促すことが判明しているのはアルコールである[8]。暴力犯罪を抑制する最も効果的な方法は治療だと考えられている[10]

薬物依存者は周囲の人間に発覚すること、逮捕されることを恐れるため、事実をしばしば隠す。このため、薬物依存症の患者として医療施設で治療が行われているのは、患者群の一部に過ぎないと思われる。コカインでは耐性を獲得しやすいとともに逆耐性の機序を持つために治療は長期化する傾向にある。また、過去の麻薬入手の経験により一般市民より麻薬の入手が容易であるためにしばしば中断する。逮捕され、刑務所に収監されると、内部で麻薬関連犯罪で逮捕された者と出会うことでかえって「ドラッグ仲間」が出来てしまい、出所後に薬物の購入を持ちかけられたり、密売などの犯罪に誘われるケースもある。
厳罰政策と寛容政策「幻覚剤#規制」も参照


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