部位によって栄養成分は異なる。鯨肉の特徴として脂肪の多くが皮下脂肪に集中しているため、赤肉は低脂肪でタンパク質が豊富な食品である。赤肉は鉄分も多い。
他方、脂肪にもドコサヘキサエン酸(DHA)やドコサペンタエン酸(DPA)などの人体に有益と言われる脂肪酸が、鮪や他の獣肉に比して豊富に含まれている。
ヒゲクジラの仲間は絶食しながら長距離を泳ぎ続ける期間がある。21世紀になって、それはジペプチド、イミダゾールジペプチドの一つ「バレニン」を持っているからではないか、と考えられた[26]。バレニンは鯨肉加工の際の煮汁から生産されるが[27]、ヒトに対して疲労を軽減させる効果が確認された[28]。「バレニン」も参照 鯨肉には鯨の種類ごとに様々な味わいがあると言われる。しばしば「鯨肉」として同一に扱われるが、クジラが生物学的にはクジラ目に属する多くの種の総称であることを考えると、マグロもサバも同じ「サバ亜目の魚」として同一に扱うのに近いと言える[注釈 3]。もっとも美味・不味の判断は個々人の主観や文化・環境などによるところが大きいので、以下に述べるのはあくまで一般論である(さらに部位ごとにも味は異なるが、これは後述の#鯨肉の名称を参照)。 食味は、まず大きく「ハクジラ(マッコウクジラ、ツチクジラ、イルカ類など)」と「ヒゲクジラ(シロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ミンククジラなど)」で異なる。これは食性が根本的に異なる為である。更にそれぞれの種で生態も異なり、それに伴い食味も異なっている。 このうち、ハクジラに属するマッコウクジラは、日本では鯨油目的で捕鯨が行われた地域の食材として使われたことはあるものの、きわめて強い癖を持っていることから、基本的には食用には適さないとされる(世界的にもインドネシアの一部などを除き、ほとんど食用とはされない)。もっとも、日本では鯨皮から鯨油を絞った残りかすの「コロ」については食用の習慣がある。なお、油脂の成分(ワックス・エステル)が消化しにくいので、油抜きをしないで一度に大量に食すると下痢を起す可能性がある。同じ深海棲のツチクジラの油脂も機械油として利用され、過剰摂取では下痢を起こす可能性がある。 また、同じくハクジラに属するツチクジラやイルカ類も、マッコウクジラほどではないが総じて癖が強く、地域や個人により嗜好が強く分かれるとされる。例えば、和歌山県の太地町では、主たる捕獲対象種はヒゲクジラ類だったがハクジラ類のゴンドウクジラも伝統的に食用として好まれてきた。古くからツチクジラ漁で知られる千葉県の外房地域では、基本的に「血抜き」をせず「血を味わう」と表現されたりもするものであり、あえて癖の強さが強調されている。また沖縄においても血と共に肉を炒めるといった積極的に血を利用する料理もある。 これに対して、ヒゲクジラに属する鯨類の肉は、ハクジラ類よりは味の癖が少なく牛肉などに近い食味であるとされる。赤身については特に馬肉に近いとの評があり、実際に馬肉を鯨肉と詐称して販売していた例が報告されている。ただしヒゲクジラ類の中でも、鯨種によってかなりの差がある。例えば、現在最も多く流通するミンククジラ[注釈 4]は、肉の繊維が細やかであると評される一方、小型の鯨種であり、相対的に脂肪の乗りが少なく尾身などの珍重部位もあまり採れない。ナガスとミンクの中間ぐらいのイワシクジラやニタリクジラは江戸時代から食用にも供されてきた種類で、鯨肉の生産効率が高い。大型のナガスクジラの尾の身、さえずりは、脂の乗りが良く高級品として扱われる。
鯨種と食味