魔法
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テウルギアはの業もしくは神を働かせる術の意であり、一説には『カルデア神託』の集成者とされる2世紀のカルデア人ユリアノスの造語とも言われる[22]。ゴエーテイアは下等な魔術、テウルギアは高等な魔術、マゲイアは普通の魔術に分類された[23]

新約聖書ガラテヤの信徒への手紙』5:20でパウロは魔術・呪術を悪だとしている。
盛期中世から初期近代『賢者の石を求める錬金術師』アタナシウス・キルヒャー『磁石あるいは磁気の術について』(1641年)口絵。知識の各分野と神・人間・自然の相互の結びつきが表現されている。外円は神学を頂点にした各分野で、自然魔術が算術と医学に挟まれている。内円は「星界」(月より遠くにあるすべてのもの)、「月下界」(地球とのその大気)、「ミクロコスモス」(人間)で、中心にあるのは神の精神たる「原型世界」(羅:mundus archetypus)である。

中世ヨーロッパ世界で、科学と魔術は同じものであった[24]錬金術キミア)は自然科学であり、化学であった[24]。中世の哲学を前提に、人間が神との融合に向けて精神的な完全さを目指し努力するのと同様に、地球上の物質も完全的物質になることが可能であると考えられた[24]。すべての自然物は精妙には調和して収まり、万物はマクロコスモスとミクロコスモスの照応によって結びついていた[24]占星術は魔術の一部であり、大学で教えられ、数学や医学とも深く結びついていた[25]

錬金術師にとって完全な金属である金の探究は道徳の探究でもあり、滓を取り除き、より物質を洗練させ、純粋なエッセンスを抽出することを目指した[24]。こうした超自然的で深遠な知識は、教会によって禁断の知識ともされたが、当時は錬金術や魔術と自然は対立するものではなく、自然と調和するものと考えられていた[24]。こうした知識を悪用し、悪魔との接触などを行う場合は「魔法」と呼ばれ、非難の対象となった[24]

13世紀の神学者オーヴェルニュのギヨームとアルベルトゥス・マグヌスの著作は自然魔術というジャンルの確立を促した[26]。教父アウグスティヌスはあらゆる魔術は悪霊との交渉であるとしたが、13世紀のパリの司教ギレルムス(オーヴェルニュのギヨーム)は別の考えを示した。かれは論文『法について』のなかで他の多くの著述家と同様に魔術を断罪したが[27]、それだけでなく非法な魔術と合法な魔術とを区別した。その合法な魔術すなわち自然魔術 (magia naturalis) とは、悪魔に関係するものと教養人たちから誤解されているが、実際には自然の理に則った驚異なのであり、自然の事物の自然本性的力能 (virtutes naturales) の活用であるとギレルムスは論じた[28]。中世に広く流布した作者不明の自然魔術書『アルベルトゥスの実験』別名『薬草、石、動物の効能について』は、少なくともその一部はアルベルトゥス・マグヌスの著作に基づいているが、そのなかには鉱物や薬草に秘められた力を利用してを黙らせたり、術者を不可視にするといった驚異を行う方法が記されている[29]

初期近代ヨーロッパにおける、互いに結びついている目的を持った世界という見解は、キリスト教神学と、古代ギリシャの哲学者プラトンアリストテレスの思想を大きく源泉とする[30]。プラトン的思想、特に新プラトン主義者たちは、完全で超越的な一者から不活性で生命のない下等な物体まで、世界の存在は皆連続する階梯の中の特定な位置をもつという「自然の階梯(scala naturae)」という発想が生まれた[30]。一者から遠い下等な存在ほど、一者とは似ていないと考えられた[30]。プラトン思想の著作は、ヨーロッパではルネサンス期に再発見された[30]

アリストテレスの思想で寄与したのは、物事を知るためには「原因についての知識」が必要という考え方である[31]。彼の目的因と作用因という考えは、事物を他の対象との関係性で定義しようとするもので、神によってデザインされた摂理ある世界というキリスト教の考えと相性が良かった[32]。神による目的因は、被造物の内部に埋め込まれ、記号化されていると考えられていた[33]。思想史家のエルンスト・カッシーラーは、ルネサンス期に魔術と占星術は深い同一性で結ばれており、象徴(シンボル)と因果律(自然法則や秩序)の融合がその概念の主調であったと述べている[34]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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