高血圧
[Wikipedia|▼Menu]
高血圧治療ガイドライン2019[2] より引用分類高値血圧
130-139/80-89I度高血圧
140-159/90-99II度高血圧
160-179/100-109III度高血圧
≧180/≧110
リスク第一層
(予後影響因子なし)低リスク低リスク中等リスク高リスク
リスク第二層
(年齢65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のいずれかがある)中等リスク中等リスク高リスク高リスク
リスク第三層
CeVD既往非弁膜症性af、糖尿病、蛋白尿のあるCKDのいずれか、
または第二層の危険因子が3つ以上ある)高リスク高リスク高リスク高リスク

※CeVD:脳血管疾患、af:心房細動、CKD:慢性腎臓病
原因

現在、原因が特定できている場合とそうでない場合で大きく二分類して、原疾患が不明な「本態性高血圧症」と、特定の原因が明らかになっている「二次性高血圧」に分類するということが行われている。

現在の医学では、「本態性高血圧症」の割合がかなり多い。つまり現在の医学のレベルでは高血圧に関しては原因があまりよく判っていない場合のほうが多いということである。ただしこの二分類は、固定的に理解するのはあまり正しいとは言えず、医師が仕事を進めるうえでの便宜的なものだと理解したほうがよい[注釈 1]。生物学的な原因と環境的な原因の両方が関与している可能性がある[8]

アメリカ心臓協会に発表された論文によれば、ラットによる動物実験で腸内細菌叢における腸内毒素症 (Dysbiosis) との関連を示したと報告された[9][10]。アメリカ心臓協会は、抗生物質による高血圧治療を示した。詳細は「#薬物療法(抗生物質)」を参照

「二次性高血圧」(原因が特定されているもの)に関しては、いろいろな場合がある[注釈 2]

本態性高血圧の原因については、原因のよく判らないものを「本態性高血圧症」と呼ぶことにしているので、良く判っていないとされているが、「原因は単一ではなく、両親から受け継いだ遺伝的素因が、生まれてから成長し、高齢化するまでの食事、ストレスなどのさまざまな環境因子によって修飾されて高血圧が発生する」という説(モザイク説)がある。

動脈硬化症による脳内酸欠:一般的に病院で「高血圧」と診断される大部分の原因は、上行大動脈の動脈硬化症による脳内酸欠を防ぐための血圧上昇である。この動脈硬化症の原因をさらに遡ると食生活喫煙や運動不足である場合が多い。

塩分の過剰摂取[11][12]:食塩の過剰摂取は、血圧の上昇を招き、心臓病や脳卒中のリスクを高める[13]。アフリカのマサイ族や南太平洋のフィジーの人々など未開の地では、塩分摂取が少ないので、高血圧の人はほとんど見当たらない[14]。動物に食塩を多く含むエサを与えると高血圧になる。日本人の食塩摂取量は、欧米人より多い。日本人の高血圧の発生には食塩過剰摂取の関与が強いとされる。厚生労働省の栄養所要量によれば、食塩の必要量は1日1.5グラム (g)であるが、日本人の食塩摂取量は1日平均11.2gである。

海と異なって陸上には食塩の摂取源がないが、汗などで失うから、陸上動物は慢性的な食塩欠乏状態にある。陸上動物の体には、食物に含まれる食塩を大切に保持する仕組みがある。また、食塩を含む食物を美味しいと感じるように進化している。それで、多くの食塩を混入させた加工食品を好ましいと感じ、なかなか排除できないのである。

世界保健機構WHOは、高血圧のある人もない人も、食塩摂取を5g/日以下にすることを強く推奨している。また米国国立健康研究所NIHは、51歳以上の人について、高血圧のある人もない人も、食塩摂取を3.8g/日以下にすることを推奨している。日本の ⇒高血圧治療ガイドライン2014 血圧治療ガイドラインでは、高血圧のある人に1日6g未満という減塩を推奨している。日本人の食塩嗜好は野菜の漬け物、梅干し、魚の塩漬けなど日本独自の食生活と関連がある。食塩摂取量に関して、静岡県浜松市遠州病院による2008年7月から2012年12月までに合計35,500人(男性22,749人 平均年齢56.3歳)を対象とした調査では、男性12.4g、女性8.4g で、ガイドラインの1日6.0g以下の推奨目標値を達成できているのはわずか3%であった[15]。また、食塩(塩化ナトリウム)だけでなく、重曹(炭酸水素ナトリウム)、アミノ酸など(グルタミン酸ナトリウム[16] などを含む食品および胃腸薬の摂取に対しても注意喚起されている。

食塩の過剰摂取が高血圧の大きなリスクとなるのは、身体の電解質調節システムに原因がある。細胞外液中でナトリウムをはじめとする電解質の濃度は厳密に保たれており、この調節には腎臓が大きな役割を果たしている。すなわち、濃度が正常より高いと飲水行動が促され、腎では水分の再吸収が促進される。反対に、濃度が低い場合は腎で水分の排泄が進む。その結果として、血中のナトリウムが過剰の場合は、濃度を一定に保つため水分量もそれに相関して保持され、全体として細胞外液量が過剰(ハイパーボレミア:hypervolemia)となるのである。腎のナトリウム排泄能(通常、ナトリウム0.15-0.3モル/日[17]、食塩9-18g/日に相当)を超えて塩分を摂取している場合、上記のメカニズムで体液量が増加して高血圧を来す。ナトリウム過剰で高血圧をきたしやすい遺伝素因も存在することが確認されている。


K(カリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)は、ナトリウムに対して拮抗的に働く。それらの元素を多く含む野菜、果物、牛乳などを充分に摂取すると、体内の過剰なナトリウムは、体外へ排泄される(ダッシュダイエット参照)。

肥満飲酒なども高血圧の発症に関与するとされる(これも概して食生活に起因するものである)。

ストレスも高血圧の発症に関与するとされる。

血圧反射機能の障害なども高血圧の発症に関与するとされる。

両親の一方あるいは両方が高血圧であると高血圧を発症しやすいというデータがあるが、遺伝性についての要因分析に関しては慎重になる必要がある[注釈 3]

砂糖が高血圧の原因の一つであるという説がある[19][20][21][22]。仮説の一つによれば、砂糖のうち特に果糖が、インスリン抵抗性をもたらし、血糖値を上げ、糖化反応により動脈硬化を起こし、高血圧をもたらす。実際、米国国立健康研究所NIHによる高血圧食であるダッシュダイエットでは、砂糖摂取を1日に約15グラム以下に制限するよう勧めている[23]

睡眠不足が高血圧の原因の一つであるという説がある。睡眠時間が6時間と5時間のグループを比較すると、5時間のグループが高血圧になる割合が37%高い[24]

食塩感受性高血圧の病態については、諸説あるが、名古屋市立大学医学部の木村玄次郎の説では摂取したナトリウムを腎から排泄しきれず、夜間も腎臓でナトリウム排泄のため多くの血流を要するnon-dipper型高血圧(夜間高血圧)が良い説明モデルとなる。non-dipper型高血圧ではナトリウム排泄を促進する利尿剤を投与することでnon-dipper型がdipper型へと変化することが認められており、ナトリウム排泄が食塩感受性の有無を規定する因子のひとつと論じている[25]
アンジオテンシンはポリペプチドの一種で、昇圧作用を持つ生理活性物質である。アンジオテンシンI?IVの4種がある。うち、アンジオテンシンII?IVは心臓収縮力を高め、細動脈を収縮させることで血圧を上昇させる。腎臓の傍糸球体細胞から分泌されるレニンの作用によって、アンジオテンシノーゲンからアミノ酸10残基から成るアンジオテンシンI が作り出され、これがアンジオテンシン変換酵素キマーゼ、カテプシンGの働きによってC末端の2残基が切り離され、アンジオテンシンII に変換される。

アンジオテンシンIIはACE2により、血管拡張作用と抗増殖作用を有するヘプタペプチドであるアンジオテンシン-(1-7)へと変換される。

アンジオテンシンI は昇圧作用を有さず、アンジオテンシンII が最も強い活性を持つ。(アンジオテンシンIII は II の4割程度の活性で、IV はさらに低い)。

アンジオテンシンII は副腎皮質にある受容体に結合すると、副腎皮質からのアルドステロンの合成・分泌が促進される。このアルドステロンの働きによって、腎集合管でのナトリウムの再吸収を促進し、これによって体液量が増加することにより、昇圧作用をもたらす[26]。また、脳下垂体に作用し利尿を抑えるホルモンである抗利尿ホルモンであるバソプレッシン(ADH)の分泌を促進し、水分の再吸収を促進することにより、昇圧作用をもたらす[27]

脂肪細胞が肥大化すると、血圧に関連して次のことが起こる。
過剰に分泌されたレプチン交感神経の活動を亢進させ、血管を収縮させることなどにより、血圧を上昇させる[28]

レニン-アンジオテンシン系の活性化。アンジオテンシノーゲンは肝臓で産生されるが、肥大化脂肪細胞からも産生、分泌される。アンジオテンシノーゲンから生成されたアンジオテンシンIIは、副腎皮質球状帯に作用してナトリウムの再吸収を促進するアルドステロンの分泌を促進し体内に水分を貯留する[29]。また、脳下垂体に作用し利尿を抑えるホルモンである抗利尿ホルモンであるバソプレッシン(ADH)の分泌を促進し同じく体内に水分を貯留する[30]

これらのことにより高血圧を招く。肥満患者において高血圧症が多いのはこのためである[31]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:101 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef