高低アクセント
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しかし他の学者らはこれに同意せず、高低アクセント言語で強さや長さにも役割がある場合があることを知っている[7]

強勢アクセント言語の特徴として考えられているものの一つに、強勢アクセントは「義務的」である、すなわち全ての主要な語にアクセントが置かれる、という点がある[15] 。これは高低アクセント言語では必ずしもあてはまらず、例えば日本語や北部ビスカヤ・バスク語では、アクセントの置かれない語がある。ただしすべての語がアクセントを持つ高低アクセント言語もある[7]

高低アクセント言語と強勢アクセント言語で共通する特徴の一つに、”demarcativeness”(仮訳:境界性)がある。すなわち卓立のピークは形態素の端付近(語や語基の最初または最後、最後から2番目)になる傾向がある[16]

しかしながら、ときにより高低アクセント言語、強勢アクセント言語、声調言語の違いは明確でないことがある。「実際は、特定のピッチシステムを声調かアクセントかどちらで記述するのが最適か判断するのは簡単ではない場合がある。…なぜなら音高の上昇は、特にそれが長母音化と同時に起きた場合、その音節は卓立しているように知覚されるが、特定の言語において音高が強勢としての役割を果たしているのか声調としての役割を果たしているのか解明するには音声的および音韻的な詳細な分析が必要になる場合があるからである」(Downing)[17]

ラリー・ハイマンは、トーンは様々な異なる類型特徴により構成されていて、それらは互いに独立して混合されたり組み合されたりできると主張している[18]。ハイマンは、高低アクセントという術語は、トーンシステム(あるいはトーンシステムと強勢システムの両方)が持つ特性の、典型的でない組み合わせを持つ言語を記述するのに用いられているので、「高低アクセント」に一貫した定義を与えることはできないと主張している。
アクセントの特徴
高アクセントと低アクセント

ある言語である音調が指定される場合、大抵は高い音調である。しかし、低い音調を指定する言語も少ないながら存在する。例えばカナダ北西部のドグリブ語[19]や、コンゴのバントゥー語群の、ルバ語やRuund語などの言語である[20]
2音節のアクセント

高低アクセントと強勢アクセントの違いの一つに、高低アクセントではアクセントが2音節に渡って実現することが珍しくないということが挙げられる。セルビア・クロアチア語では、「上昇」アクセントと「下降」アクセントの違いは、アクセントの置かれる音節の次の音節の高さのみで観察できる。つまりアクセントの置かれる音節よりも次の音節が高いまたは同じ高さであれば「上昇」アクセントとみなされ、低ければ「下降」アクセントとみなされる[21]

ヴェーダ語では、古代インドの文法家は、アクセントを高いピッチ(ud?tta)とその後に続く音節における下降調(svarita)として記述している。ただし2音節が結合したときには、高音調と下降音調が結合して1つの音節に出現することもあったという[22][23]

スウェーデン語では、アクセント1とアクセント2の違いは2音節もしくはそれ以上の語において聞くことができる。なぜならアクセントに伴う音調が発現するのに2音節以上を要するからである。ストックホルムのスウェーデン中央方言では、アクセント1は「低高低」の音調を持ち、アクセント2は「高低高低」という2番目のピークが第2音節に来る音調を持っている[24]

ウェールズ語では、大半の語でアクセントは語末から2番目の音節での低い音調で実現し(同時に強勢も置かれる)、それに続く語末音節が高くなる。ただしある方言においては、この「低高」という音調が語末から2番目の音節内部だけで実現する場合もある[25]

マラウィで話されるチェワ語でも同様に、最終音節の音調がしばしば一つ前の音節に拡張する。例えばChichewaは実際にはChich?w?のように中程度の高さが2音節に渡って出現するか[26]、あるいはChich?w?,のように最後から2つ目の音節に上昇調が現われる[27]。文末においては、これはChich?waのように語末から2つ目の音節での上昇の後、最終音節での低い音調で現れることがある[27][28]
ピーク遅延

完全な声調言語から高低アクセント言語までの多くの言語で見られる現象に、ピーク遅延がある[29]。この現象は、高い音調のピークが正確にはその音節だけで実現するのではなく、その次の音節の始まりまで続くもので、高い音調が2音節に広がったような印象を与える。前述のヴェーダ語のアクセントは、ピーク遅延の例の一つと解釈されている[30]
1モーラのアクセント

反対に、音節が2モーラ(拍)からなる場合に音節の一部のみにアクセントが置かれる言語もある。ガンダ語では、Abaganda「ガンダ族の人々」ではアクセントは「ga(n)」という音節の1つ目のモーラに置かれていると考えられるが、Buga?da「ブガンダ」ではアクセントは「gan」の2つ目のモーラに置かれている(ただし高い部分が1つ目のモーラへ拡張されている)[31][32]。古代ギリシャ語でも同様に、ο?κοι(oikoi)「家(複数主格)」では「oi」という音節の1つ目のモーラに置かれているが、ο?κοι(oikoi)「家で(副詞)」では2つ目のモーラに置かれている[33]。これとは異なる分析によれば、ガンダ語や古代ギリシャ語は、アクセントの置かれる音節が異なった音調を選択できるタイプの言語に属するという。
高音調の拡張
先行する高音調

一部の高低アクセント言語では、アクセントより前の音節での高ピッチが予想できる。例えば、日本語のatama ga 「頭が」、バスク語のlagunen amuma「友達の祖母」、トルコ語のsinirlenmeyecektiniz 「あなたは怒らないつもりだった」[7]、ベオグラードのセルビア語 のpaprika「胡椒」[34]、古代ギリシャ語の?παιτε? (apaitei) 「要求する」[35]など。
右方拡張

音調の右方拡張がみられる言語もある。例えばジンバブエの北ンデベレ語では、接頭辞u-が持つトーン的アクセントが語末から3番目の音節まで拡張する。例えばukuhleka「笑う」、 ukuhlekisana「他の人を笑わせる」。 時には「高高高高」という音調は「低低低高」になるため、系統上近い言語であるズールー語では、これらと同じ意味の言葉はukuhlekaと ukuhlekisanaのようにアクセントが最後から3番目の音節に移動している[36]

メキシコにあるヤキ語では、アクセントの置かれる音節の前でのアップステップ(音節間のピッチの上昇)によってアクセントが示される。高ピッチはアクセントの置かれる音節から次のアクセントの置かれる音節まで、わずかに下降しながら持続する[37]。日本語ではこの逆で、アクセントより前に高ピッチがあり、アクセントの置かれる音節の後のダウンステップ(下降)によってアクセント位置が示される。
アクセント間の台地

他の言語では、アクセントの高ピッチは、ある状況下では後続音節での低ピッチへの下降ではなく、次のアクセントが置かれる音節まで台地形で持続する。例えばガンダ語でのkiri mu Buga?da「それはブガンダだ」 のように(これに対しkiri mu Bunyoro「それはブニョロだ」では、Bunyoroはアクセントの置かれない語であり、自動的にデフォルトの音調が現われている)[38]

台地化はチェワ語でも見られ、ある状況下で高低高の音調が高高高に変化しうる。例えばndi + njinga「自転車で」はndi njingaとなる[39]

西部バスク語やガンダ語では、アクセントの置かれない語に自動的に付与されるデフォルトの高ピッチが、フレーズの最初のアクセントまで連続して持続しうる。バスク語のJonen lagunen amuma「ジョンの友達の祖母」[40]や、ガンダ語のabantu mu kibuga「街の人々」[41]などである。
単純な高低アクセント言語

前述の最初の二つの基準により、日本語東京方言は典型的な高低アクセント言語とされる場合が多い。なぜなら東京方言ではどの語の発音もアクセントの置かれる1音節を示すだけで指定可能であり、どの語のアクセントもアクセントの置かれる音節直後のピッチの下降により実現されるからである。下記の例ではアクセントの置かれた音節が太字で示されている[42]

makura ga「枕が」

tamago ga「卵が」

atama ga「頭が」

sakana ga「魚が」(アクセントなし)

日本語ではアクセントの置かれる音節以外にも高ピッチとなる音節があるが、これは語に自動的に付与されるピッチであり、アクセントとして数えられない。なぜならそれは低い音節が後続しないからである。上の例で分かるように、日本語にはアクセントのない語もある。

インド・ヨーロッパ祖語(印欧祖語)とその子孫であるヴェーダ語のシステムは、多くの点で日本語東京方言やCupeno語と類似しており、*-ro-や*-to-(ヴェーダ語の-ra-と-ta-)のような本来的にアクセントの置かれる形態素とアクセントの置かれない形態素によって発音を指定する[43]


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