髄膜炎
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髄膜炎は多くの国で法定伝染病に指定されているが、正確な発症率は明らかにされていない[12]西洋諸国では、年間に成人10万人に3人の割合で細菌性髄膜炎を発症している。Population-wide諸試験によればウイルス性髄膜炎の方が頻度が高く、100,000人に10.9人の割合で発症し、夏に増える傾向がみられる。ブラジルでは細菌性髄膜炎の方が発症率が高く、年間100,000人に45.8人となっている[6]

サハラ以南アフリカでは100年以上にわたって髄膜炎菌性髄膜炎の大規模な集団発生に苦しんでおり[51]、髄膜炎ベルトと呼ばれている。乾季 (12月から6月)に流行する傾向にあり、流行期は2 - 3年続き、間の雨季に消失する[52]。この地域では罹患率が10万人につき100 - 800人となっており[53]、患者は充分な医療を受けられていない。原因は髄膜炎菌によるものが圧倒的である[6]。これまでに記録されている最も大規模な流行では、1996年 - 1997年にかけてこの地域全体を飲み込み、250,000人が発症し25,000人が死亡した[54]

髄膜炎菌性髄膜炎の集団発生は、兵舎や大学キャンパス、年1回のハッジ巡礼など[1]大勢が共同生活をする環境で発生する[40]。アフリカでの流行サイクルのパターンはよくわかっていないが、いくつかの因子が髄膜炎ベルトにおけるエピデミックの発現に関わっている。その中には医学的条件(集団の免疫学的な病気のかかりやすさ)、人口統計学的条件(旅行や大規模な集団の移動)、社会経済的条件(人口過密や 劣悪な生活環境)、気象条件(干ばつや砂嵐)、同時期に発生する感染症(急性呼吸器感染症等)などがある[53]

細菌性髄膜炎の原因の地域的な分布には顕著な違いがある。例えば N. Meningitides(髄膜炎菌)B群およびC群のほとんどはヨーロッパに発生しており、A群はアジア、次いでアフリカで優勢である。アフリカでは髄膜炎ベルトにおける大規模流行の原因となっており、記録されている髄膜炎菌性髄膜炎例の80%?85%を占める[53]
歴史

研究者の中にはヒポクラテスが髄膜炎の存在を発見したという者もおり[6] 、また髄膜症がイブン・スィーナーなどルネッサンス以前の医師に知られていたとされている[55]。エジンバラの医者Robert Whyttによるものとされ、彼の死後1768年に公表された報告書に結核性髄膜炎に関する記述があり、"脳内の浮腫と表現されているが、結核とその病原体が関連づけられるのは19世紀になってからである[55][56]

髄膜炎の大流行は比較的近年になってからの現象であると考えられる[57]。最初の大規模な集団発生が記録されているのは1805年のジュネーヴであり[57][58]、その後間をおかずヨーロッパおよびアメリカ合衆国でも数回の流行の発生が記録されている。アフリカでの最初の流行の記録は1840年にみられ、20世紀には1905年から1908年にかけてナイジェリアからガーナに広がった大流行を起点として大幅に増加している[57]

髄膜炎の原因としての細菌感染に関する最初の記録は、オーストリアの細菌学者Anton Weichselbaumのmeningococcus(1887)にみられる[59]。初期の報告では髄膜炎による死亡率は非常に高いものであったが(90%以上)、1906年にウマを用いて抗血清が作られた。その後アメリカ人科学者Simon Flexnerによって改良され、髄膜炎菌性髄膜炎による死亡率が大きく低下することとなった[60][61]。1944年にはペニシリンが髄膜炎に有効であることがはじめて報告されている[62]。20世紀末にはヘモフィルスワクチンが導入され、ヘモフィルス属ウイルスによる髄膜炎の症例数が著明に減少した[38]。また、2002にはステロイドが細菌性髄膜炎の予後を改善させるとするエビデンスが得られている[63][64][61]
神経感染症の総論

発熱の原因が中枢神経と疑われるとき、髄液検査を行い細胞数の増加があれば神経感染症と考える。神経感染症では感染部位によって名称、症状が異なる。

名称英語名症状
脳炎encephalitis頭痛、発熱、痙攣、意識障害、神経局所症状
髄膜炎meningitis頭痛、発熱、嘔吐
髄膜脳炎meningoencephalitis脳炎症状と髄膜炎症状
硬膜炎pachymeningitis頭痛、発熱、脳神経症状
脊髄炎myelitis発熱、対麻痺、膀胱直腸障害

中枢神経系の感染症は早期発見、効率的な方針決定、速やかな治療の開始が生命予後を左右するため医療にとって最も重要な疾患の一つである。これら明瞭な臨床症候群は急性細菌性髄膜炎、ウイルス性髄膜炎、脳炎、局所性感染症である脳膿瘍や硬膜下膿瘍および感染性血栓性静脈炎が含まれる。いずれもそれまで健康であった人々に発熱や頭痛などの非特異的な前駆症状を引き起こし、最初は比較的良性の病態と考えられる。しかし、ウイルス性髄膜炎以外はやがて意識状態の変化、局所性神経症状または痙攣発作が出現する。早期治療のポイントはこれらの病態を早急に鑑別し、病原体を同定し適切な特異的な治療を開始することである。まずは感染部位がくも膜下腔にある(すなわち髄膜炎である)のか、病変は脳組織全体に分布しているのか、あるいは大脳半球、小脳、または脳幹に限局しているのかを確認することが必要である。ウイルス感染により脳組織が直接受ける場合は脳炎とよばれ、細菌または真菌または寄生虫による局所性感染が脳組織に及んでいる場合には被膜形成の有無によって脳膿瘍、または脳実質炎とよばれる。
細菌性髄膜炎詳細は「細菌性髄膜炎」を参照

細菌性髄膜炎はくも膜下腔内の急性化膿性感染症である。この疾患は中枢神経系の炎症反応を伴うため意識レベルの低下、てんかん発作、頭蓋内圧亢進症、脳卒中などをきたしうる。炎症反応はしばしば髄膜、くも膜下腔、脳実質におよび髄膜脳炎にいたる。米国では年間発生率は10万人あたり2.5人である。

20歳以上の成人における髄膜炎の原因菌として最も多いのは肺炎球菌であり10万人あたり1.1人であり報告例の約半数を占めている。肺炎球菌性髄膜炎のリスクを高める要因はいくつかあるが、その中で最も重要なものは肺炎球菌性肺炎の存在である。その他の危険因子としては急性、または慢性の肺炎球菌性副鼻腔炎、中耳炎、アルコール依存症、糖尿病、摘脾、低γグロブリン血症、補体欠損、頭蓋底骨折を伴う頭部外傷、脳脊髄漏がある。


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