髄膜炎
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ウイルス性髄膜炎には血清学(ウイルスに対する抗体の特定)も有用である[12]。結核性髄膜炎が疑われる場合、サンプルは感度の低いチール・ネールゼン法および非常に時間がかかる結核菌培養に回されることになるが、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)が広く用いられるようになってきている。[32]

クリプトコッカス髄膜炎の診断にはCSFの墨汁染色が低コストで使用できるが、血液またはCSFのクリプトコッカス抗体検査の方が感度が高く、特にAIDS患者には顕著である[33][34]

診断、治療ともに困難となるのが、抗生物質投与後(推定副鼻腔炎の加療によるものなど)に髄膜炎の症状がみられる髄膜炎の「不完全治癒」状態である。この場合、CSF所見はウイルス性髄膜炎に似るが、ウイルス性であると断定できるエビデンス(PCRによるエンテロウイルス陽性等)が得られるまでは抗生物質による治療を続ける必要がある[12]
剖検細菌性髄膜炎の病理組織学:肺炎球菌性髄膜炎患者の剖検例。多数の好中性顆粒球を認める炎症が軟膜に浸潤している。

患者の死後に髄膜炎が診断される場合もある。剖検では通常、髄膜の軟膜層およびクモ膜層に広範囲に及ぶ炎症が認められる。好中性顆粒球が脳神経および脊髄のほか脳脊髄液および脳底部にも広がっていることが多く、に包まれていることもある。これは髄膜の血管にも認められる[35]
予防

髄膜炎の原因のいくつかに対しては、予防接種による長期的な予防や抗生物質による短期的な予防が可能である。行動による予防も効果的である。
予防行動

細菌性髄膜炎およびウイルス性髄膜炎は感染性であるが、いずれも風邪インフルエンザほど強い感染性はない[36]。キスや至近距離でのくしゃみ、咳などの密接な接触があった時に気道分泌物の飛沫から感染することはあるが、髄膜炎患者と同じ空間にいただけで空気感染することはない[36]。ウイルス性髄膜炎はエンテロウイルス感染によることが多く、糞便が感染源となることが非常に多い[36]。感染につながるような行動を避けるだけで感染リスクを減少させることが可能である。
予防接種

1980代から多くの国々で子供の定期予防接種プログラムにインフルエンザ菌b型ワクチン(Hibワクチン)が組み入れられてきた。そのような国々では小児の髄膜炎の原因からインフルエンザ菌b型が実質的に除外されるまでになっている。しかしこの疾患が未だ重い病苦となっている諸国では、このワクチンは非常に高価である[37][38]。日本では依然として、Hibは小児細菌性髄膜炎の最も多い起炎菌である。日本ではHibワクチンが2008年12月より、医療機関で任意接種可能となった。

同じように、流行性耳下腺炎ワクチンによってムンプス髄膜炎の発症数が大幅に減少している。ワクチン未接種時は、おたふくかぜ患者全体の15%がムンプス髄膜炎を発症していた[12]

髄膜炎菌A、C、W135およびY群に対しては髄膜炎菌ワクチンが存在する[39]。髄膜炎菌C群に対する予防接種を実施している国では、この細菌による症例数が大幅に減少している[37]。また、現在は4種を混合した4価ワクチンが存在する。ハッジ(イスラム世界におけるメッカ巡礼)に参加する際には髄膜炎菌4価ワクチン(ACW135Y)接種がビザ取得の要件とされている。[40]

一方、B群レンサ球菌ワクチンの開発は困難を極めている。これは表面蛋白質(通常ワクチン開発に使用される)から得られる免疫系からの応答が弱く、また正常なヒトの蛋白と交差反応するためである[37][39]。とはいえいくつかの国(ニュージーランドキューバノルウェーチリ)ではB群レンサ球菌の地方種に対するワクチンが開発されており、そのいくつかは予防接種計画に組み込まれ良好な成績を収めている[39]

アフリカでは最近まで、髄膜炎菌性髄膜炎の流行の予防とコントロールを早期発見とリスクのある集団を対象とした2価(A/C)または3価(A/C/W135)多糖体ワクチンの集団予防接種による緊急対応に依ってきた[41]。しかし、若年者を対象としたMenAfriVac (髄膜炎菌A群ワクチン)が効果をあげ、医療資源の限られた環境での開発協力モデルとして取り上げられている[42][43]

肺炎レンサ球菌の7種類の血清型に効果のある肺炎球菌ワクチン (PCV)のルーチン接種により、肺炎球菌性髄膜炎の発症数が著明に減少している[37][44]。23価肺炎球菌多糖体ワクチンは特定の集団(脾臓摘出術を施行した患者など)に限り投与されている(日本も承認済み)が全接種者から有意な免疫応答が得られているわけではない[44]。乳幼児(2歳未満)にはこの23価ワクチンが無効であるため、乳幼児の肺炎球菌性髄膜炎の予防には多価(最も知られているのは7価)蛋白結合肺炎球菌ワクチンが必要である(国内未承認)。7価の肺炎球菌ワクチンも、輸入ワクチンを取り扱っている医療機関において接種可能である。

小児へのBCGワクチン投与は結核性髄膜炎発症率を有意に減少させると報告されているが、成人に対する有効性には疑問があり、さらに効果の高いワクチンの開発研究が試みられている[37]
抗生物質

抗生物質による短期間の予防も、特に髄膜炎菌性髄膜炎にはひとつの手段である。髄膜炎菌性髄膜炎の場合、抗生物質による予防的治療(例:リファンピシンシプロフロキサシンセフトリアキソン等)で発症リスクを減少させることができるが、将来の感染に対する予防効果はない[26][45]


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