香港の政治の特徴は香港返還(主権移譲)後に施行された一国二制度にある。この制度に基づき、香港は社会主義国である中華人民共和国の中で2047年まで資本主義システムが継続して採用されることになっている。政治的には、植民地時代の行政、官僚主導の政治体制から、民主化・政党政治への移行が期待されたものの、中華人民共和国からの度重なる介入により民主化の後退が懸念される事態に直面している[42]。
1997年に香港は香港特別行政区として改編され特別行政区政府が即日成立した。香港特別行政区は中華人民共和国において省や直轄市と同等(省級)の地方行政区とされる。しかし中華人民共和国憲法第31条および香港特別行政区基本法に依拠し、返還後50年間は一定の自治権の付与と本土(中国大陸)と異なる行政、法律、経済制度の維持が認められている。そのため、香港は「中国香港」(英:Hong Kong, China)の名称を用い、中華人民共和国とは別枠で経済社会分野における国際組織や会議に参加することができる。(詳細は香港の対外関係を参照のこと。)
しかし香港は「港人治港」として「高度な自治権」を享受しているが、外交権と軍事権以外の「完全な自治権」が認められているわけではない。2020年には中国が香港に国家安全法を導入する方針を決めたことを受けて、アメリカのドナルド・トランプ大統領は「香港の高度な自治は保障されなくなった」「中国は一国一制度に変えた」と非難する動きも見られた[43]。
首長である行政長官は職能代表制として職域組織や業界団体の代表による間接、制限選挙で選出されることになっており、その任命は中華人民共和国国務院が行う。香港の立法機関である立法会の議員(定員70人)は、半数(35人)が直接、普通選挙によって選出されるが、残り半数(35人)は各種職能団体を通じた選挙によって選出される。
行政長官と立法会議員全員の直接普通選挙化をどの時期から開始するか、香港返還直後から議論になっている。2007年12月29日に全国人民代表大会の常務委員会が、行政長官の普通選挙の2017年実施を容認する方針を明らかにしたものの、立法会議員全員の直接選挙については今なお時期について言及していない。
司長や局長(英語ではいずれもSecretary、閣僚に相当する)は行政長官の指名により中華人民共和国国務院が任命する。行政長官と司長局長クラスに限っては中国籍の人物でなければ就任できないが、それ以外の高級官僚(部長クラスなど)にはイギリス人やイギリス連邦諸国出身者も少なくなく、新規採用も可能である。
香港基本法の改正には全国人民代表大会の批准が必要であり、香港特区内では手続きを完了できない。同法の解釈権も全国人民代表大会常務委員会が有している。香港の司法府である終審法院の裁判権は香港特区内の事案に限定され、香港が外地ではなく、独立という選択肢がない中国の不可分一体の領域であるためである[44]。詳細は「香港の政党一覧」を参照
現在、基本法によって香港では集会の自由や結社の自由が認められているため、中国本土とは異なり自由な政党結成が可能であり、一定程度の政党政治が実現していた。香港の政党は民主派(民主派〈中国語版、「泛民主派」とも〉、Pan-democracy camp)と「親中派」(建制派〈中国語版〉、Pro-Beijing camp)に大別され、立法会議員全員の普通選挙化について、民主派は2016年からの実施を、親中派は2024年からの実施をそれぞれ主張していた。しかし、民主派は徹底的に弾圧され、現在は、愛国者検査があり、共産党を礼賛する人間以外は立候補すらできない。
2023年、カナダと米国のシンクタンクが合同で発表した「2023年世界自由度ランキング」において香港のランキングは、2010年には世界3位だったものが46位にまで下落している[45][46]。
行政区分香港の衛星写真詳細は「香港の行政区画」を参照
香港には、18の行政上の下部地域がある。1982年に区議会が設置されたことに由来する。その後、九龍地区から新界への人口移動に伴い、区の再編が行われている。1985年に、?湾区から葵青区が分離した。1994年には、油尖区と旺角区が合併し、現在の油尖旺区となった。
香港島
中西区(中西區:Central & Western District)
湾仔区(灣仔區:Wanchai District)
東区(東區:Eastern District)
南区(南區:Southern District)
九龍
九龍城区(九龍城區:Kowloon City District)
油尖旺区(油尖旺區:Yau Tsim Mong District/油麻地・尖沙咀・旺角から成る区)
深水?区(深水?區:Sham Shui Po District)
観塘区(觀塘區:Kwun Tong District)
黄大仙区(?大仙區:Wong Tai Sin District)
新界
北区(北區:North District)
西貢区(西貢區:Sai Kung District)
沙田区(沙田區:Sha Tin District)
大埔区(大埔區:Tai Po District)
元朗区(元朗區:Yuen Long District)
屯門区(屯門區:Tuen Mun District)
?湾区(?灣區:Tsuen Wan District)
葵青区(葵青區:Kwai Tsing District)
離島区(離島區:Islands District)
司法詳細は「香港司法機構」を参照終審法院大楼の剣と天秤ばかりを携えた正義の女神・テミス像。真実と公平性を天秤に掛ける正義の象徴である。
中華人民共和国本土とは異なり、「香港特別行政区基本法」に基づき、英米法(コモン・ロー)体系が施行されている。基本法の規定により、本土の法律は「別段の定め」がない限り香港では施行されない(広深港高速鉄道開業に関しては後述)。基本法の解釈問題以外の法体系はイギリス領時代と全く同一である。従って死刑制度も存在しない。独自の法執行機関も保有している(香港警務処)。
返還によりイギリス領ではなくなったためにロンドンに枢密院を求めることはできなくなった。そのために1997年7月の返還と同時に裁判も原則として、香港特区内で完結する必要性が生じた。そのため、返還後、最高裁判所に相当する終審法院が設置された。この時点で新たに設置の終審法院の判事のために5人以上のベテラン裁判官がイギリスから招聘された。返還後の司法体制のために旧宗主国から高官に当たるイギリス人の人材を新たに招くという「珍事」は中央政府が英米法を厳格に適用するための人材について不足していることを率直に認めたことを表しており、意外な「柔軟性」あるいは「現実適応性」を確認する事象であったといえる。
終審法院の下には高等法院(高裁)、区域法院(地裁)、裁判法院(刑事裁判所)などがある。裁判は三審制である。ただし、基本法の「中央に関する規定」および「中央と香港の関係にかかわる規定」につき、条文の解釈が判決に影響を及ぼす場合、終審法院が判決を下す前に全国人民代表大会常務委員会に該当条文の解釈を求めることとされる。
香港は中国の一部ではあるものの、香港と本土との行き来は出入国に準じた取り扱いとなっている。2018年9月23日に香港と本土を結ぶ広深港高速鉄道(香港西九龍駅?広州南駅)が全線開通したことに伴い、同鉄道内で唯一香港に設置された香港西九龍駅では、香港と本土の出入境管理が行われるようになった。