首都と、実権を握る国家元首の常住地が異なっている場合もある。 憲法や法律で首都を規定している国家では、憲法や法律で規定された名目上の首都と、国家機関が集中する事実上の首都が異なる例が存在する。 遷都を宣言したにもかかわらず、新首都に国家機関の移転が進まず、実際の首都機能の大半が未だ旧首都にとどまっている事例もある。 それとは逆に、新たな都市を建設して首都機能の主要部分を移転するという事例もある。この場合、遷都は宣言されない。また、法的な首都の方にも首都機能の一部は残ることになる。 政治的な事情により、事実上の首都と形式上の首都が異なる国もある。極端な場合、実際には統治していない場所を政治的理由から首都と主張することもある。事実上の首都は「臨時首都」などの名称で呼ばれることもある。 これも政治的な事情により、事実上の首都が国際的には認知されていないという場合もある。 都市国家については、1つの都市が主権を持ち国家となっているため、国家と都市と首都が同義である。シンガポール、モナコがその事例であり、前者は首都シンガポール市がそのままシンガポールという国家、モナコは首都モナコ市がそのままモナコ公国という国家になっている。こうした国家では、地方自治体が存在しない。 面積の小さなミニ国家では、首都が存在しない場合もある。 首都は、国政の中心として交通の便が良い場所が選定されることが多い。したがって、首都と最大都市は、必ずしも一致しない。 首都が最大都市である国(例:日本、韓国、北朝鮮、タイ、イギリス、フランス、ロシア、メキシコなど)もあれば、首都と最大都市が異なる国(下表)もある。 外国大使館は基本的に首都に置かれるが、イスラエルのように、承認に係る事情から外の都市に置かれる例もある。
かつてのアフガニスタン・イスラム首長国(ターリバーン政権のアフガニスタン)では、首都はこれまで通りカーブルであったが、国家元首(首長/アミール・アル=ムウミニーン)であるムハンマド・オマルはターリバーンの発祥地であるカンダハールを離れることはなく、さらに国家の最高指導機関である最高評議会もカンダハールにおかれており、カーブルの政府機関はカンダハールのオマルの承認なしにはいかなる政策も実行することはできない状態に置かれた。この時期のアフガニスタンでは事実上、カーブルとカンダハールの二つの首都が存在し、しかも前者は後者に従属していたということができる。
名目上の首都と事実上の首都の分離
オランダ:憲法上の首都であるアムステルダム[8] と、国家機関所在地であり国家元首である国王(現在はウィレム=アレクサンダー 国王)の常住地(事実上の首都)であるハーグ[注 4]。
ボリビア:憲法上の首都であり最高裁判所所在地であるスクレと、行政府と国会の所在地であるラパス。1826年の建国から1890年まではスクレが名実ともにボリビアの首都であったが、1899年にラパスを拠点とした勢力が革命によって政権を掌握し、翌年に議会と政府をスクレからラパスに遷した。
モンテネグロ:憲法上の首都であるツェティニェと、国家機関所在地(事実上の首都)であるポドゴリツァ。
ベナン:憲法上の首都であるポルトノボと、国家機関所在地(事実上の首都)であるコトヌー。
スルプスカ共和国(セルビア人共和国)(連邦国家ボスニア・ヘルツェゴビナのふたつの構成体国家のうちのひとつ):憲法上の首都であるイストチノ・サラエヴォ(東サラエヴォ)と、国家機関所在地(事実上の首都)であるバニャ・ルカ。
スリランカ:1985年にコロンボからスリジャヤワルダナプラコッテに遷都したが、現在も国会議事堂、森林局などが新首都に移転しただけで、大統領府をはじめ行政機関の大半はコロンボにとどまっている。
インド:従来はデリー(インド首都圏)のオールドデリー地区が首都であったが、新首都として建設されたニューデリー地区に移転。但しニューデリーはオールドデリーと同じく、未だにデリー(正式にはデリー首都圏)の一角をなす行政区分となっているため、法定上の首都はデリーとしている。なお、日本ではニューデリー(地区)とデリー市本体を一括にせず、個別の自治体扱いとして区分されている場合が多い。
タンザニア:法律上の首都であるドドマと、旧首都で今でも国家機関の多くが置かれているダルエスサラーム。
コートジボワール:1983年にアビジャン からヤムスクロに遷都されたが、行政官庁などの移転は進まず(在コートジボワール日本大使館もアビジャンにある ⇒[3])、実質上の首都機能は現在も同国最大都市であるアビジャンが果たしている。
マレーシア:首都はクアラルンプールであるが、連邦政府および連邦裁判所はクアラルンプールの南郊約25kmの場所に建設された新行政首都プトラジャヤへ移転した。ただし、連邦議会議事堂は移転せずにクアラルンプールにとどまっており、法律上の首都はクアラルンプールのままである。事実上、マレーシアはクアラルンプールとプトラジャヤの複都制を採っていることになる。
中華民国(台湾)は、実質上の首都は台北であるが、台北は「臨時首都」に過ぎず、あくまで首都は南京であるとする公文書が存在する。もちろん現在の南京は中華人民共和国の支配下にあるが、中華民国は大陸を支配していた時代には南京に首都を置いていたことに由来する。
朝鮮民主主義人民共和国の首都は平壌であるが、1972年までは憲法上の首都はソウルであり、平壌は統一までの臨時首都とされていた。
イスラエルは、議会でのエルサレム基本法の制定により東エルサレムを含めたエルサレムを不可分かつ永遠の首都と宣言し、国家機関の多くもエルサレムに置かれている。しかし、国際連合や諸外国の多くはこれを認めず、テルアビブを首都と見なし、在外公館(大使館など)を同市に置いている(エルサレム#首都問題を参照)。
日本:明治天皇が二度目の東京行幸で東京城に移って以来、「天皇の存する所=首都」という意味でも日本の首都は事実上京都から東京に遷都したが、「行幸」は「(天皇の)外出」と言う意味であり、出発時に京都民に「留守を頼む」と言ったという真偽不明な話もあって、名目上の日本の首都はいまだに京都にあるという考え方をする者もある(東京奠都参照)。
都市国家
首都が存在しない国
ナウル共和国の首都は通例、政府機関が位置するヤレンであるとされているが、同国には「都市」と呼べるものが存在せず、ナウル政府も自国の「首都」の存在を公認していない。ヤレンは首都というより行政府所在地というのが正確である。
バチカン市国は通例は都市国家であるとみなされているが、実際にはバチカンはローマの北西部に位置する丘の上の城壁に囲まれた約0.44 km2の範囲を指しており、「バチカン市」というような単独の都市を構成しているわけではない。
シンガポールやモナコは都市国家であるため、首都が存在しない、あるいは国家全体が首都といえる。
首都と主要都市
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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