そのため、上級貴族は少しでも子孫にとって優位な出世をさせるための養子縁組を次々と組むようになっていく。極端な例としては、同じく摂関家の藤原忠実とその子・孫のケースが挙げられる。忠実の長男・忠通に男子ができなかったために、忠実は自分が寵愛していたその弟の頼長を忠通の養子にさせた。その後、忠通に実子が生まれて忠実・頼長と忠通が不仲になると、頼長の息子である師長を早く出世させるために、忠実は師長を自分の養子にして蔭位の便宜を図った[* 10]。この結果、師長からみて忠通は本来の系譜上の伯父というだけでなく、同時に祖父でもあり兄でもあるという大変複雑な事態が生じたのである。
鎌倉時代後期以後になると、家督と所領の一体化が進んで嫡子相続が一般的になるにつれて、家の存続を最優先とした養子縁組が行われるようになる。特に武士では、当主に男子がいない場合、もしくは幼少の場合に、主君への忠勤を尽くせないことを理由に所領を没収されるなどの事態を避けるため、養子縁組を行うことが一般的となった。
実弟を養子とすることや、養父の実の息子(養子の義理の弟)を養子が自身の養子とすることはしばしばみられる。これらはいずれも順養子という。後者の順養子の場合、1代限りであれば間に入った養子は中継ぎ的立場になるが、代々順養子を重ねて両統迭立のような形になる例もある[* 11]。また、娘に夫を迎えて養子とする婿養子、大名が参勤交代などの折に、万が一の事態に備えあらかじめ届け出る仮養子[* 12]、大名・家臣が急に危篤になった場合に出される末期養子などがあった。このほか、他家の大名などを縁戚として傘下に取り込みたいが実の娘に適当な者がいない場合、一族や重臣の娘を形式的に養女とした上で娶せることも行われた(養女に夫を迎える形式の婿養子の例もあった)。
江戸幕府は当初は様々な養子規制を設けたものの、慶安の変をきっかけに末期養子の禁を緩め、享保18年(1738年)には当主か妻の縁戚であれば浪人・陪臣でも養子が可能とされた。養子の規制は時代が下るにつれて緩くなり、江戸時代後期には商人などの資産家の二男以下が持参金を持って武家に養子に行って武士身分を得るという持参金養子が盛んになり、士分の取得を容易にした[* 13]。一方、商人・農民などの庶民間における養子縁組は、証文のやり取りだけで縁組も離縁も比較的容易であり、「家名の存続」よりも「家業の経営」を重視した養子縁組が行われることが多かった[* 14]。また、享保の制度変更によって女性の名義では借家を借りることができなくなったことから、女性だけの世帯が家を借りる際には、男性の名義を借りるための便宜的な養子縁組が行われるようになった[13]。
明治時代以後になると「家」を社会秩序の中心に置く家制度が全ての階層に広げられた結果、養子縁組も家制度の維持という観点で行われることが多くなった。それが大きく変わるのは第二次世界大戦後の日本国憲法制定に伴う民法改正以後のことである。 日本の旧民法において、養子縁組は、養親の家に入り、養親の嫡出子たる身分を取得することであるといえる。養子は法定血族の一種である。 養子縁組を成立させるための法律構成としては、契約型と決定型とに立法例が分かれる。 契約型は、養親になる者と養子になる者の契約により養子縁組を成立させる形態であり、スイスやオーストリアなどで採用されている。また、ドイツやフランスでも以前は契約型が採用されていた。日本では、民法792条 契約により養子縁組が成立するとはいっても、養子になる者が幼少である場合などは、自ら有効に縁組契約を結ぶことは不可能なので、そのような場合は法定代理人などが代わって縁組の承諾をすることになる。日本では、養子になる者が15歳未満である場合は、法定代理人が養子になる者に代わって縁組の承諾をする(代諾養子)。 また、養子になる者を保護する観点から、契約型を採用する場合でも公的機関の関与を要求することがある。日本では、未成年者を養子とする場合は、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合を除き、家庭裁判所の許可が必要になるし、後見人が被後見人を養子とする場合も、家庭裁判所の許可が必要になる。 養子が婚姻(結婚)する場合、婚姻届の父母の氏名欄には実父母の名義を書き、養父母はその他の欄に書くことになっている[14]。
日本の旧民法における養子縁組
養子になる者は、養親たるべき者の尊属または年長者でないこと、法定推定相続人たる身分でないことが必要である。
配偶者のある者は、配偶者と共同してのみ養子縁組をなすことができる。
養子は養子縁組の日から養親の嫡出子たる身分を取得するため、養親に養子縁組前に生まれた子女がある場合、養子は年長者であっても法律上、これらの子女より年少者として扱われる。
養子は養親の家に入るが、養親と同居する義務を負わない。
養子は養親およびその直系尊属との間に、互いに扶養の権利義務を有する。
養子は養方の血族と親族関係を持つが、このために実方の血族との親族関係を失わない。
養子は実家における家族たる身分を失い、また実親の親権を脱して、養親の親権に服する。
養子とその直系卑属またはその配偶者と、養親またはその直系尊属との間では、離縁によって親族関係が消滅したのちもなお、婚姻をすることができない。
養子縁組制度の法的理論
養子縁組の成立構成
契約型(普通養子)