食品
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19世紀に入り、産業革命によって科学および工業力が大幅に進歩すると食品もその影響を受け、流通システムの進歩と合わせて近代的食品工業の成立[33]や食品科学および栄養学の成立[34]、そして食品の安全規制の導入[35]などが行われ、食品に関する事情は大きく様変わりした。農業社会の場合、前近代においては炭水化物を供給する単一の主食に頼る食生活を送っていたが、経済成長や流通の整備などによって先進国では多種多様な食品が食卓に並ぶようになり、主食への依存は大きく減少した[36]。一方、発展途上国においてはいまだに穀物やイモ類などの主食に依存する食生活が続いているところが多い[36]

ある個人が食品から栄養素を十分に摂取できなかった場合は栄養失調、十分にカロリーを摂取できなかった場合は飢餓、ひとつの地域において食品の供給が不足した場合は飢饉が発生する。世界の食糧生産量の数字だけを見れば、その数字は常に必要量を上回っており、さらに20世紀の人口爆発においても、緑の革命などの食糧生産技術の革新によって、「1人あたりの食糧生産量」はむしろ大きく増大した[37]。しかし、飢餓は21世紀においても消滅していない。その原因として、貧困などによって食糧を入手できないという食糧の再配分における問題が指摘されており、富裕国から貧困国への食糧援助や貧困の削減による問題解決が図られている[38]。また、最低限のカロリーを確保することができ飢餓に陥っていない場合においても、必要な栄養素をすべて確保した健康的な食事を取るにはさらに費用が必要となるため、栄養失調となっている人びとは多い[39]。一方、食品ロスの問題も深刻であり、世界で生産された食品の1/3が食用とされることなく廃棄されている[40]
地域・宗教的な差赤ワインアルコール類は地域によって禁忌とされる地域が存在するフグの刺身。フグは有毒であるため食用とする地域が極端に少ない「食のタブー」も参照

食品とされるものは文化・地域的な的な差が小さくなく、ある地域において重要な食品とされているものが他地域では食品とみなされていないということは珍しくない。例えば昆虫は、熱帯亜熱帯を中心にかなりの文化が昆虫食の文化を持っている一方、ほとんど昆虫食文化を持たず食品とすることに強い抵抗感を示す地域も多く存在する[41]

また各宗教ごとに戒律などの食物規定が大きく異なるので、各宗教圏ごとに食べられるものが異なっている。例えばユダヤ教ではトーラー(モーセ五書)の規定によりカシュルートと呼ばれる食物規定がありその規定に適合したものだけが「カシェル」(=清浄規定に適合し食べてよいもの)とされ、反芻せず蹄が分かれていない動物の肉、およびひれと鱗のない魚などは食べることを禁じられているため、豚肉、クラゲ、ナマズ、サメ、アワビ、ハマグリ、ホタテガイ、カニ、エビ、イカなどはそもそも「不浄な生き物」とされ食べることを禁じられている[42]

イスラム教では『クルアーン』で「不浄」とされるを食べることが禁忌とされ、またその他にも食肉を中心にイスラム法で許された食材(ハラール)を食べることが求められる[43]ヒンドゥー教においては「聖獣」とされるを食することが強く忌避されているが、この他にも肉食全般への忌避感は強く、上位カーストを中心に魚やニワトリ、卵さえも口にしない厳格な菜食主義を実践する人びとも多い。ただしヒンドゥー教は完全菜食主義は採っていないため、殺生を伴わない乳製品はむしろ盛んに食されており、ヒンドゥー教徒の食生活にとってなくてはならないものとなっている[44]

同様に禁忌とされることが多い食品としては酒がある。イスラム教では酒は教義上禁じられている[45]。ヒンドゥー教では酒は禁忌とされてはいないが、社会的には非常に好ましくないものとされている[46]。一方で酒は聖性を帯びることも珍しくなく、神道において神酒を供えるように酒を神への供物とする風習は世界中に広く見られ、またキリスト教においてはパンとワインが聖餐に用いられる[47]

宗教の戒律以外でも、菜食主義者の他、すべての動物性食品の摂取を拒否するヴィーガンのように、みずからの信条に伴いある食品を拒否する人々は存在する[48]。また、普通に流通している食品であっても、個人によっては摂取した際にアレルギー反応を起こし、体にさまざまな症状を引き起こす場合がある。強い食物アレルギーがある場合、最悪の場合は死に至ることすらある[49]

さらに、世界のほとんどで食用とされないものを、ある文化の人々が特殊な処理方法によって食品とすることもある。例えばフグには強いがあるためほとんどの文化では食用としないものの、日本においては有毒部分を取り除いたものが美味として広く流通している。

上記のような極端な例を除いても、各地域において主に用いられる食品の違いはなお大きい。各地域はそれぞれ主に炭水化物を供給する主食を持つが、それにもコムギ、コメ、トウモロコシなどの穀物を主食とする地域から、キャッサバタロイモなどのイモ類を主食にする地域まで幅がある[50]。乳製品も地域的な差の多い食品であり、遊牧民を中心に広い範囲に乳製品の利用圏が広がっている一方で、東アジアや東南アジアでは伝統的に乳製品を用いてはこなかった。しかしこうした食品の地域差は、とくに1990年代以降の急速なグローバリゼーションの進行によって標準化が進みつつあり、全体として縮小する傾向にある[51]。特色ある食品や料理はその地域文化の核となることも多い。ヨーロッパでは19世紀に民族意識やナショナリズムが興隆した結果、各地でその地域を代表するような名物料理が成立し、民族・地域意識の核のひとつとなってきた[52]

食品と祭礼年中行事との関連は深く、特定の行事の際に食される行事食は数多い。例えば日本においては土用の丑に食されるウナギや、冬至に食されるカボチャ端午の節句の際のちまきなどがこれにあたる。中華圏では中秋節の際に月餅が贈り物とされ、北アメリカでは感謝祭の時にシチメンチョウを食べるのが定番となっているなど、このような行事食は世界中に存在する[53]
産業

食品は、食品を生産する農業水産業、加工しさまざまな加工食品を生産する食品工業、生産された食品を集荷し流通させる運輸業卸売、そして食品小売業にさまざまな料理を消費者に提供する外食産業まで、フードシステム(英語版)と呼ばれる巨大な産業構造を形作っている[54]。1980年代以降、こうしたアグリビジネス企業の巨大化が農業生産・食品加工・食品小売の各部門で進んでいる[55]一方で、世界各国に無数の中小食品企業が存在して生産を続けており、大企業と中小企業が併存する構造となっている[56]
食品行政
日本
食品表示詳細は「食品表示」および「食料政策」を参照

日本では多くの食品が農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(通称JAS法)によって日本農林規格に従った表示が義務付けられている。1999年平成11年)の改正によって、消費者向け飲食料品への品質表示(産地・原料など)が義務化された。このほか食品衛生法および健康増進法にも食品表示の規定が存在したが、2013年(平成25年)に食品表示法が制定されたことでこれら三法の食品表示規定が一本化された[57]。また、2009年(平成21年)10月の消費者庁発足により、食品安全行政の所管省庁が消費者庁に一元化された[57]
食品衛生法詳細は「食品衛生法」を参照

食品衛生法(昭和22年法律第233号)は、日本において飲食によって生ずる危害の発生を防止するための法律。所管は厚生労働省消費者庁


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