渤海国は、朝鮮史料・中国史料においては一般にみな渤海あるいは靺鞨と称する[5]。 武徳5年(622年)、渠長の阿固郎が唐に来朝。太宗の貞観2年(628年)に臣附したため、唐はその地をもって燕州とした。高句麗討伐戦(唐の高句麗出兵)ではその北部で反き、高句麗と連合した。高句麗の高恵真らは衆を率いて安市城を援け、靺鞨は常に前線で戦った。唐軍は安市城を破り、高恵真を捕え、靺鞨の兵3千あまりを収めて悉くこれを生き埋めにした。 開元10年(722年)、黒水靺鞨酋長の倪属利稽が唐に来朝、玄宗は彼を勃利州刺史に拝した。 開元13年(725年)、安東都護の薛泰が、黒水靺鞨内に黒水軍を置くことを請願したため、唐はその最大部落をもって黒水府とし、その首領を都督とし、諸部の刺史はこれに隷属した。また唐は長史を置いてその部落を監領させた。 開元16年(728年)、唐は黒水都督に唐の国姓である李氏を賜い、名を献誠とさせ、雲麾将軍兼黒水経略使を授け、幽州都督をもってその押使とした。 後に渤海国が強盛になると、黒水靺鞨はこれに役属したが、唐に対してもたびたび使者を送って朝貢をした。 五代十国時代、渤海国が契丹によって滅ぼされると(926年)、黒水靺鞨は契丹に附属した。やがて、黒水靺鞨の中でも南に在って契丹に属した者たちは熟女直と号し、北に在って契丹に属さなかった者たちは生女直と号すようになる[6]。 婦人は布製の服をまとい、男子は猪(イノシシ)や犬(イヌ)の皮を衣とする。また、髪型は皆髪を編んでいる(辮髪)。 牛と羊がいないが、猪(ブタ)を多く飼っており、食物は主にその猪を食す。また米を噛んで製造する酒、いわゆる「口噛み酒」を造って飲む。 住居は塚状の穴居式で、塚の上部に入口があってそこから梯子を使って下へ降りる。 ?婁人と同様、最大の特徴である「人尿で手や顔を洗う」という風習も受け継いでおり、中国の史書では「諸夷で最も不潔」と評される。 彼らの使用する毒矢は殺傷能力に優れており、命中すれば必ず死に至り、毒薬の製造過程で発生する湯気でも死に至るという。その毒薬の製造は毎年の7月8月に行われる。弓の長さは3尺、箭の長さは尺二寸、石(フリント質)を使って鏃(やじり)とした。石の矢じりを使うのは拂涅部より以東の者たちであり、彼らは古の粛慎氏の後裔とされる。 地面に穴を掘って死者を埋めるが、棺はない。生前乗っていた馬を殺して屍前に供える。 特に統一的な君主はおらず、各部族ごとに酋長がおり、その酋長(渠帥)を大莫弗瞞咄といった。 靺鞨が女真の別名であることから[7]、言語は女真語と同じくツングース語の南方グループに属す。比較言語学的研究によれば、粛慎系の語彙はツングース系言語の語彙に近いとされてきた[8]。また発掘調査による出土品から、靺鞨時代の日用品や居住形態・食生活などが文字記録の残っている女真時代へと連続している事が確認されている[9]。 他には古シベリア(古アジア)系説があり、その独特の言語、習俗から、靺鞨等の粛慎系の言語はツングース系ではなく、ニヴフ(ギリヤーク)などの古シベリア系ではないかとした説。セルゲイ・シロコゴロフ
黒水靺鞨
習俗
衣食住
人尿洗顔
毒矢
埋葬
政治体制
言語系統・文字詳細は「靺鞨語」を参照
^ 日本大百科全書『靺鞨
^ 『隋書』列伝第四十六
^ 『旧唐書』列伝第一百四十九下 北狄
^ 吉本智慧子 (2008年12月). “Original meaning of Dan gur in Khitai scripts: with a discussion of state name of the Dong Dan Guo”
^ 『新唐書』列伝第一百四十四 北狄、『旧五代史』外国列伝二
^ 『宋会要輯稿』「唐貞観中,靺鞨来朝,初聞女真之名」
^ 白鳥庫吉『塞外民族史研究』岩波書店〈白鳥庫吉全集〈第4巻〉〉、1970年1月1日、536頁。"?貊の言語には多量のTunguse語に少量の蒙古語を混入していることが認められる。想うにこの民族は今日のSolon人の如く、Tunguse種を骨子とし、之に蒙古種を加味した雑種であろう。"。
^ 高凱軍『通古斯族系的興起』中華書局、2006年。
^ セルゲイ・シロコゴロフ『北方ツングースの社会構成』岩波書店〈東亜研究叢書〈第5巻〉〉、1941年。
^ 三上次男『古代東北アジア史研究』吉川弘文館、1977年。
^ 『旧唐書』列伝第一百四十九下北狄「俗無文字」
参考資料
『隋書』列伝第四十六
『旧唐書』列伝第一百四十九下 北狄
『新唐書』列伝第一百四十四 北狄
『旧五代史』外国列伝二
『金史』本紀第一 世紀
シロコゴロフ『北方ツングースの社會構成』川久保悌郎・田中克巳訳(1942年、岩波書店)
『白鳥庫吉全集 第4巻』(1970年、岩波書店)
井上秀雄 他訳注『東アジア民族史1?正史東夷伝』(1974年、平凡社東洋文庫)
三上次男『古代東北アジア史研究』(1977年、吉川弘文館)
加藤九祚『北東アジア民族学史の研究』(1986年、恒文社)
三上次男・神田信夫編『民族の世界史3 東北アジアの民族と歴史』(1989年、山川出版社)
高凱軍『通古斯族系的興起』(2006年、中華書局)
関連項目
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室韋
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