雲伯方言
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出雲のアクセント二拍名詞語例二拍目広母音二拍目狭母音
1類・2類風・石○○、○○が○○、○○が
3類池・足○○、○○が○○、○○が
4類・5類雨・息○○、○○が○○、○○が、または○○、○○が

隠岐のアクセントは、中国地方全体に対立する異色のもので、また狭い範囲でも地域差が激しい。大きく分けても知夫、浦郷・海士・磯・西郷、都万・五箇・中村の3つに分けられ、それぞれも集落による違いがある。下表はそれぞれの代表地点として知夫・海士・都万のアクセントを示したもので、/で区切られた左側が助詞を付けない単独形、右側が助詞を付けた形である(例えば知夫での「池」は「いけ」「いけが」)。海士にある「降」は拍内下降を表す[26]。知里のアクセントは、拍数が増えてもアクセントの型の種類は2種類のみである。また、五箇には「あずき」「かねもち」のように一語で高音部が二ヶ所現れるものがある。

隠岐のアクセント二拍名詞語例知夫海士都万
1類風・口低高/中低-高低降/低高-低低高/低低-高
2類・3類池・石高低/高高-低高低/高低-低高低/低高-低
4類・5類雨・息低高/中低-高低高/低高-高低低/低低-低
詳細は「隠岐方言のアクセント」を参照
文法
用言・助動詞
断定
断定の助動詞は、山陽が「-じゃ」であるのに対し、雲伯方言を含む山陰一帯で「-だ」となっている。出雲南部の広島県との県境付近では、過去形に限り「-じゃった」が「-だった」と併用される
[27]。隠岐でも終止形は「-だ」であるが、過去形には「-だった」と「-じゃった」の両方が用いられる。隠岐の島後北部では「-じゃった」が優勢、島後南部では「-だった」が優勢で、島前では「-だった」が一般的だが、知夫里には「-じゃった」もある[28]
打ち消し
動詞の打ち消しは「未然形+ん」が一般的だが、高齢層を中心に「未然形+の」も用いられる[29][30][31]。さらに、隠岐では「未然形+ぬ」という形もある。雲伯方言で盛んな「ウ→オ」の変化で、「ぬ」が「の」に変化したとみられる[32]。また強く否定する言い方として、西伯耆では四段動詞で「書きゃせん(しぇん)/書きゃへん」、一段動詞で「起きりゃせん(しぇん)/起きりゃへん/起きらへん」、カ変「くりゃせん(しぇん)/くりゃへん/くらへん」、サ変「すりゃせん(しぇん)/すりゃへん/すらへん」が用いられる[33]。これが出雲では「行かせん」「見らせん」のようになる。隠岐には、打ち消しの強調に「書かしぇの」(書きはしない)という形がある。過去の打ち消しは、隠岐では「書かざった」(書かなかった)のように「-ざった」を用いる。出雲では「-ざった」は少なく「-(ん)だった」が一般的で、出雲南部には「-じゃった」もある。また隠岐の島前には、過去打ち消しの強調として「えけさった」(行きはしなかった)のような「-さった」がある。[32]このほか、打ち消しの意味を含んだ言い方として出雲では、「行かな」(行かないと)、「行かんこに」(行かずに)、「行かんで・行かで」(行かずに)、「行ったてて・行きたてて」(行ったって)、「行かでも」(行かなくても)と言う。隠岐では、「行かのなら」(行かなければ)、「行かすと・行けーで」(行かないで)、「行けーでも」(行かなくても)と言う。また隠岐では、「行かーつけ」(行くものか)のような「-つけ」を使う否認形式や、「えも行かぬ」(行けない)のような古語法もある。
音便形
ワ行四段動詞が「-て・た」に接続する場合、西日本方言の大部分で「買うた」「食うた」などのウ音便になるが、雲伯方言では「買った」「食った」などの促音便となる。また、「-アウ」型の動詞(特に二拍語)は、隠岐を除き、「かあた」(買った)や「ああた」(会った)のような活用となる。また、出雲には「食うた」もある。[34]「行く」の過去形は、高齢層では「行った」ではなく「いきた」や「えきた」になる[35]
意志・推量・勧誘
「行こう」のような五段動詞の意志・勧誘には、雲伯方言では「行か」「行かあ」「行かい/行かえ」「行かや」などが使われる[36][37]。また、出雲では「こい」が付いた「行かこい」のような形が多く使われる[37]。また、「-だろう」は「-だら」や「-だらあ」が用いられるほか、出雲南部や隠岐では「-じゃらあ」も用いられる[38]。また出雲市付近では「-であらむず」から変化した「-だらじ」もわずかながら用いる[39][40]
進行・結果
中国方言などでは「-している」と言う場合に、動作が進行中の場合には「-よる」と言い、完了した動作の結果には「-とる・ちょる」と言うアスペクト(相)の区別がある。雲伯方言のうち、西伯耆ではこの区別があるが、出雲・隠岐ではこの区別がほとんど無い。「降る」を例にとると、西伯耆では進行には「ふりょーる」などと言い、完了には「ふっちょる」「ふっちょー」などと言う[41][42]。一方、出雲・隠岐では進行・完了ともに「ふっとる」「ふっちょる」などと言う。ところが、出雲・隠岐でも、過去の進行には西伯耆と同じように「-よった」の形(「ふりょーった」など)を使う[43][44]
様態・伝聞
様態(-そうだ)には、「-さな・さーな・さーげな・さげな・げな」を用いる。伝聞には、「雨ださな」(雨だそうだ)などのように「-さーな・さな・げな」を用いるほか、出雲や米子市などでは「-しこだ」も盛んである。
動詞の五段化
出雲にサ変の五段化した「さん」(しない)という形がある。また出雲で、一段活用をする動詞の命令形に「開けれ」「起きれ」「せれ」のような形が聞かれる。
個別の動詞
西日本一般で五段活用をする「飽く」「借る」は、隠岐・出雲では上一段活用の「飽きる」「借りる」である。また、隠岐には上一段活用の「待ちる」(待つ)がある。[45]ナ行変格活用の「しぬる・しぬー」(死ぬ)、「いぬる・いぬー」(帰る)が存在している[37][46](ほぼ中国地方全域にある)。「行く」の過去形が音便形にならず「えきた」(行った)となる[37][31]
助詞

主格を表す格助詞に、「が」のほか、出雲・隠岐で「の」が現れることがあるが、すでに衰退が進んでいる。また隠岐に、「肉に好きで」(肉が好きで)、「田に下手で」(田仕事が下手で)のような対象を表す「に」がある。「を」は、出雲では「酒飲む」のように省略されることが普通。隠岐でも省略されることがあるが、一般には「えしゅー・えしょー」(石を)のように前語と融合して発音される。[47]

引用を表す「と」は、出雲では省略されることはない。「という」は出雲では「つー」(所によっては「てー」)、隠岐で「てお」「てぉー」「ちゅー」となる。[48]

副助詞では、出雲で「茶だえ出さん」のような「だえ」を頻用する。また係り結びの残存があり、出雲には「こさえ(れ)」、隠岐には「腰こそ痛けれ」(腰は痛いし)のような「こそ」がある。

文末詞では、出雲・隠岐に「な」「の」があり、「な」より「の」の方が上品。出雲では「ね」も盛んに用いられ、「ねー」「ねや」とも言う。「で」「わ」も島根県全域で用いる。また隠岐の島前に「さら」があり、主に高年女性で使われる上品な表現である。隠岐の島後には伝聞を表す「ちょ」がある[49]。また、出雲で間投助詞に「けー」を多用する。

接続助詞のうち、「から」にあたる原因・理由には、「けん・だけん」が盛んで、他に「けに・だけに」「け・だけ」もある。また隠岐には「によって」もある。「けれども」にあたる逆接には、西伯耆のうち米子市で「だども・だーも・だも」、日野郡で「だえど」、弓ヶ浜半島で「だえって・だえっちゃ」が使われ、出雲で「ども・だども」が多く用いられる。隠岐では一般に「だえど・だいど」を用い、過去の意味を含んだ「たけれども」の意味では「たえど」にもなる。[50][51]
敬語表現

雲伯表現には多彩な敬語表現があり、複雑な体系を持っている。

出雲での尊敬の助動詞には、代表的なものに「-しゃる/しゃー」「-さっしゃる/さっしゃー」「-なはる/なはー」「-なる/なー」がある。ほかに「-れる・られる」、「おいでる」(行く・来る・いる)、「ござっしゃる」(来る・いる)がある。出雲では「-しゃる・さっしゃる」はよく用いられるが、敬意の度合いは高くない。「-なはる」も多く用いられ、「-しゃる・さっしゃる」より敬意が高い。また「-なる」は「-なはる」を略したもので、新しい言い方とされる。[52]

隠岐では、尊敬の助動詞として主に「-しゃる」「-さっしゃる」「-しゃんす」「-さっしゃんす」があり、このうち「しゃんす・さっしゃんす」が高い敬意を表す。また「ござんす」があり、本動詞(来る・いる)や補助動詞(-ている・てくる)の尊敬語として、また丁寧語としても用いられる。「ござる」もあり、命令形の「ござい」は広い世代で盛ん。[52]

西伯耆では、「-なはる/なはー」「-なる/なー」が尊敬の助動詞として多く用いられる。
語彙

あのさん、このさん・・・あの人、この人

おぞい、おぞがい・・・怖い、恐ろしい。

おちらと・・・ゆっくりと

きょとい、きょてー、きょーとい・・・怖い、恐ろしい。
[53]「まあ、あの人はきょといわ(怖いわ)」「あー、きょと、きょと(怖、怖)。逃げとくだわ。」

ごす・・・くれる。(例)「○○さんが、わに(私に)野菜をごいたわ(くれた)」。命令形では「ごせ」、丁寧語では「ごしなる」、依頼形では「ごしなはい(ごしない)」となる。

ぞんぞがさばる・・・寒気がする。「ぞんぞ」は「寒気」。「さばる」単体では「つかまる、触る」の意味となる。

たいぎい・・・面倒。古語の「大儀」(ほねがおれること、面倒でくたびれること)に由来する。中四国全域の方言で広く使われる語彙。

ただもの・・・度々。毎度。[54]商売人がだんだんとあわせて使い、「ただもの、だんだん=毎度あり」になる。


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