雪崩
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そこで使われているのはスノーシェルターやスノーシェッドと呼ばれるもので、これは線路の上を雪崩が通過するように、庇(ひさし)や屋根を設けるという対策である[7]
雪崩テスト

雪崩に関する情報交流を行っている非営利団体カナダ雪崩協会(英語版)(CAA)では、日本など様々な国に雪崩に対するトレーニングや情報交流を行うほか、『OBSERVATION GUIDELINES. AND RECORDING STANDARDS. FOR WEATHER, SNOWPACK. AND AVALANCHES』という無料の雪崩対策PDFを公開しており、その中でさまざまな雪崩が起こる積雪のチェック方法が掲載されている[8][9]

積雪断面観測

雪質チェック

ハンドテスト - 雪の層にグローブを付けた拳を押してへこむ(F、硬度脆弱)、指4本(4F 硬度低い)、指1本(1F 硬度中)、鉛筆の尖ってない方、ナイフ

弱層テスト

コンプレッションテスト - 上面30x30cmの広さの雪の柱に掘り出す。柱が作成中に壊れたら脆弱、シャベルを上に置き上から手の先端、肘まで、腕全体でそれぞれ5-10回叩き壊れるか判断する。

シャベルシアーテスト - 25cmx35cmの雪の柱を掘り出し、柱の側面にシャベルを押し当て積雪層に対して平行に力を加え崩れる強度と崩れ方を見る。


警報システムツェルマットにある雪崩監視用レーダー局[10]

現代のレーダー技術によって、いかなる天候の下でも、昼夜の別なく、広範囲を監視して雪崩の発生場所を検知することが可能となった。危険にさらされた地域を通行止めにする(例:鉄道や道路)、あるいは、その地域から避難させる(例:工事現場)ために、短時間のうちに雪崩を検知できる複雑な警報システムも存在する。そのようなシステムの例として挙げられるのが、スイスのツェルマットへの唯一のアクセス道路に設置されているものである[10]。この道路から上の山岳斜面を二つのレーダーで監視している。システムが雪崩を検知したら、人的被害を防止するために、数秒以内で進入禁止柵や交通信号を起動して、道路を通行止めにする。
雪崩地形における安全対策
地形の検討を流れ降りる雪崩

地形の検討とは、どの斜面を通るかを慎重に選ぶ事により、雪崩地形を通過する危険を避けるという事である。考慮すべき点としては次のような事がある。

斜面の下を回らない事(雪塊の支えを壊してしまうから)

盛り上がった円筒状の場所を歩かない(雪塊に張力が掛っている場所だから)

露出した岩のような弱点からは距離をとる事、地形的な罠にはまり易い斜面には近づかない(下に溝があってはまる、崖があって落ちるなど)。

グループ対策

グループ対策とは、グループのメンバーあるいはグループ全体が雪崩に巻き込まれる危険を避ける方法である。斜面にいる人間の数を最小限にし、散らばって行動する。理想的には、一人が斜面を通過する間、他の人間はその人間を援護できるように安全な場所に待機しており、その一人が雪崩の危険のない場所まで行けたら、次の人間が待機をやめて行動するようにすると良い。ルートを選定する上では、ルートの上と下にどのような危険が潜んでいるかを考慮し、予想外の雪崩に巻き込まれたらどうなるかを考えておくべきである(例えば、「起こる可能性は低そうだが、仮に起これば致命的だ」など)。停止や宿営は安全な場所でのみ行う。雪に埋まった際に低体温になるのを遅らせるために温かい衣服を着用する。グループの人数を決める上では、あまりに少人数過ぎると、いざという時に有効な救助が出来ないが、あまりに多人数過ぎると安全管理をしにくいという事を天秤に掛けて決める。一般的に単独行動は勧められない。なぜなら、あなたが埋まっている事に気付く人がおらず、従って誰も救助に来ないからである。更に、雪崩の危険性は、そのルートを使えば使うほど高まる。つまり、スキーヤーによって斜面が乱されれば乱されるほど、雪崩は起こりやすくなっていくという事である。最も大事な事は、グループ内で安全な場所・脱出ルート・斜面の選択などについてはっきりと伝える事、また全てのメンバーの雪山における移動技術・雪崩救助技術・ルートファインディング技術の程度をしっかりと理解しておく事である。
危険要因を知る事

雪崩の危険要因を知るには、その地域の気象履歴、現在の天気と雪の状況、そしてメンバーの経歴や体力・健康状態など、多岐にわたる情報を集めて蓄積する事が求められる。
リーダーシップ

雪崩地形においてリーダーシップを発揮するには、見つかった危険要因に対して、その危険を避けるための、はっきりとした意思決定の手順を持つ事が必要となる。このような意思決定のための枠組みを、ヨーロッパや北米では国家雪崩センターなどの色々な訓練コースにおいて学ぶ事が出来る。雪崩地形でのリーダーシップを発揮するための基盤は、無視されたり見落とされたりしてきた情報を正直に評価し、見積もる事である。最近の研究では、心理的および集団力学的な要因が雪崩被害に結びついている事が示されている。
人の生存率

小規模な雪崩であっても、適切な訓練を受け適切な装備をした仲間と一緒であっても、雪崩に遭えば生命が深刻な危険にさらされる事に変わりはない。屋外で埋まった被災者の55 - 65%は死亡しており、また雪に埋まらなかった被災者であっても、その生存率は80%である。(McClung, p.177).

雪崩に巻き込まれた場合、
外傷

窒息

低体温

と言った原因で死が訪れる。

雪崩に埋没してから15分程度で急速に生存率が下がるが、これは呼吸空間が確保できたかどうかの差が大きい。そのため、雪崩に巻き込まれた場合は両手を使って口のあたりに空間を作るようにするのが望ましい。ただし、呼吸空間が確保された場合も、長時間経過すると、呼気により一旦融けた雪が再度凍り口の周りに氷の壁が形成されて呼吸が出来なくなるアイスマスク現象や、雪に体温を奪われる事による低体温などで徐々に生存率が下がっていく。

スイスで行われた、雪崩に埋まった422人のスキーヤーについての調査[11]によれば、次の通りである:

生存率は埋まってから15分以内で92%まで低下し、埋まってから35分後には30%にまで低下する(死因が窒息の場合)。

2時間後には生存率はほぼ0%となる(死因が外傷あるいは低体温症の場合)
(歴史的には、生存率は15分以内で85%、30分で50%、1時間で20%と見積もられていた)。

従って、雪崩に遭った場合は救助隊を待つのではなく、その場にいる被災しなかった人員を全員使って直ちに捜索・救助活動を行う事が極めて重要である。かなりひどく怪我をした者がいる場合、あるいは初動の捜索(つまり、少なくとも30分間の捜索)をしても見つからない者がいる場合は、救助隊を呼ぶ。フランスのように雪崩対策の装備の充実した国であっても、ヘリコプターの救助隊が到着するには通常45分は掛かるが、それまでには被災者の大部分が死んでいる。

多少でも生存の可能性を信じるならば、可能な限り迅速な救助が望ましく、遭難パーティーによるセルフレスキュー以外には生存者の救出は不可能と考え、救助隊による捜索は遺体捜索であると考えるべきである。

救助活動による二次遭難の危険が高い場合は、生存者の生命を危険にさらすべきではないが、心情的に割り切れるかどうかは難しいところであろう。

春の融雪の時期まで犠牲者が見つからない場合もある。あるいは、数年以上も経って遺留品が氷河の中から現れる事もある。
捜索および救難のための装備雪崩対策装備。左から雪崩エアバッグ、プローブ、ショベル、ビーコン

グループの全員が標準的な雪崩対策装備の使い方の訓練を受け、実際にその装備を身に付けて使う事によって、雪崩に埋まった被災者を発見し救助できる確率は向上する。しかしながら、それは自動車シートベルトと同じようなものと考えるべきで、その装備を身に付けているからといって、いざという時にも命は助かるなどと考えて危険な行動をとってはいけない。ビーコン、ショベル、プローブは雪崩危険地帯で行動する場合の最低限の装備であると考えられている。
ビーコン雪崩ビーコン雪崩ビーコン詳細は「雪崩ビーコン」を参照

ビーコン(beacon)は「ビーパー」(beeper)、「ピープ」(peep, piep)、「ARVA」(フランス語のAppareil de Recherche de Victimes en Avalancheの略)、「LVS」(スイスにおけるドイツ語のLawinen-Verschutteten-Suchgeratの略)、雪崩発信機、その他多くの商標名など、さまざまな名称で呼ばれている。これはパーティーの全てのメンバーにとって重要なもので、ビーコンを装備している場合の生存率は、装備していない場合の三倍程度と推定されている。ビーコンは、通常の使用状態では457kHzの周波数で「ビー」という無線信号を出すが、受信モードにスイッチを切り替えると、雪崩に埋まった80m以内の被災者の位置を探る事が出来る。アナログのラジオ受信機であっても、「ビー」音は聞けるので、捜索者はそれによって被災者への距離を見積もることができる。受信機を効果的に使うには、定期的な訓練が必要である。いくつかの古いモデルのビーコンは違う周波数(2.275 kHz)の電波を出しているので、そのようなビーコンを使っているメンバーがいない事をグループのリーダーは確認する必要がある。

最近のデジタルモデルでは、被災者までの方向と距離を画面に表示するタイプの機種も登場しており、これならば訓練も少なくて済み、有用であるとされている。一方、デジタルモデルはアナログモデルよりも電波の受信可能範囲が狭いとも言われている[12]。雪崩の堆積物の範囲は、幅と長さが100-200メートルの広範囲に及ぶ場合もあるが、雪塊や凍った斜面などで足場も悪いため、受信範囲の狭いビーコンで広範囲を捜索するのは容易ではない場合もある[13]

いずれにせよ、ビーコンが役に立つのは、比較的小規模(埋没者が生存しているうちに救助できる程度の規模)ではあるが、完全に埋没してしまう程度の規模(完全埋没していない場合は自力で脱出が可能だったり、そもそもビーコンなしでも捜索可能)で、雪崩に巻き込まれたときの外傷で死に至ることがないようなケースにおいては有効に働くという程度に認識しておくべきであろう。ただし、当然、埋没者以外に救助を行う人間が残っていることが前提となる。
プローブ

携帯用の(折畳式の)プローブは、伸ばして探り棒として使う。ゾンデ棒(ドイツ語由来)ともいう。雪に数メートルの深さまで突き刺して、埋まった被災者の正確な位置を探るためのものである。複数の被災者が埋まっている場合、探り棒で救助の優先順位を決める。すなわち、最も浅く埋まっている者を最初に掘り出す。何故なら、助かる可能性はその浅く埋まっている者が最も高いからである。

ビーコンなしで辺り一面をプローブだけで捜索するのは非常に時間のかかる作業である。米国では、(1950年以降)プローブによる捜索で見つかった140人の被災者の内、86%は既に死亡していた[14]。深さ2mよりも深く埋まっている場合、生存する事も救助される事もまれである(約4%)。捜索においては、まずはビーコンも活用しつつ、雪面に残されている痕跡を目視で探し、その後にプローブを用いるべきである。
ショベル

雪崩が止まるとき、その減速の際に雪が圧縮されて固い塊になる事が多い。このため被災者を掘り出すにはショベルが不可欠である。なぜなら、被災者の上にかぶさった雪は固く締まっており、手やスキーでは掘りにくいからである。ヘラが大きく、取っ手が頑丈である事が重要である。また、例えば軟弱な雪の層が大きな荷重を支えているといった、雪の塊の中に潜んでいる危険性を調べるために雪に穴を掘る「弱層チェック」を行う上でもショベルは役に立つ。
RECCOシステム

RECCOシステムは世界の多くの救助機関で使用されている。RECCOシステムは二つの部分から成るシステムで、救助隊は小さい手持ち式の検知器を使う。この検知器は、コート、ブーツ、ヘルメット、プロテクターなどに装着された「反射器(reflector)」と呼ばれる小さい受動的反射器から反射されてきた指向性の信号を受ける。


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