アストラゼネカとワクチンを共同開発責任者の1人、オックスフォード大学のアンドリュー・ポラード
は変異ウィルスが蔓延している中、集団免疫の獲得は不可能だとの認識を示し、ワクチンで感染拡大の速度を抑制できても流行を完全に止めることは不可能だとした。集団免疫を目指すワクチン接種政策にすべきではないと発言した[155]。集団内の免疫水準を高める主要な方法は、予防接種であり、自然感染よりもはるかに安全な方法で保護効果をもたらす[1][156]。予防接種の概念は牛痘にかかった酪農家が天然痘に対して免疫を有するという観察に基づいたもので、天然痘予防のための牛痘ウイルスの接種として開始された[51]。一般的にワクチンによって保護を行おうとする病気が引き起こされることはなく、重大な副作用は自然感染による合併症よりきわめて低頻度である[157][158]。免疫系は自然感染とワクチンの区別を行わず、どちらに対しても能動免疫を形成するため、予防接種によって誘導される免疫は、病気に罹患し回復する過程で誘導される免疫と同様のものである[159]。予防接種による集団免疫を達成するため、ワクチン製造者は不全率(免疫が誘導されない、または減衰する率)の低いワクチンの生産を目指し、政策立案者はその利用の推奨を目指す[156]。ワクチンの導入に成功し広く利用されるようになると、ワクチンによって保護される病気の発生数の急激な減少が観察され、必然的にその病気による入院者数や死者数も減少する[160][161][162]。
ワクチンの効果が100%であると仮定すると、集団免疫閾値を計算する式は、病気を排除するのに必要な予防接種水準 Vc を計算するためにも利用することができる[1]。しかし、ワクチンの効果は多くの場合完璧なものではないため、ワクチンの有効率 E(effectiveness)を考慮に入れる必要があり、Vcは次のようになる。 V c = 1 − 1 R 0 E . {\displaystyle V_{c}={\frac {1-{\frac {1}{R_{0}}}}{E}}.}
E が (1 ? 1/R0) よりも小さい場合、集団が完全に予防接種を受けた場合でも病気の排除は不可能になる[1]。同様に、無細胞百日咳ワクチンでみられるように、ワクチンによって誘導された免疫が減衰することがあるため、集団免疫を維持するためにはより高い水準の追加免疫が必要である[1][35]。集団内での病気の蔓延が終息すると、自然感染による集団内の感受性割合の低下がなくなり、予防接種がこの減少に寄与する唯一の手段となる[143]。有病率とワクチンの接種率、有効率との関係は、集団免疫閾値から有効率 E と集団内で予防接種を受けている割合 pv の積を引いたものとなる[143]。地中海東岸地域における麻疹ワクチンの接種率(黄)と麻疹の報告症例数(青)。接種率が上昇すると症例数は減少する。 ( 1 − 1 R 0 ) − ( E × p v ) . {\displaystyle (1-{\frac {1}{R_{0}}})-(E\times p_{v}).}
ワクチンの接種率またはワクチンの有効率の増加のいずれも病気の発生数をさらに低下させる[143]。症例数の減少率は病気のR0に依存し、R0の値が小さいほど急激な減少がみられる[143]。ワクチンは通常、成分に対する重度のアレルギーなど、医学的な理由でワクチン接種を受けられない人が少なからずいる[6]。しかし、ワクチンの有効性と接種率が十分に高ければ、このような人々を集団免疫によって保護することができる[24][26][29]。ワクチンの有効性は、一生続くものと、時間の経過に伴い低下するものがある[163][164]。そのため、一部のワクチンに関しては追加接種が推奨されている[25][29]。
受動免疫詳細は「受動免疫」を参照
個人の免疫は、病原体に対する抗体を持つ人物から他の人物へ移行することで、受動的にも獲得される。自然現象としては移行抗体があり、主にIgG抗体が胎盤や初乳を通じて胎児や新生児に移行する[165][166]。