集団免疫
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しかし、ワクチンの有効性と接種率が十分に高ければ、このような人々を集団免疫によって保護することができる[24][26][29]。ワクチンの有効性は、一生続くものと、時間の経過に伴い低下するものがある[163][164]。そのため、一部のワクチンに関しては追加接種が推奨されている[25][29]
受動免疫詳細は「受動免疫」を参照

個人の免疫は、病原体に対する抗体を持つ人物から他の人物へ移行することで、受動的にも獲得される。自然現象としては移行抗体があり、主にIgG抗体が胎盤初乳を通じて胎児や新生児に移行する[165][166]。また人為的に行うことも可能であり、免疫を持つ人物の血清血漿を免疫不全症の人に注入することにより受動免疫の獲得が行われる[159][167]。受動免疫による保護効果は即座に発揮されるが、長く続かないため、集団免疫への寄与は一時的なものである[12][159][168]

インフルエンザや破傷風など、胎児や新生児が特に重症となる疾患に関しては、妊娠女性が子供への抗体移行を目的とした予防接種を行う場合がある[24][169][170]
費用便益分析

一般に使用されている予防接種は、個人や集団全体の病気や後遺症を起こすリスクを減らすため、治療など他の医学的介入と比較して、費用対効果が高い[171][17]。予防接種の費用対効果が高いため、多くの国では推奨される予防接種は基本的に無料である[172][173][174]

集団免疫は、予防接種プログラムの費用便益分析を行う際に、考慮に入れられる場合が多い。これは、高い水準の免疫がもたらす正の外部性と見なされており、集団内に集団免疫が形成されなければ生じなかった、病気の減少による追加的な利益を生み出す[175][176]。そのため、費用便益分析に集団免疫を含めると、費用対効果または費用便益比はより好ましい結果となり、予防接種によって回避できる症例数が増大する[176]

集団免疫の利益を推定するために行われる研究デザインには、「予防接種を受けたメンバーのいる世帯における疾患発生率の記録」「予防接種を行うエリアと行わないエリアの無作為化」「予防接種プログラムの開始前と後の発生数の観察」などが含まれる[177]。これらにより、病気の発生率は直接的な防御効果のみから予測される水準を超えて減少する可能性が観察でき、集団免疫が減少に寄与したことを示している[177]。血清型置換を考慮すると、予防接種の予測される利益が減少する[176]
歴史

集団全体の免疫を意味する用語として「集団免疫(herd immunity)」という語は1923年に、さまざまな程度の免疫を持つマウス集団での疾患致死率を調査する研究において初めて使用された[178]

集団免疫は、1930年代に多くの小児が麻疹に対して免疫を獲得すると、免疫を持たない小児の間でも新たな感染の数が一時的に低下することが観察され、自然発生する現象として認識された[179]。このような知見にもかかわらず、1960年代に麻疹ワクチンの集団予防接種が始まるまで、麻疹を抑制し撲滅する取り組みは成功しなかった[179]

その後、予防接種による集団免疫の獲得は一般的なものとなり、多くの感染症において拡大防止に成功した[143]。集団予防接種や、病気の根絶についての議論、予防接種の費用便益分析によって、「集団免疫」の概念は広く用いられるようになった[1]。1970年代には、集団免疫閾値の計算に用いられる定理が開発された[1]。1960年代から1970年代の天然痘根絶運動では、アウトブレイクの拡大を防ぐために感染者の周囲の全ての人物に免疫付与を行う包囲接種が行われた[180]

しかし、集団予防接種と包囲接種が一般に行われるようになると、集団免疫の複雑さと困難が現れるようになった。感染症の拡大のモデル化は当初、集団全体が良く混ざり合うといった、現実には存在しない多数の仮定をしていたため、より正確なモデルの開発が行われている[1]

近年、微生物の優勢株が集団免疫で変化するとする説があるが、それは集団免疫が微生物に対する選択圧としてはたらく、またはある株に対する集団免疫が他の既存株の拡大をもたらすためである[146][152]
出典[脚注の使い方]^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u Fine, P.; Eames, K.; Heymann, D. L. (1 April 2011). ⇒“'Herd immunity': A rough guide”. Clinical Infectious Diseases 52 (7): 911?16. doi:10.1093/cid/cir007. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}PMID 21427399. ⇒http://cid.oxfordjournals.org/content/52/7/911.full


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