鍵盤ハーモニカ
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鍵盤ハーモニカ「クラヴィエッタ」と「メロディカ」を日本に最初に輸入した人物は、アコーディオニストで、楽器輸入販売会社社長の桜井徳二であった[16][6]
国産品の開発

当時、国内のハーモニカの主要メーカー3社、鈴木楽器製作所、東海楽器製造株式会社、トンボ楽器製作所は、それぞれ別個にメロディカやクラヴィエッタを入手し、この楽器に可能性を見いだした。楽器の入手経路は3社それぞれ別個だったが、まず社長や社員が「業務外」の興味からメロディカやクラヴィエッタを演奏して遊び、その後、これらを手本として国産品の試作に着手する流れは共通した[12][6]

国産品は1961年半ばには鈴木楽器製作所が「メロディオン」を製造・発売し、同年中にトンボ楽器製作所が「トンボ・ピアノ・ホーン」[17]を、東海楽器製造株式会社が「ピアニカ[18]を発売した。ただしトンボ楽器製作所は早々に鍵盤ハーモニカの生産から撤退した[19][6]

日本楽器製造(現 ヤマハ)は1967年から、東海楽器研究所(現 東海楽器製造)が製造した「ピアニカ」をヤマハ (YAMAHA) ブランドでOEM販売開始。ヤマハが、鍵盤ハーモニカ市場に参入した年でもある。1973年に日本楽器製造が自社開発の「ピアニカ」を発売すると、東海楽器研究所も1985年からトーカイ (TOKAI) ブランドで「ピアニカ」を発売し、以後は日本楽器と東海楽器はそれぞれが異なる「ピアニカ」を製造し、販売していた。また、両社ともに第618501号[20]商標登録している。ただし現在、東海楽器製造は鍵盤ハーモニカ「ピアニカ」の生産を終了をしたため、製造し続けている会社は鈴木楽器製作所、ヤマハ、全音楽譜出版社、キョーリツコーポレーションが主である。
教育楽器として普及

メロディカやクラヴィエッタなど、ヨーロッパ製の舶来の鍵盤ハーモニカは、当初は「レジャー楽器」として日本に輸入され百貨店で売られたが、早くも1960年からは販売広告でも教育楽器としての可能性を強調する文言が見られるようになった[11][6]

日本の楽器各社が国産化した鍵盤ハーモニカは「教育楽器」として、学校教育への導入と販売促進を目指し、教育現場の要望に応えて改良が重ねられ、1960年代半ばから70年代に音楽科授業で広く導入された[13]。当時は児童数が急増し、1人あたりの学校の備品整備が不足しがちだった。学童全員に、限られた授業時間内に、オルガンやピアノなどの鍵盤楽器を体験させることは難しかった。が、学童全員に鍵盤ハーモニカを「個人持ちの楽器」として所有させることで、これらの問題は緩和された。鍵盤ハーモニカの普及により、音楽室以外でも、一般教室における一斉授業で学童に鍵盤楽器の演奏を教えることが可能になった[4]

鍵の押下に要する力は鍵盤ハーモニカは40グラム (g) でオルガンは120g、鳴動に要する呼気圧は最弱音で水柱30ミリメートル (mm)、最強音で水柱180mm、歌手の最大呼気圧は水柱300mmであり、鍵盤ハーモニカは幼児や低学年児童が演奏し易い楽器である[21]

鍵盤ハーモニカは教育楽器として急速に普及した。文部省、教育現場、メーカーらは、鍵盤ハーモニカをオルガンやハーモニカの代替とした。かつて教育現場でハーモニカ廃止論として「出っ歯になる」「先生が教えられない」「不衛生」「音がうるさい」「音が出ないことがある」などを挙げたが、これらは鍵盤ハーモニカも同様で、他の楽器にはない持ち味と可能性などに適する、演奏法の指導や楽曲の教科書収載載など積極的活用は低調であった。南川朱生は、「カジュアルに根付いてしまった現状の鍵盤ハーモニカシーンは、ハーモニカほどの音楽資産・文化資産を保有していますか? この楽器を真剣に学びたい時に学べる体制はありますか? 目を閉じれば聞こえてくるメロディはありますか? 子供たちは本当に鍵盤ハーモニカを愛していますか?」と批判している[19][6]

近年は楽器メーカーが大人向け機種を開発して表現力が豊かな楽器としてプロフェッショナル奏者も用いる[22]ほかに、自治体が高齢者の健康効果を評価して大量購入している[23]
種類

一口に鍵盤ハーモニカといっても、様々な種類がある。
鍵盤の形状による分類

日本の教育楽器としての鍵盤ハーモニカはピアノ式鍵盤を備えているが、それ以外のタイプもある。

ピアノ式鍵盤 - オルガンやピアノと同様の白鍵と黒鍵が並んでいる。日本で「鍵盤ハーモニカ」はこの機種を指す場合が多い。

ボタン式鍵盤 - 狭いスペースに多くの鍵盤を並べた、演奏能力向上型で、一部の演奏家が愛好している。

折衷型 - 黒鍵と白鍵の長さを切り詰めて、楽器の横幅をピアノ式鍵盤式よりコンパクトにまとめた機種である。

その他 - 玩具楽器には、レバー式や、黒鍵を省略して全音しか鳴らせない準ピアノ式鍵盤などもある。


32鍵のビアノ式鍵盤ハーモニカ。この機種はドイツのホーナー社製で、音域はf?C'と2オクターブ半あり、サイズも音域も標準的である。

ボタン式鍵盤。写真は、白海海軍基地(ロシア)の楽団員によるアコーディアナ[24]の演奏。ボタン式鍵盤の特長は、狭いスペースに多くの鍵盤を並べられることである。

折衷型鍵盤(ホーナー社のメロディカ・ソプラノ)。演奏姿勢はたて笛と同様、楽器を縦にして左右の手ではさむように持ち、黒鍵は左手で、白鍵は右手側から弾く。

折衷型鍵盤(上)と、ピアノ式鍵盤(下。ヤマハのピアニカ)のサイズの比較。折衷型は、ピアノ式鍵盤より楽器を細身に作れる。

レバー式。玩具楽器の鍵盤ハーモニカを吹く少年(アルゼンチン)。半音は鳴らせない。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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