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図のようにアンカーヘッドを一周するように平たく張り出した「耳」が海底面を擦ることで爪が下向きに押される錨や、「耳」がなくアンカーヘッド(クラウン)の形状のみで爪が底質へ食い込む仕組みの錨がある。
把駐力詳細は「把駐力」を参照
把駐係数詳細は「把駐力#把駐係数」を参照
安定性

錨が爪を底質に食い込ませ、水平状態を保ったまま高い把駐力を生じさせるには、ストックのような左右のバランス機能をストックレスアンカーに持たせる必要がある。一般的にストックレスアンカーは引き続けられると傾きや反転現象を起こし走錨してしまうため、走錨させない・走錨をすぐに察知する「守錨」作業を必要としている。錨にとって最も重要な性能が安定性であるといえ、横軸-距離・縦軸-把駐力の「把駐力特性曲線」によって判断し、飽和曲線に近いグラフになるほど安定性が良いアンカーとなる。ただし、数値的基準は無い。
小型軽量化

船が受ける風圧や波、潮流などに対して十分安全なだけの抵抗を生む錨と錨鎖が使用されることで停泊時の安全が保たれることが基本である。の時には錨泊する場合には錨と錨鎖はぜひ必要な装備であるが、それ以外の通常航海時には大きな揚錨機も含めて、場所と重量の分だけ無駄となる。そのため、21世紀初頭での実際の使用環境では、錨と錨鎖だけでなく主機関による推進力によっても安全が担保できるとして、錨と錨鎖が小型軽量化されることがある[10]
構成

錨は錨鎖とともに用いる。錨と錨鎖は船の載貨重量と船種によって決まる「艤装数」に基づいて、各船が備えるべきものが規定されている。

規定は船級によって決められるが、日本では国土交通省JGの「船舶設備規程」と日本海事協会NKの「鋼船規則」がある。
錨鎖

旧日本海軍の操船教本には、繰り出す錨鎖の長さL(m)は水深D(m)に対して3D+90で表され、荒天時は4D+145で表されている。これらは現在でも一般的に使用されており運輸安全委員会の調査では、特別な場合を除いてこの数値に準じていれば、錨泊時の安全性が保たれると報告されている。

錨鎖を長く出すほど抵抗が増すが、繰り出しや引き込みの作業時間が多くなることや、単錨泊の場合には船の振られる幅も大きくなる。このため、港によっては錨泊場所や鎖の繰り出す長さに制限を設けている場所もある。
錨鎖の摩擦抵抗係数

錨鎖も海底に接していれば摩擦によって抵抗が生まれる。錨鎖の摩擦抵抗係数とは錨鎖の自重の何倍の抵抗力が生じるかを示す数値であり、泥質海底で1、砂質海底で0.75程度である。

現在の錨泊方法では、錨よりも鎖による把駐力を中心に考えるため、タンカー等の大型船舶では数百メートルにおよぶ錨鎖を装備している。
錨泊把駐時の動き揚錨時の動き
錨泊法「船#錨泊」を参照

錨泊法(Anchoring)には単錨泊(一個で固定)、双錨泊(二個で双方向から固定)、二錨泊(二個で一方向から固定)などの方法がある[11]
投錨

錨を投下することを投錨法(Letting go the anchor)といい、前進しながら行う方法を前進投錨法、後進しながら行う方法を後進投錨法という[11]。錨鎖を繰り出しただけでは錨が海底を掻かず把駐力を生じないため前進または後進の惰力を要する[11]。通常、商船が単錨泊を行う場合は後進投錨法、双錨泊を行う場合は前進投錨法がとられる[11]
検錨

長期間の停泊で錨が軟らかい底質に沈下埋没したり、船の振れ回りによって錨鎖に捻りがかかったりする。これらによって錨が巻き上げ不能となるのを防ぐために時々錨を巻き揚げることを検錨(Sighting anchor)という。同じ舷の錨を続けて使わないよう、片舷の錨が底を離れてすぐにもう片舷の錨を投ずる[11]
揚錨

錨を船に揚げる方法を揚錨法(Weigh up anchor)という[11]

揚錨不能または緊急時で揚錨の時間もないため錨を捨てることを捨錨(Slipping anchor)という[11]
守錨法

安全な錨泊を維持する方法を守錨法という[11]
走錨

潮流などで船舶が受ける外力が錨と錨鎖の抵抗力やプロペラの推進力を上回れば、錨が錨鎖と共に引きずられる。この時、錨が傾いたり反転現象によって把駐力が小さくなり錨が移動し続けることを走錨(そうびょう)と言う。一度、走錨状態になると再び錨の姿勢が正常に戻ることは期待できないため船舶を止めることは難しくなる。嵐などの荒天時では、錨と鎖を引きずっているため、ウィンドラス(揚錨機)では引き上げられなくなる。特にこのような場合には、操船ができずに海難事故に至る危険性が非常に高くなる。

実際に事故に至ってしまった例として、平成30年台風第21号による関西国際空港連絡橋タンカー衝突事故が挙げられる。この事故では死者は出なかったものの、空港への交通が長期に亘り寸断される結果となった。この事故を教訓に走錨が発生する可能性がある気象条件の際には航行警報で錨泊禁止などの呼びかけが行われるようになっている。

底質にもよるが、JIS型やAC-14型では、錨泊時に爪が正常に掛からない場合があり、小さな潮の流れや弱い風などでも船が移動する場合があるので、この時はアンカーの打ち直しを行う。旧来のストック・アンカーではストックにより姿勢が安定しやすいため走錨が起こりにくいとされている[9]

走錨中は国際信号旗の「Y」を掲げることで周囲に知らせる。
絡み錨

錨が絡むことを絡み錨、錨鎖が絡むことを絡み錨鎖という[11]。これを図案化したものがしばしば海軍や船員の関連組織のシンボルとして用いられる。
種類ストック・アンカー
左が使用する状態。 右が格納のためにストック(桿)を畳んだ状態。下の爪とは直交するストックが海底面で横になるとき、爪の一方が海底面に突き立てられる。漁船用ストックアンカー灯台船のマッシュルームアンカー潜水艦艦首下部に取り付けられたアンカー収納部とマッシュルームアンカー

錨はその形状や大きさによって使用する場所や使い方などが区別され、ストックの有無や性能によっても種類が大別される。

ストックレス・アンカー

アドミラル・アンカー

エールスアンカー

ストークスアンカー

チェーンアンカー(主に船を確実に固定せずに流し釣りをするときなどに使用する。)

シーアンカー(水の抵抗を利用したビニール製のパラシュート状の錨。


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