鋼鉄
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彼の名を取ってベッセマー法と名づけられた本技術によって初めて鉄鋼の大量生産が可能となった。このベッセマー転炉においては、珪石製の煉瓦を内部に張った炉に銑鉄を入れ加熱空気を送ると不純物や余分な炭素が燃焼(酸化)して除去できる。この方法によって20トンの製鉄を30分以下で行うことが可能となった。発明当初の技術ではリンの除去は不可能であった[注釈 1]が、1887年にシドニー・ギルクリスト・トーマスが白雲石粉末を裏張りした転炉を用いる方法を開発し、このトーマス転炉において硫黄の除去が可能となったほか、リンをリン酸カルシウムの溶滓(ようさい)として分離させることも可能となった。トーマス法ではこのリン酸カルシウムも肥料になるので無駄にならない一方で、このリンの反応も熱源なので原料のリン濃度が低いと逆にうまくできなくなる(1.8-2.5%程度のリン濃度が必要[注釈 2])他、炭素の燃焼が終わってからもリン除去に3-4分ほど送風が必要なため、必然的に低炭素の軟鋼しかできない問題があった[20]他、空気を底から吹き込むので窒素が鋼に混ざる(冷間加工時に割れやすくなる[21])問題があった[22]。現在では1946年にオーストリアで開発された空気の代わりに酸素を用いるLD転炉法が主流となっている[17]。また、1949年にはそれまで底から酸素を送り込んで不純物を除去していたが炉底が痛むので上から酸素を吹きつけた所、これだけでも撹拌が起きて不純物が除去されることがわかり、上部から酸素を送り込む工法が主流となった。しかし上部からの酸素だけでは撹拌が弱くなる(=時間がかかる)ため、1970年代にはプロパンガスを同時に吹き込みこの分解熱で炉底を守る底吹きが主流となる。すると今度は上部の温度が上がりにくくなるという欠点が現れ、結局1980年代以降は上部からの酸素供給を基本とし、底部から補助的に空気を送り込む混合式の吹込みが主流となった[23][24]
平炉法

平炉は反射炉の一種で、1856年にシーメンス兄弟(カール・ウィルヘルム・シーメンスとフレデリック・シーメンス)によって炉の構造が発明され、マルタン父子(ピエール・ マルタンとエミール・マルタン)によって製鋼法が発明された[25]ことから、両者の名を取ってシーメンス・マルタン法と呼ばれる。製鋼したこの方法は溶けた鉄の湯にスクラップや銑鉄など様々な鉄を混ぜ、予熱した石炭ガスと空気を燃焼させて作った高温のガスをこの炉床の溶鋼に向けて耐火物を保護し、さらに溶鋼表面を常時スラグで覆うことで必要以上の鉄の酸化を防いだ。平炉法も脱リンを十分に行うと低炭素鋼になるが、トーマス転炉法と違ってリンの濃度はそこまで高くなくてもよく1.5%以下ならよかった[26]。しかし平炉法は冷えた材料の加熱を行うため、初期のものは鋼の製造まで10時間を要した。1960年代には3時間まで時間が短縮されたものの、転炉はこの過程を30分で行えるため勝負にならず、燃料代が転炉より高くつく(転炉は過熱空気を作るのに燃料はいるが平炉より圧倒的に少なく、20世紀初頭時点で石炭換算で鋼1tに対し転炉が200-250s、平炉が300-500s必要だった[27]。)という問題が当初からあった。それでも20世紀中ごろまでは原材料や品質の問題がある転炉鋼に比べ、原料に柔軟性があり(転炉ではくず鉄がほとんど利用できない)質も均一な強みから主要な製錬炉であった[注釈 3][29]。が、LD転炉はこうした問題も解決できたので、日本では1960年代以降この方式での製鋼は行われていない[30]
電気炉および伝統製法

このほかにスクラップを主に用いる電気炉生産方式(電気炉製鋼法)がある。1900年にポール・エルーによって実用化されたもので、日本での生産割合は、転炉製鋼法が約75%、電気炉製鋼法が約25%である[31]。高炉と転炉による鉄鉱石からの一貫製鋼にくらべ小規模な生産となるが、このために多品種少量生産に適している[32]

日本古来のたたら製鉄は明治時代以降近代製鉄に押されて急速に生産量を減らしていき、1925年にはすべての生産が終焉した[33]。しかし日本刀の原料である玉鋼はたたら製鉄でしか製造できなかったため、1933年には「靖国たたら」が島根県に作られ、1945年まで操業した[34]ほか、数軒のたたらが復活し鉄の生産を行った。これらのうちいくつかでは従来に比べヒの生産割合が顕著に増加しており、鋼を重視した生産が行われた[35]ものの、終戦とともにふたたびたたらの火は消えた[34]。第二次世界大戦後、玉鋼需要が逼迫したため[36]、1977年には日立金属の支援によって日本美術刀剣保存協会が日刀保たたらを建設し、玉鋼の生産を行っている[37]。ここで生産された玉鋼は指定された日本刀の刀工にのみ配布され、一般には流通しない[38]
強化法

一般に、金属材料の降伏強さを向上するためのメカニズムには、大別して「固溶強化」「析出強化」「転位強化」「結晶粒微細化強化」の4つが存在する[39][40]。これらの機構を適用して、鋼の強化も行われる[39]塑性変形は結晶中の転位の動きによって起こる[40]。4つの強化機構は、いずれも転位の動きやすさを低下させるように働き、それによって鋼を強化させる[39]
鋼の種類

鋼の特長は、まず鉄に軽微な合金化を行うことにより強靭な固体材料を生成できること、資源が豊富であり酸素との親和性が比較的低いため安価に精錬ができることにある。別元素の固溶限が大きく合金化しやすいため、多様な鋼種が開発されてきた。

ケイ素 (Si) を添加した電磁鋼、ニッケル (Ni) やマンガン (Mn) を添加した非磁性鋼、クロム (Cr) やニッケル (Ni) を添加したステンレス鋼など、さらに工具鋼高速度鋼など、さまざまな用途に適した鋼種がある。

鉄鋼材料は各観点からいろいろな名前で呼ばれ、分類法によっては同じものが別の名前で呼ばれることがある。鋼はその用途ごとに鋼種の改良が進んできた。例えばJISの分類も、などの合金が比較的成分の系列にしたがって命名されているのに比べ、用途や製法、強度区分、炭素量を示すものなどがあり、解りにくいものになっている。

例えばS45Cという鋼種は炭素量0.45%の鋼をいい、SUJ(軸受鋼)は、ボールベアリングの内外輪に使われる鋼種であるということを示す。

さらに、各国の規格において鋼種の呼称が異なっている。例えば

S45C (JIS)、1045、(SAE/AISI(英語版))、C45 (DIN)

SKH10 (JIS)、T15 (AISI/ASTM)、S12-1-4-5 (DIN) である。

成分からの分類

鉄鋼は大きく分けて、鉄と微量の炭素による合金である炭素鋼(普通鋼)と、それ以外の金属との合金である合金鋼(特殊鋼)に二分される。
炭素鋼

普通鋼の名の通り、古来から製造使用されてきた鋼は炭素鋼に分類され、鋼の総生産量のうち約8割を占めている[41]。炭素鋼は含まれる炭素量によって、炭素含有量が約0.3%以下の低炭素鋼、炭素含有量が約0.3 - 0.7%の中炭素鋼、炭素含有量が約0.7%以上の高炭素鋼に分けられる。炭素量が少ないほど柔らかく、多くなるほど硬い鋼となる[42]

また、炭素鋼は、組成(標準組織)や炭素濃度の上から以下のように分類できる。

共析鋼

パーライトのみからなり、炭素濃度は0.77%。


亜共析鋼

初析フェライトとパーライトからなり、炭素濃度は0.02% - 0.77%。


過共析鋼

初析セメンタイトとパーライトからなり、炭素濃度は0.77% - 2.11%。


合金鋼

炭素鋼を基本として一種または数種類の金属を添加し性質を改善したものが合金鋼であり、普通鋼に対して特殊鋼の名で呼ばれている。特殊鋼は添加する金属によって、ニッケルクロム鋼ニッケルクロムモリブデン鋼クロム鋼クロムモリブデン鋼マンガン鋼など様々な種類が存在する。特殊鋼の生産量は鋼の総生産量のうち約2割を占めている[41]。合金鋼は含まれる金属の量によって、合金成分5%以下の低合金鋼と5%以上の高合金鋼に分けられる[42]
性質からの分類

ステンレス鋼

電磁鋼

耐候性鋼

工具鋼

耐海水鋼


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