鉛筆
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黒鉛鉛筆は主原料の鱗状黒鉛に由来して筆跡が金属光沢を帯びる特徴が好まれるが、一方、色鉛筆などの黒色に主に用いられるカーボンブラックは金属光沢が少なく、黒みがより強い特徴がある[5]

近年はシャープペンシルの普及によって、鉛筆の筆記用としての需要は減少している。しかし、大学入試などでは、マークシートの読み取りミス防止のためにマークシートへの記入は鉛筆に限定されることが多く、マークシート読みとり機メーカーも、鉛筆で書くことを推奨している。ほかにも、手書きで楽譜を書くときなど、一つのペン先で太さの違う線が書けると便利なときなどには、あえて鉛筆が選択されることもある。また、学校の方針で、シャープペンシルを禁止している小学校も多い。

なお、眉などを描くための化粧用のものとして化粧用鉛筆がある[6][7]
製品

鉛筆は1本単位で売られているほか、1ダース単位でも販売されている。製図用や工事用のような特殊なものもある。黒の単色のみで濃淡一組でセットとなっているものや、数色から数十色の色鉛筆がセットになっているものもある。

日本では、鉛筆の品質向上を目的に、1951年JIS規格で「JIS Z 6605」という鉛筆の規格が定められた(1955年廃止)[8]。鉛筆の規格化は諸外国に比べて早い。なお、1998年に、「鉛筆は伝統があり、技術的に成熟して安定した産業」という理由で、以後はJISマークを表示しないという業界内での決定があり、現在の主な鉛筆からはJISマークを表示していない。しかし、現在も多くの鉛筆はJIS規格に基づいて製造されている。2008年現在、有効な鉛筆に関するJIS規格は「JIS S 6006」[9]である。

鉛筆で書いた線は消しゴムで消去することができ、鉛筆の末端に小さな消しゴムをつけた商品も存在する。なお、消しゴムが発明されたのは鉛筆と比べかなり後世になってからであり、それまではパン屑を用いて消していた。現代でも美術では通称「消しパン」と呼ばれるパンを用いてデッサンの描線などを消すことがある。「食パン」および「消しゴム」も参照
使用法
筆記法

鉛筆で筆記する際には通常、削られていない部分で先端に近い部分を親指、人差し指、中指の3つの指で持つ。

このとき、親指は人差し指に近い側の指の腹で、人差し指も指の腹で支え、中指は人差し指に近い側の指の側面で支える。そして人差し指に沿わせるようにする。指はあまり曲げないが、人差し指と中指を若干曲げる。鉛筆と記録する紙の成す角度は60°程度とする。このとき、小指の先は紙に接触させる。正しい筆記法(持ち方)を習得するために断面が三角形になっている幼児用鉛筆や、普通の鉛筆に取りつけて正しい持ち方を習得させるグリップも存在する。

鉛筆での筆記の際には、筆圧が必要以上に強いと芯が折れることがある。
削り方金属製の補助軸の使用例。短くなった鉛筆を補助軸に差し込み、グリップ部分にあるネジで固定して使用する。

鉛筆は使用に伴って芯が摩耗することで、芯の木材から出ている部分が小さくなり、あるいは芯の鋭さが失われる。この結果、描線が太くなり筆記しにくくなるため、木材と芯を削ることで芯の露出を増やし、その先端を鋭くする作業が必要になる。

鉛筆を削ることを繰り返すと、最後には鉛筆が短くなり過ぎて指で支持しにくくなり、筆記が困難となる。この状態が実用上の寿命である。ただし、測量などの激しい移動を伴う作業では、折れてしまう事故を避けるためにあえて短くなった鉛筆を用いることがある。

短くなった鉛筆を使えるようにするために、長さを延長するための金属やプラスチックの器具がある。短くなった鉛筆の削っていない側を差し入れて、筆記しやすくする。保存用のキャップを兼ねた短いものと、延長専用の長いものがある。後者にはペンシルホルダーや補助軸がある。これらにも、消しゴムつきのものがある。

日本およびアメリカの市販鉛筆は通常は削られておらず、使用する前に削る必要がある。これに対し、削られている状態で市販されている鉛筆を、「先付鉛筆」(さきづけえんぴつ)と呼ぶ。ヨーロッパの市販鉛筆は基本的に先付鉛筆である。

削る作業は、一般的に鉛筆削りと呼ばれる専用の器具、または肥後守ボンナイフなどの小型のナイフ、ないしカッターナイフが用いられる。

通常、HB・2B・3Hなどの硬さの表示のある方は削らない。こちらを削ると、使用時に硬さがわからなくなってしまうからである。

鉛筆を削る作業は時間がかかるうえ、専用の器具を使ったり削りくずが出たりするので、板書筆写中、試験中などに随時行うというわけにはいかない。そのため、削った鉛筆を複数本用意し、使用中に摩滅・芯折れすれば順次持ち換え、時間や手間に余裕のできたときにまとめて削るのが普通である。
ナイフでの削り方

鉛筆削りが普及する前には、鉛筆はナイフで削るのが一般的だった。その場合、鉛筆の先端2cm程度を先が細くなるように削る。芯の先も削り、尖らせる。

画材として使う場合は現在でもナイフの使用は一般的であり、摩耗が早いことや軸を寝かせて広い幅を塗る用法のため、筆記用よりも芯を長く削り出して使われる[10]

製図用として通常の円錐形ではなく、マイナスドライバーのようなくさび型に先端を削りだす方法もある。こうすると接地面が増えるため、使用中に先が丸くなりにくく線幅が安定する。また、一本の鉛筆で線の太さを描き分けることができる利点もある。
鉛筆削り(器具)

鉛筆専用の鉛筆削りは、携帯用のものと卓上型のものがある。

携帯用鉛筆削り器の多くは、金属かプラスチックの小片に平らな刃を斜めに固定した簡易なものである。鉛筆を円錐形の削り穴に押しこみながら回すことにより、鉛筆の軸と芯が刃に沿って扇状に薄く削り取られる。右利きの人が使いやすいように鉛筆を時計回りに回転させるものが多いが、反時計回りに回転させる左利き用もある。

卓上型鉛筆削り機は現在は電動式も多くみられる。削り器の穴に鉛筆先端を押し込むだけで自動的に削られ、かつ、芯が尖ると自動的に動作を停止する。手動式は鉛筆をつかむクリップ部を一杯に引き出してストッパーで固定された状態から、クリップを開いて削り穴に鉛筆を挿入し、反対側のハンドルを回すものである。ばねの力で鉛筆が押し込まれており、芯が尖ると回転が軽くなり自動的に空回りするので、クリップを開いて鉛筆を引き出す。クリップ部はばねで元の状態に収納される。手動式は、軸にクリップによる傷がつくことがある。

卓上型鉛筆削り機の機構は、鉛筆の軸を固定しその周囲を芝刈り機のそれを小型にしたような円筒状の螺旋回転刃を旋回させるものが手動・電動問わず大多数を占め、先の説明もその機構の機器を想定している。そのほか、複数の平面刃を配した手裏剣のごとき回転刃を用い、刃体のほかに鉛筆を軸方向に回転させながら削るもの(ナイフによる鉛筆削りの動作を模している)や、鉛筆を固定し上記携帯式鉛筆削り器と同じ構造の機構部を動力回転させるものなどがある。

電動式・手動式いずれも下部の削りかす収納部に削りかすがたまるため、収納部が満杯になる前に削りかすを捨てないと故障の原因になる。また、螺旋回転刃式鉛筆削り機では6cm以下程度に短くなった鉛筆は削れず、携帯用鉛筆削り器やナイフで削るか廃棄することになる。それゆえに、補助軸を好んで用いる者は卓上鉛筆削り機を忌避し、ナイフを愛用する傾向がある。
貧乏削り・泥棒削り

両端を削ることを地方によっては貧乏削り・泥棒削りと呼ぶ。前述したように、鉛筆は複数本用意するのが基本だが、鉛筆の両端を削れば2本分として使える。これを貧乏削りと揶揄する。貧乏削りは有効利用できる長さが短くなり不経済な使用法でもある。

学用品としての鉛筆は、削らない側の端部の一面の塗装を薄く削ぎ、露出させた木地面に氏名などを書くことがよく行われた。この記名は、盗んだ鉛筆を「貧乏削り」すれば違和感なく削り落とすことができる。そこで、そのような窃盗の証拠隠滅が疑われる使い方を「泥棒削り」と揶揄した。

なお、赤青鉛筆・朱藍鉛筆の場合には両端を削って用いられるのが普通であり、このような呼び方は用いられない。
削らないで使うもの

芯出しを削らずに行う鉛筆もある。
ダーマトグラフ(グリースペンシル)
ワックス分を多くした芯を、紙巻きの軸で巻いた鉛筆。芯に木ではなく紙を巻きつけて作られたもので、一端に糸が仕込まれたものである。この糸を引くと外面に切れ目が入るようになっていて、決まった切り目から剥がしていくと、円錐形の先端に新しい芯がでるようになっている。金属ガラスなど、通常の鉛筆では書けない表面にも書ける。軸が紙なのは、芯の熱膨張率が高く、芯が縮んだときに軸が変形しないと抜け落ちてしまうためである。
ロケット鉛筆
プラスチックで芯を保持した小さな鉛筆状のパーツが、円筒状のケースに複数収納されたもの。ケースの先から芯の部分が突出しており、ケースを保持して筆記する。芯が丸くなってきたらそのパーツを先端から引き抜き、ケースの一番後ろへ突き刺すことで中のパーツが順次押し出され、新しい芯が出てくる仕組みになっている。ただし、その構造上1つでもパーツを紛失すると使用できなくなる。複数の色の芯がワンセットになったものも存在する。名称の由来や、この名前が商品名なのか否かは不明。
スコア鉛筆(クリップペンシルペグシル
長さ10 cm、幅5 mm程度のプラスチックの軸の先端に長さ1 cmほどの芯が埋め込まれている鉛筆。使い捨てであり、削る必要がないため公営競技投票券売り場やゴルフ場などに、マークシートへの記入やスコアの記録のためのサービスとして置いてある。アンケート用紙とともに配布されることも多い。
保存法

削られた鉛筆は、尖らせた芯の先が折れやすいことから、専用の鉛筆キャップをつけて保護するか、ペンケース(筆入れ、筆箱とも呼ぶ)に収めて保護する。鉛筆キャップには柔らかいペンケースに収納した際に消しゴムなど他の文房具を汚さないようにするためにも用いられる。卓上でペン立てに立てる場合は、削った芯を上になるように立てることが多いが、これは、芯がペン立ての底部にぶつかって折れるのを防ぐためであり、同時にペン立てに立てた鉛筆のどれが削ってあるかを判別するためでもある。

鉛筆立ては、芯の先端が底にぶつかる形状でなく、円錐状の削った形状に合わせた穴で面として受けるか、先端部に穴が空いていて芯はそこに突き出すような形で直接当たらない構造にすれば折れない。製造物責任法(PL法)の施行により、鉛筆の尖った先端を上にして挿すことで、その上に倒れ込んでけがをすることを防ぐ配慮から、上向きに挿そうとすると奥まで挿せずに倒れ、強制的に上向き挿しが不可能な構造にしたものがある。
構造

一般的な鉛筆の構造は、黒鉛粘土を混ぜて焼いた鉛筆芯と、木材を張り合わせた鉛筆軸からなる。
鉛筆芯

鉛筆芯は黒鉛と粘土を練り合わせて焼き固めたものである。

鉛筆の芯は、電気伝導体である黒鉛を含んでいるため、電気を流すことができる。ただし、一般的に流通している鉛筆は芯の表面をコーティングしてあることが多いため、鉛筆の端と端をそのまま導線で結ぶだけでは電気が流れないことが多い。また、色鉛筆の芯は黒鉛を含まないため、電気を流すことはできない。

一般に、黒鉛が多く粘土の少ない芯は、軟らかく濃い。黒鉛が少なく粘土の多い芯は、硬く薄い。硬いものは芯が細く、軟らかいものは太い。


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