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前述のとおり、地球内部には鉄が多く含まれており(約30 %[3])、火山(特に溶岩や火山弾)やそれに伴う熱水鉱床などにより、地表にも新たな鉄鉱床が湧出することがある。地磁気も、地球の核で溶融した鉄が地球の自転と異なる速度で回転することによって生じるとされている。

地球の地殻には多くの鉄が含有されている(濃度が約5 %と高い)にもかかわらず、それと接している海水中の鉄は比較的濃度が低い。これは地球の海水中では水酸化鉄(III)として鉄が除かれてしまうためである[4]。なお、地球の海水中の鉄の濃度は一定ではなく、観測船や海水採取器などからの鉄の溶出による汚染を避けてジョン・マーチン (海洋学者)(英語版)が調査した結果、海面近くの表層の海水には少なく、逆に深層の海水には多く含まれる、いわゆる栄養塩型の分布をしていることが判明している[5]
性質

純粋な鉄は白い金属光沢を放つが、イオン化傾向が高いため、湿った空気中では容易にを生じ、時間の経過とともに黒ずんだり褐色へと変色したりする。

固体の純鉄は、フェライトBCC構造)、オーステナイトFCC構造)、デルタフェライト(BCC構造)の3つの多形がある。911 °C以下ではフェライト、911–1392 °Cはオーステナイト、1392–1536 °Cはデルタフェライト、1536 °C以上は液体の純鉄となる。常温常圧ではフェライトが安定である。強磁性体であるフェライトがキュリー点を超えたところからオーステナイト領域までの770–911 °Cの純鉄の相は、以前はβ鉄と呼ばれていた。

栄養学の立場からみると、鉄は(生体)にとって必須の元素である。食事制限などで鉄分を欠く時期が続くと、血液中の赤血球数やヘモグロビン量が低下し、貧血などを引き起こす。で吸収される鉄は2価のイオンのみであり、3価の鉄イオンは2価に還元されてから吸収される。鉄分を多く含む食品はホウレンソウレバー、大豆製品などである。ヘム鉄の方が吸収効率が高い。ただし、過剰に摂取すると鉄過剰症になることもある。
同位体詳細は「鉄の同位体」を参照

自然の鉄の同位体比率は、5.845 %の安定な54Fe、91.754 %の安定な56Fe、2.119 %の安定な57Fe、0.282 %の安定な58Fe からなる。60Feは不安定で比較的短寿命(半減期260万年)なため、自然の鉄中には存在しない。理論的に予測される54Feの二重β崩壊の検出は未確定である[6]。58Feと56Feの原子核は非常に安定(核子1つあたりの質量欠損が大きい)であり、すべての原子核の中でそれぞれ2番目と3番目に安定である(もっとも安定な核種は62Ni)[7][8]

しばしばすべての原子核の中で56Feがもっとも安定とされることがあるが、これは誤りである。このような誤解が広まった理由として、56Feの天然存在比が62Niや58Feよりもはるかに高いことに加え、核子1つあたりの質量を比較した場合には56Feが全原子核中で最小となることが挙げられる。中性子の方が陽子よりもわずかに重いため、核子1つあたりの質量が最小となる核種と質量欠損が最大になる核種は一致しない。また、下記のように恒星の核融合の最終生成物が56Feであることを「鉄がもっとも安定であるため」と便宜的に説明されることがあることも誤解を招いていると考えられる。

58Feよりも不安定な56Feのほうが存在比が高い理由は、星の元素合成の過程で質量数が4の倍数の核種がおもに作られるためである。炭素より重い元素は4Heの融合(アルファ反応)によって作られるため、生成する核種の質量数は4の倍数に偏る。太陽質量の4–8倍の質量を持った恒星ではアルファ反応は56Niまで進行するが、次の60Znの原子核は56Niよりも不安定なため、これ以上は反応が進行しない。56Niは2度のβ崩壊を経て56Feを生成するため、恒星の核融合の最終生成物は56Feになる。鉄より重い核種も超新星爆発などであわせて生成するが、その生成プロセスは明確になっていない。詳細は「超新星#Ia型」および「Ia型超新星」を参照
鉄の「臭い」

鉄棒などの鉄製品を手に持つと、手に特有の臭いがつく。これは俗に「金属臭」「鉄の臭い」と呼ばれるが、原因は鉄そのものではない(鉄は常温では揮発しない)。研究により、人体のに含まれる皮脂分解物と鉄イオンが反応して生じる炭素数7 - 10の直鎖アルデヒド類や1-オクテン-3-オンなどの有機化合物、そしてメチルホスフィン・ジメチルホスフィンなどのホスフィン類がこの臭いの原因であることが確認されている[9][10]
主な化合物

塩化鉄(II) (FeCl2)

塩化鉄(III) (FeCl3)

酸化鉄(II) (FeO)

四酸化三鉄 (Fe3O4)

硫化鉄(II) (FeS)

硫酸鉄(II) (FeSO4)

硫酸鉄(III) (Fe2(SO4)3)

ヘキサシアニド鉄(II)酸カリウム (K4[Fe(CN)6])

ヘキサシアニド鉄(III)酸カリウム (K3[Fe(CN)6])
Category:鉄の化合物」も参照
鉄の利用と文化
用途

道具を作る用材として、石器時代青銅器時代に続く鉄器時代を形成し、地球人類文明の基礎を築いた。現在においてももっとも重要、かつ身近な金属元素のひとつで、産業革命以降、ますますその重要性は増している。さまざまな器具・工具や構造物に使われる。炭素などの合金元素の添加により、より硬いとなり構造物を構成する構造用鋼などや、工具鋼などの優れたトライボロジー材料にもなる。セヴァーン川にかかるアイアンブリッジ。世界初の鉄橋とされる

安価で比較的加工しやすく、入手しやすい金属であるため、人類にとってもっとも利用価値のある金属元素である。特に産業革命以後は産業の中核をなす材料であり、「産業の米」などとも呼ばれ、「鉄は国家なり」と呼ばれるほど、鉄鋼の生産量は国力の指標ともなった。このため、鉄鋼産業には政府のテコ入れも大きく、第二次世界大戦後の世界的な経済発展にも大きく影響している。現在においても工業生産されている金属の大半は鉄鋼であり、鉄を含まない金属は非鉄金属と呼ばれる。

鉄は、炭素をはじめとする合金元素を添加することでとなり、炭素量や焼入れなどを行うことで硬度を調節できる、きわめて使い勝手のいい素材となる。鋼は古くから刃物の素材として使われ、ほとんどの機械は鉄鋼をおもな素材とする。さらに鉄鋼は、鉄道レールの素材となるほか、鉄筋鉄骨、鋼矢板などとして建築物土木構築物の構造用部材に使われ大量に消費されている。

鉄に炭素とさまざまな微量金属を加えることで、多様な優れた特性を持つ合金鋼が生み出される。鉄とクロムニッケルの合金であるステンレス鋼は腐食しにくく強度が高く、なおかつ見た目に美しく比較的安価な合金として知られる。このため、ステンレス鋼に加工された鉄は、液体や気体を通すパイプ、液体や粉体を貯蔵するタンク流し台、建築資材などにも用いられるほか、包丁などの生活用具、家電製品、鉄道車両自動車部品、産業ロボットなど、あらゆる分野に利用されている。

工具鋼は固体材料の中でもっとも強度増幅能力が高く、超硬材料と比べても高い曲げ強度を有するため、不変形特性が重要でかつ加工形状の自由度が要求される金型に多用される。金属材料でもっとも熱膨張係数が低いインバー、最強の保磁力を持つ磁性材料(ネオジム磁石)も鉄含有合金である。ほかにも、鉄化合物インク絵具などの顔料として、赤色顔料ベンガラ青色顔料のプルシアンブルーなどとして使われる。

鉄は強い磁性を持つため、不燃物からの回収が容易であり、再利用率も高い。屑鉄として回収された鉄は、電気炉で再び鉄として再生される。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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