鉄道信号機
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サーチライト式信号機も、あまり一般的ではないが用いられている。各頭部に1つだけ電球があり、ソレノイドにより色つきレンズ(ラウンデル roundel)が電球の前に動かされて現示を行う。この方式では日光により色を誤認する恐れがないので、レンズと反射材を一緒に使用する。正しく表示するには慎重な調整が必要である。3現示以上の表示には、複数灯火式と同様に複数の頭部を使うことが多い。サーチライト式信号機は、機械装置にとって条件の悪い場所に可動部を使わなければならないという短所があり、定期的なメンテナンスが必要となる。イギリスで現在でもサーチライト式信号機が用いられている場所としては、コルチェスター (Colchester) - クラクトン (Clacton) 線が挙げられる。

この方式の変形として、セーフトラン・システムズ社 (Safetran Systems Corporation) のユニレンズ (Unilens) がある。ユニレンズでは、3つまたは4つのハロゲンランプと反射材が組み合わされ、カラーフィルターから光ファイバーを通り、レンズの焦点で一まとめにされている。これにより従来型のサーチライト信号機の仕組みでは不可能であった、単一の頭部で4つの異なる色を出す(通常は赤・黄・緑・白)ことができるようになった。

さらに、高輝度の発光ダイオード (LED) が出現したことにより、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災の復旧には電球・レンズ・反射材の組み合わせの代わりに、大阪駅 - 神戸駅間でLED信号機が実用化された[1]。LEDはよりムラのない光を出し、低消費電力で、10年以上にも及ぶ長い寿命を持っており、長期的なコスト削減に繋がる。1つの灯火用の穴に様々な色のLEDを設置してどの色でも出せるようにするということも行われており、それゆえに現代のサーチライト式信号機とも呼ばれている。

多くの色灯式信号システムでは、電球や機構の故障を検知する回路を備えており、故障した際に現示をより制限的なものに切り替えるようになっている。接近表示 (Approach lighting) 式の信号機では、列車が実際に接近してくるまで点灯しない。これは複数の信号機が設置されている場所でどの信号機を視認すればよいか確実にするとともに、電球の寿命を延ばすために行われている。

イギリスでは、ほとんどのフィラメント方式の色灯信号機で2本のフィラメントを使用している。メインのフィラメントが切れると、自動的に予備のフィラメントが使われると共に、メインのフィラメントが切れたことが技術者に(信号扱手にではなく)通知され、電球の交換の手配が行われる。両方のフィラメントが切れると消灯するが、この場合には信号扱所にいる信号扱手にも通知される。

信号機の現示方式は、国によって大きく異なり、同じ国の中でも鉄道会社によって大きく異なることさえあるが、典型的な現示は以下の通りである。

緑: 路線の最高速度で進行。次の信号機は緑か黄。

黄: 注意。次の信号機が赤であることに備える。

赤: 停止。

色灯式信号機で、機械式信号機の夜間のライトと同じ現示を使用している鉄道会社もある。

信号機の二重化も、腕木式信号機の時代に倣って採用されていることがある。2組のライトが点灯しており、上のライトがその信号機の現示を、下のライトが次の信号機の現示を中継している。下に小さなランプを併設していることがあり、これは徐行を継続する指示である。

二重信号機は以下のような指示を表す。

緑と緑: 進行。

緑(上)と黄(下): 次の信号機は緑(上)と赤(下)である。注意。

緑(上)と赤(下): 次の信号機は停止現示である。注意。

赤と赤: 停止して待機。

赤と赤(小さなランプが点灯): 25km/h以下で徐行。

灯列式信号機

灯列式信号機は灯火の色ではなく位置で意味を表す信号機である。点灯している全て同じ色(白)の灯火のパターンで現示が構成され、進路表示などに用いられる。直進進路は明示的に表示されない場合もある。地上付近に設置される信号機(主に入換信号機)では、水平に2つの灯火が点灯した時に停止を、斜め45度に2つの灯火が点灯した時に進行を意味している。灯火は白が標準であるが、停止の灯火の1つを赤にすることもある。

多くの国で、小さな灯列式信号機は入換信号機として使われ、主信号機には色灯式信号機を用いている。多くの路面電車でも灯列式信号機は用いられている。
文字表示式進路表示器

文字表示式の進路表示器は、色灯式信号機の横や上、下などに設置され、あるいは地表の信号機に併設されて、進路の情報を表示するために用いられる。古いものでは文字や数字を背後からライトで照らすものを小さな箱に納めており、現代のものではLEDのドットマトリクス方式や光ファイバ式のディスプレイを使って文字や数字を表示している。例えば数字の"2"が表示されていれば、2番ホームに到着するということを示すような用途に使われている。

ペンシルバニア鉄道 (Pennsylvania Railroad) では、上動作式の腕木式信号機の腕の位置に対応して、灯火は横3列であった。3現示で不足する時は、複数の頭部を用いた。ペンシルバニア鉄道は、灯列式信号機を腕木式信号機を置き換えるために採用することを決めた。これは可動部の除去と共に、悪天候下でも見やすい強烈な琥珀色の光を使えることが理由であった。当初の灯列式信号機は腕木式信号機の非対称な腕の動作に由来して非対称な4列であったが、後に対称な3列に変更された。3列の信号機はフィラデルフィア (Philadelphia) とパオリ (Paoli) 間の本線に、1915年電化と同時に導入された。初期の信号機は、後のものと比べて、灯火が墓石のような黒い金属の基盤の前に分離式で設置されていたという点が違っており、後に現代の基盤と灯火が一体化されたものになった。

ノーフォーク・アンド・ウェスタン鉄道 (Norfolk and Western Railway) でもペンシルバニア鉄道と同じ方式の灯列式信号機が導入された。これはペンシルバニア鉄道が33%の株を持っていたことと関係する。さらにロングアイランド鉄道 (Long Island Rail Road) もペンシルバニア鉄道に完全に買収された後灯列式信号機を導入した。ペンシルバニア鉄道のペン・セントラル・トランスポーテーション (Penn Central Transportation) への合併後、停止信号の視認性改善のために全て琥珀色の灯列式信号機は赤いレンズのものに置き換えられた。ノーフォーク・アンド・ウェスタン鉄道でも1950年代から置き換え始め、アムトラックは引き継いだ灯列式信号機を1980年代から全て色灯式へ更新する工事を始めている。
色灯灯列式信号機

色と配列の両方を組み合わせた信号システムは、1920年代ボルチモア・アンド・オハイオ鉄道 (Baltimore and Ohio Railroad) によって開発され、後に傘下に入ったシカゴ・アンド・アルトン鉄道 (Chicago and Alton Railroad) でも導入された。このシステムは当初、その当時ボルチモア・アンド・オハイオ鉄道の子会社で、後にメトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ (MTA: Metropolitan Transportation Authority) により運営される高速通勤路線となったスタテンアイランド鉄道 (Staten Island Railroad) で試験的に導入された。CPL (Colour Position Lights) と呼ばれるこのシステムは、中央に円形の頭部があり、腕木式信号機の腕の位置を模擬した2つの色灯の組み合わせが点灯する。緑が縦位置、黄が右上がりの斜め位置、赤が横位置に点灯する(英語版のCSXトランスポーテーションでの使用例の写真を参照)。右下がりの斜め方向に白の点灯ができるものもある。この円形の頭部の周りに、最大6つのorbitalと呼ばれる灯火が、時計でいう、12時方向、2時方向、4時方向、6時方向、8時方向、10時方向に配置されている。メインの色灯配列は閉塞の開通状況を示し、緑が2セクション(もしくはそれ以上)、黄は1セクションの開通を示し、赤か白は開通区間なしを示す。orbitalは許容速度を示し、12時の位置の点灯が認可最高速度、順に速度が制限されて消灯が最減速を表す。

このシステムは、北アメリカでもっとも理論的に信頼できる信号システムである。北アメリカで赤の灯火を停止現示に使っているのはこのシステムだけである。また、地上に設置する(入換信号機のような)信号機と、主信号機とで同じ現示方式を使用している唯一のシステムでもある。明確さと視認性の高さという利点があるものの、設置とメンテナンスに多額のコストが掛かるため、他の鉄道会社には普及せず、CSXトランスポーテーション (CSX Transportation) も1990年代から徐々に色灯式信号機への置き換えを進めている。しかしながら2006年現在でもCSXの亜幹線ではまだまとまった数のこの方式の信号機を見ることができる。2005年にスタテンアイランド鉄道が信号システムを更新した時には、MTAはこのシステムを更新して利用し続けることを決めている。

ノーフォーク・アンド・ウェスタン鉄道とアムトラックでは、全て琥珀色の灯列信号機から色灯式信号機に置き換えたものを使っている。このシステムはアムトラックではPosition Colour Lightと呼ばれているが、ボルチモア・アンド・オハイオ鉄道のCPLと混同されるべきではなく、色灯化された配列信号機 (colourized position light) とでも呼ばれるべきものである。
信号機の設置蒸気機関車の運転台から見た、イギリスの腕木式信号機の門形支持物

路側の信号機は、対応する線路のそばに適切に設置される必要がある。
信号柱設置

単線区間では通常、信号柱を立ててその上に腕木式信号機または色灯式信号機の頭部を設置する。これは遠距離からでも視認しやすいようにするためである。信号機は通常、線路の運転士が乗務する側に立てる。
門形支持物設置

複数の線路が並走していたり、信号柱を立てるスペースがなかったりする場合には、信号柱以外の形態が検討される。複線区間では、1つの信号柱にブラケットを取り付けて2つの信号機を設置する場合があり、この場合左側の信号機が左側の線路に、右側の信号機が右側の線路に対応している。より多数の線路がある場合は門形支持物と呼ばれる、線路を横断するように設置されたビームに設置される形態が用いられる。信号機は、対応する線路の上に位置するビームに設置される。
地上設置オランダ、ユトレヒト中央駅の地上設置信号機

信号柱や門形支持物を設置するスペースのない場合には、信号機を地上に設置する場合がある。そのような信号機は通常より小さく作られていることがある(dwarf signalと呼ばれる)。地下鉄ではスペース上の問題によりこの形式がよく用いられる。
その他

場合によっては、それ以外の構造物に信号機を取り付けることがある。例えば、線路脇の擁壁や線路を横断する橋の一部、ホームの屋根、電化区間では電化用のビームなどに取り付けられる。
信号機の制御と運用

当初は、信号機は単純に進行と停止の指示をしていた。交通量が増加するにつれて、これだけでは不十分となり、様々な改善が加えられた。改善の一例としては、中継信号機の導入が挙げられる。中継信号機は、その先の信号機で止まる必要があるかどうか、運転士にあらかじめ伝達する。列車は停止信号が見えるようになった時点ではもう信号機までに止まることができる距離を過ぎていることが多いので、中継信号機を導入することにより高速化が可能となった。

信号機は当初、それぞれに直接接続されたてこで制御されていた。後にてこは集約されてワイヤやリンク機構により制御するようになった。この信号てこは信号扱所と呼ばれる場所に集約されることが普通で、機械的な連動装置により開通している分岐器と矛盾する信号現示が行われることを防ぐ仕組みも用いられるようになった。


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