金融経済学
[Wikipedia|▼Menu]
将来の状態が有限かつ離散的であると仮定した時、市場が完備(: complete)であるとは1次独立収益・損失をもたらす市場の金融資産の数が将来の状態数と等しい場合を言う[7]。ここで言う1次独立とは、市場の金融資産のそれぞれの状態における収益・損失を並べてユークリッド空間上のベクトルと見なした場合の線形代数における1次独立性を指す。また数理ファイナンスの文脈において市場が完備であるとは、ある期日にペイオフが確定する派生証券を考えた時に、全てのそのような派生証券のペイオフが既存の金融資産の組み合わせによって複製可能である場合をいう[8]。どちらの定義でもその意図するところは同じで、経済主体が考慮する将来のあらゆる不確実な資金変動を既存の金融資産についての取引戦略を立てることで(費用を無視すれば)複製できるということを意味している。市場の完備性は資産価格付けの第2基本定理と呼ばれる定理に関連付けられる。
市場の情報効率性

金融市場が(情報的に)効率的(: informationally efficient)であるとは、その市場における全ての金融資産の価格が利用可能な全ての情報を常に完全に反映している時をいう[9]。経済学において効率性というと市場の情報効率性の他にパレート効率性などで測られる配分の効率性の概念があるが[10]、金融経済学の文脈において単に市場の効率性と言った場合は市場の情報効率性を指す場合が多い。
効率的市場仮説

現実の金融市場が情報的に効率的であるという仮説を効率的市場仮説(: efficient market hypothesis)という。

ユージン・ファーマはHarry Roberts の提言を受けて、1970年の彼の論文において市場効率性を3つの段階に分別した[11]

一つがウィーク型の効率性(: weak-form efficiency)で現在の価格は少なくとも過去の価格のヒストリカルデータによる情報をすべて反映しているという意味での効率性である。次がセミストロング型の効率性(: semi-strong-form efficiency)で現在価格が過去の価格のヒストリカルデータに加えて、会計情報や株式分割情報などの公開情報をすべて反映しているという意味での効率性である。最後がストロング型の効率性(: strong-form efficiency)で、公開情報に加えインサイダー情報や有料のアナリスト情報などの非公開情報も含めた全ての情報を反映しているという意味での効率性である[9]

さらに同論文においてユージン・ファーマは結合仮説問題(: joint hypothesis problem)と呼ばれる効率的市場仮説の実証研究を行うにあたっての問題を提起した。もしある資産価格モデルを仮定して統計学的な仮説検定を行い、その検定が棄却されたならば、市場が情報的に非効率であることと仮定した資産価格モデルが間違っていることの二つが考えられる[12]。よって価格変動が想定した資産価格モデルで予想される程度から逸脱し、それが予測可能であったとしても、必ずしも市場が非効率であることを意味しているのではなく、モデルが間違っている可能性もあるということを指摘している[13]
理論

以下で金融経済学の理論的成果について列挙する。
モジリアーニ=ミラーの定理詳細は「MM理論」を参照

モジリアーニ=ミラーの定理とは、完全市場の下で企業価値は資金調達の方法(負債資本か)によらないという定理である。1958年フランコ・モジリアーニマートン・ミラーにより発表された[14]

企業の最適資本構成に関する現代的理論の出発点となる定理であり[15]コーポレートファイナンス会計学経営学などにおいて大きな影響を及ぼしている。

モジリアーニ=ミラーの定理の導出という業績によりフランコ・モジリアーニは1985年に、マートン・ミラーは1990年ノーベル経済学賞を受賞している。
確率的割引ファクターとリスク中立確率詳細は「確率的割引ファクター」および「リスク中立確率」を参照

標準的な経済学モデルにおける仮定の下で、裁定取引が存在しないとすると、株式価格は次のように決定される[16]。 P i , t = ∑ s π t + 1 ( s ) m t + 1 ( s ) ( P i , t + 1 ( s ) + d i , t + 1 ( s ) ) = E t [ m t + 1 ( P i , t + 1 + d i , t + 1 ) ] {\displaystyle P_{i,t}=\sum _{s}\pi _{t+1}(s)m_{t+1}(s)(P_{i,t+1}(s)+d_{i,t+1}(s))=E_{t}[m_{t+1}(P_{i,t+1}+d_{i,t+1})]}

ここで P i , t {\displaystyle P_{i,t}} と P i , t + 1 {\displaystyle P_{i,t+1}} は株式 i {\displaystyle i} のそれぞれ t , t + 1 {\displaystyle t,t+1} 時点における価格であり、 d i , t + 1 {\displaystyle d_{i,t+1}} は t + 1 {\displaystyle t+1} 時点における株式 i {\displaystyle i} の配当である。そして π t + 1 ( s ) {\displaystyle \pi _{t+1}(s)} は t + 1 {\displaystyle t+1} 時点において状態 s {\displaystyle s} が生起する t {\displaystyle t} 時点までの情報による条件付き確率となる。また E t {\displaystyle E_{t}} は t {\displaystyle t} 時点までの情報による条件付き期待値を表す。上述の式における株式 i {\displaystyle i} に依存しないファクター m t + 1 {\displaystyle m_{t+1}} を t + 1 {\displaystyle t+1} 時点における確率的割引ファクター(: stochastic discount factor)と言う。

配当を金融資産を保持する事による将来のキャッシュフローと捉えると、株式のみではなくあらゆる金融資産に対して上述の式が成立する事が言える。特に安全資産の利子率を R f {\displaystyle R_{f}} とすると以下の式が成立する[17]。 E t [ m t + 1 ] = ∑ s π t + 1 ( s ) m t + 1 ( s ) = 1 1 + R f {\displaystyle E_{t}[m_{t+1}]=\sum _{s}\pi _{t+1}(s)m_{t+1}(s)={\frac {1}{1+R_{f}}}}

さらに確率的割引ファクター m t + 1 {\displaystyle m_{t+1}} について、新たな確率 π t + 1 ∗ {\displaystyle \pi _{t+1}^{*}} を π t + 1 ∗ ( s ) = ( 1 + R f ) m t + 1 ( s ) π t + 1 ( s ) = m t + 1 ( s ) π t + 1 ( s ) / ∑ s ′ m t + 1 ( s ′ ) π t + 1 ( s ′ ) {\displaystyle \pi _{t+1}^{*}(s)=(1+R_{f})m_{t+1}(s)\pi _{t+1}(s)=m_{t+1}(s)\pi _{t+1}(s)/\sum _{s^{\prime }}m_{t+1}(s^{\prime })\pi _{t+1}(s^{\prime })}


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:129 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef