量子物理学
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また上述の測定に関する仮定を射影仮説(しゃえいかせつ、: projection postulate)と呼ぶ。

演算子形式の量子力学においては、閉じた有限自由度系の純粋状態を扱うにあたって、以下の5つを量子論の基本原理としている。

状態は、ある複素ヒルベルト空間規格化されたベクトル(状態ベクトル)で表される。

オブザーバブルは、複素ヒルベルト空間上の自己共役作用素で表される。

ボルンの規則

状態ベクトルの時間発展は、シュレーディンガー方程式で表される。

射影仮説(波束の収縮)

ただし、量子力学の基本原理の表し方には、他に経路積分形式などもある[10]
古典力学との関係
相違点

量子力学における、古典力学相対性理論ニュートン力学)や古典的な電磁気学との大きな違いとして、不確定性原理相補性原理が挙げられる。観測行為とそれによって記述される物体状態の取り扱いや、それによって要求される確率的な現象の記述は、古典論にはない相違である。事象が確率的にのみ記述されるということは、ニュートン力学などで成り立っていたような「強い意味での因果律」が成り立たないことを意味する。より詳細に言えば、量子力学において成り立つ因果律とは、シュレーディンガー方程式によって記述される波動関数の時間的変化が因果的であることをいう[12]。量子力学では粒子が「波」として記述される一方で、電波のような電磁波(波としての性質をもちろん示す)にもまた粒子としての特徴も示されている(光量子仮説[13]。一般に観測に際しては、粒子性と波動性は同時には現れず、粒子的な振る舞いをみた場合には波動的な性質は失われ、逆に波動的な振る舞いをみる場合には粒子的な性質は失われている。

量子力学の応用例として古典論の未解決問題を明らかにした事例としては、原子の安定性や大きさの一様性、黒体放射におけるプランクの法則の説明[14]や、多原子分子からなる気体比熱容量の決定[15]などが挙げられる。
古典対応

古典力学は、巨視的な極限をとった際の量子力学の近似理論であり、たとえば以下のような量子力学基礎方程式の近似によって古典論との対応関係がみられている。
いくつかの有力な模型で、
プランク定数を 0 とみなせば古典力学に等価になる

シュレーディンガー方程式期待値を取ることで、運動方程式が得られる

一方、反対に古典力学における物理量量子化することで量子力学が得られる

ボーアの対応原理
ボーアの
対応原理により、古典力学は「プランク定数が充分小さな場合の量子力学の極限」として位置付けられている。
エーレンフェストの定理
詳細は「
エーレンフェストの定理」を参照ポテンシャルの空間微分(古典的にはに対応するもの)の空間的な変化がゆっくりで、波動関数の広がっている範囲で一定と近似できるならば、シュレーディンガー方程式期待値を取ることで運動方程式が得られる。すなわち、位置の期待値と運動量の期待値が古典力学における運動方程式であるハミルトン方程式を満たす。
量子力学の解釈問題
量子力学と観測詳細は「観測問題」を参照

量子力学では対象を状態の重ね合わせとして記述し、観測によって一つの状態がある確率で実現する。この枠組みは、それ以前までに育まれていた客観的実在を想定する決定論的記述を見直す契機となり、量子力学の解釈問題が重要なテーマとなった。閉じた系を扱う標準的な解釈では、量子力学は古典物理学とは異なり、対象とする量子系の外部に観測者(: observer)を必要とする理論構成となっている[16]。ここでは、観測者は人でも装置でもよく、量子系と観測者の境界は任意に設定できる[17]

コペンハーゲン解釈においては、観測が行われると、状態を記述する波動関数が一つの状態に収縮する。上記の標準解釈では、観測という行為がいつどのように量子系に影響を与えて、その状態が実現したのかについては定義されない。例えば、有名なシュレーディンガーの猫の思考実験では、観測とはどの時点のことを指すのか、粒子検出器が反応した時点なのか、毒ガスが発生した時点か、それを猫が見た時点か、箱が空けられた時点か、箱を開けた人が猫を見た時点か…、といったどの時点で観測が成立するのかは標準解釈では決まっていない。どの時点で観測が起きるのか、どこまでを量子系とするのかは、測定者が任意に設定できる。

一方で、アインシュタインは「量子力学では記述されていないが、実際にその状態を実現させた変数が存在するはずである」と主張した(局所的な隠れた変数理論)。隠れた変数理論は数学的に成り立たないことがフォン・ノイマンによって証明されたが、後に、その証明に使われた仮定に誤りがあることが分かった。ただし局所的な隠れた変数理論は、量子力学とは異なる結論を出すことがベルの不等式によって示され、実験検証によって棄却された。量子力学と同じ結論を出す、隠れた変数理論は存在するが、非局所的である(クラスター分解性を持たない)。
量子力学と意識

シュレディンガー方程式から状態の収縮を導くことができないことはフォン・ノイマンが証明した。すなわち、標準解釈には状態の収縮を引き起こす物理的機構がない。ノイマンは、量子系と観測者の境界を、観測者の脳と「主観的な知覚」のあいだに置くこともできると論じた[17]ユージン・ウィグナーは状態の収縮は意識によって起きると主張し、これに関連して「ウィグナーの友人のパラドックス」[18]を提出した。これはシュレーディンガーの猫の変形である。ここでは、毒ガス発生機はランプに置き換えられ、猫の代わりにウィグナーの友人を箱に入れる。箱の外の人間が「友人」から観測結果を知らされたとき、箱の外の人間が観測する時点で観測が行われたとすべきか、箱の中の「友人」が既に観測を行っているとすべきか。この思考実験は、観測を行う主体が「意識」を持つ人間であるか、あるいは猫であるか、あるいは無生物であるかによって、現象が区別されるのかという問題意識から生まれた。他に、ロジャー・ペンローズも意識や心と量子力学を関連させて論じている(量子脳理論[19]。ただし、量子力学と意識を結び付ける物理学者は少数派である。
量子力学と論理学

フォン・ノイマンらによる量子力学の形式化(量子力学の数学的基礎)に関連して、「観測」を命題とみなした量子論理もある。「観測」の性質を反映し、古典論理の法則のうち分配律が成り立たないなどの点で違いがある。
量子コンピュータ詳細は「量子コンピュータ」を参照

計算機中の信号媒体の状態は、本来量子力学的に記述されるはずであり、0 または 1 の2値(1ビット)ではなく、 0 と 1 がそれぞれの確率で重ねあわされた途中の値を持つことがありうる。この量子論的な状態を1量子ビット (qubit) と呼ぶ。ここで複数のqubitを量子もつれ状態にすることにより、様々な数を表す状態がそれぞれの確率で重ね合わされた状態を実現することができる。量子もつれを壊さないユニタリー変換を活用してそれぞれの確率の重みを変化させることで演算を行うと、特定の問題について古典計算機では実現し得ない計算速度を実現できる。


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