量子力学
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閉じた系を扱う標準的な解釈では、量子力学は古典物理学とは異なり、対象とする量子系の外部に観測者(: observer)を必要とする理論構成となっている[16]。ここでは、観測者は人でも装置でもよく、量子系と観測者の境界は任意に設定できる[17]

コペンハーゲン解釈においては、観測が行われると、状態を記述する波動関数が一つの状態に収縮する。上記の標準解釈では、観測という行為がいつどのように量子系に影響を与えて、その状態が実現したのかについては定義されない。例えば、有名なシュレーディンガーの猫の思考実験では、観測とはどの時点のことを指すのか、粒子検出器が反応した時点なのか、毒ガスが発生した時点か、それを猫が見た時点か、箱が空けられた時点か、箱を開けた人が猫を見た時点か…、といったどの時点で観測が成立するのかは標準解釈では決まっていない。どの時点で観測が起きるのか、どこまでを量子系とするのかは、測定者が任意に設定できる。

一方で、アインシュタインは「量子力学では記述されていないが、実際にその状態を実現させた変数が存在するはずである」と主張した(局所的な隠れた変数理論)。隠れた変数理論は数学的に成り立たないことがフォン・ノイマンによって証明されたが、後に、その証明に使われた仮定に誤りがあることが分かった。ただし局所的な隠れた変数理論は、量子力学とは異なる結論を出すことがベルの不等式によって示され、実験検証によって棄却された。量子力学と同じ結論を出す、隠れた変数理論は存在するが、非局所的である(クラスター分解性を持たない)。
量子力学と意識

シュレディンガー方程式から状態の収縮を導くことができないことはフォン・ノイマンが証明した。すなわち、標準解釈には状態の収縮を引き起こす物理的機構がない。ノイマンは、量子系と観測者の境界を、観測者の脳と「主観的な知覚」のあいだに置くこともできると論じた[17]ユージン・ウィグナーは状態の収縮は意識によって起きると主張し、これに関連して「ウィグナーの友人のパラドックス」[18]を提出した。これはシュレーディンガーの猫の変形である。ここでは、毒ガス発生機はランプに置き換えられ、猫の代わりにウィグナーの友人を箱に入れる。箱の外の人間が「友人」から観測結果を知らされたとき、箱の外の人間が観測する時点で観測が行われたとすべきか、箱の中の「友人」が既に観測を行っているとすべきか。この思考実験は、観測を行う主体が「意識」を持つ人間であるか、あるいは猫であるか、あるいは無生物であるかによって、現象が区別されるのかという問題意識から生まれた。他に、ロジャー・ペンローズも意識や心と量子力学を関連させて論じている(量子脳理論[19]。ただし、量子力学と意識を結び付ける物理学者は少数派である。
量子力学と論理学

フォン・ノイマンらによる量子力学の形式化(量子力学の数学的基礎)に関連して、「観測」を命題とみなした量子論理もある。「観測」の性質を反映し、古典論理の法則のうち分配律が成り立たないなどの点で違いがある。
量子コンピュータ詳細は「量子コンピュータ」を参照

計算機中の信号媒体の状態は、本来量子力学的に記述されるはずであり、0 または 1 の2値(1ビット)ではなく、 0 と 1 がそれぞれの確率で重ねあわされた途中の値を持つことがありうる。この量子論的な状態を1量子ビット (qubit) と呼ぶ。ここで複数のqubitを量子もつれ状態にすることにより、様々な数を表す状態がそれぞれの確率で重ね合わされた状態を実現することができる。量子もつれを壊さないユニタリー変換を活用してそれぞれの確率の重みを変化させることで演算を行うと、特定の問題について古典計算機では実現し得ない計算速度を実現できる。

この中には素因数分解も含まれており、Shorのアルゴリズムにより素因数分解を多項式時間で解けることが証明されている。RSA暗号は大きな桁数の素因数分解が事実上不可能である事を前提として成立しているため、楕円曲線暗号離散対数問題も含めた前提を量子コンピュータが崩すことになっている。
歴史

量子論の直接的なはじまりは、黒体放射分光放射輝度に関するマックス・プランクの研究に見られ、量子仮説を導入し統計力学からプランクの法則を再導出した1900年12月の論文[20]を発表している。ただし、この時点では今日知られるような形式の量子力学は得られておらず、量子力学の数学的な取り扱いが整備されるのは1925年以降のヴェルナー・ハイゼンベルク行列力学エルヴィン・シュレーディンガー波動力学の登場による[21]

20世紀初頭まで示されていた物理学の基礎は決定論で、物体の運動はある初期値に従って完全に定まると考えられていた。熱力学を力学の立場から説明する目的で、ルートヴィッヒ・ボルツマンらによって統計力学の理論も形成されていたが、その基礎は古典力学で、統計力学における確率的な事象はの統計的な性質だった。一方で、同じく20世紀の初頭に建設されていった量子力学は、次第に非決定論的な性格を帯びたものであることも示され、量子力学が真に非決定論であるか、あるいは量子力学に変わる決定論的な理論が存在し得るかなどといった議論が生じ、量子力学の理論形式の解釈をめぐり論争が展開された[22]。量子力学が形成される初期において、従来のニュートン力学相対性理論と異なり、物体が時空上に定まった軌道をとらないが、実験においてはウィルソンの霧箱などを利用することで粒子の軌跡を知ることができ、見かけ上は古典的な運動が実現されていることが指摘された[23]。この粒子の飛跡を説明する過程で、ハイゼンベルクにより不確定性原理が発見され、粒子の飛跡の問題について正当性のある物理的解釈が得られるようになった。不確定性原理によれば、物体の位置運動量の両方を定めることができず、位置を精度よく定めるほど、運動量を正確には決定できなくなる[24]。しかし、位置と運動量の不確定性の積はプランク定数程度の大きさになり、霧箱の実験においては位置と運動量を充分な精度で測定することができ、粒子が連続的に運動しているように見えることについて説明付けられている。

ハイゼンベルクによって示された不確定性関係の解釈や適用範囲についても議論が続けられている。ニールス・ボーアアルベルト・アインシュタインの討論では、ベルギーのブリュッセルにおいて1927年10月24日に開かれた第5回ソルヴェイ会議を始まりに[25]1940年代の末まで断続的に続けられた[26]。この議論の中では1935年アインシュタインらによる実在性の定義が提示され[27]、量子力学における実在性と局所性の研究が行われるきっかけとなっている。
前期量子論詳細は「前期量子論」を参照

前期量子論(ぜんきりょうしろん)とは古典力学統計力学)の時代から、ハイゼンベルク、シュレーディンガー等による本格的な量子力学の構築が始まるまでの、過渡期に現れた量子効果に関しての一連の理論をいう[21]

量子力学成立以前の物理学において、物体の運動はニュートンの運動方程式によって説明されていた。18世紀に産業革命がはじまるとニュートン力学はただちに機械工学に応用されはじめた。


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