量子力学
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量子力学における基本的な要請とその数理的な表現について以下に述べる(これについては、フォン・ノイマン量子力学の数学的基礎』以外にも、伏見康治が電子ファイルを公開している「確率論及統計論」で整理されている[11])。

シュレーディンガー方程式やハイゼンベルクの運動方程式によって量子力学的な問題を取り扱う場合においては、物理量作用素(さようそ、: operator)として扱われる。量子力学の個々の問題は、その基本方程式の解として得られる状態によって特徴付けられ、理解される。ここでは、測定され得る物理量の具体的な振る舞いは、対応する物理量の作用素をある状態に作用させることによって知ることができる。作用素は演算子とも呼ばれ、演算子によって記述される量子力学の様式は演算子形式と呼ばれる。作用素および状態が持つ一般的な性質は、それらが満たすべき物理的な要請によって与えられる。

量子力学においては、ある物理量の値が確定した状態をまず考える。このとき、その物理量に対する固有状態(こゆうじょうたい、: eigenstate)と呼ぶ。固有状態は、物理量を表す作用素の固有関数(こゆうかんすう、: eigenfunction)あるいは固有ベクトルとして記述される。物理量の値は、この固有関数(あるいは固有ベクトル)に対応する固有値(こゆうち、: eigenvalue)に結び付けられる。ある物理量の値が確定しない状態も、以下のように固有状態を基盤に理解される。

あるが取り得る物理量の値の確率分布は、具体的な系の状態によって決定される。この確率分布に関する規則はボルンの規則と呼ばれる。この系の状態はある物理量の固有状態の重ね合わせによって表すことができ、系に対して複数の物理量が与えられている場合は、それぞれの物理量に対して、その固有状態の線型結合によって系の状態を表すこともできる。

物理量作用素の固有値が実数であることや、状態の固有状態による展開が常に可能なことは、物理量に対応する作用素が自己共役作用素(じこきょうやくさようそ、: self-adjoint operator)であることに集約される。量子力学では観測や測定が古典論にもまして重要な意味を持っているため、「物理量」というような抽象的な呼称の代わりにオブザーバブル: observable)、「観測可能なもの」と呼ぶことがある。量子力学において自己共役作用素となるべきものは、このオブザーバブルとされている。

ある物理量を測定し、その測定値を得た場合に、すぐさま同じ測定を続けて行うことを考えると、2回目の測定についてはその直前の測定によって、測定したい物理量に関するほとんど同時刻における完全な知識が得られている。そのため、2回目の測定値は1回目の測定値と必ず一致することが期待される。測定に関する状態の役割はボルンの規則によって規定されるべきであることから、この1回目の測定後の系の量子状態は、測定値に対応する固有状態になっていることが要求される。このことは、系の状態を波動関数によって表せば、空間に広がっていた波動関数が測定によって、ディラックのデルタ関数のようなある一点に局在した形へと瞬間的に収縮することを示している。この現象は波束の収縮と呼ばれ、波束の収縮を起こすような測定は射影測定と呼ばれる。また上述の測定に関する仮定を射影仮説(しゃえいかせつ、: projection postulate)と呼ぶ。

演算子形式の量子力学においては、閉じた有限自由度系の純粋状態を扱うにあたって、以下の5つを量子論の基本原理としている。

状態は、ある複素ヒルベルト空間規格化されたベクトル(状態ベクトル)で表される。

オブザーバブルは、複素ヒルベルト空間上の自己共役作用素で表される。

ボルンの規則

状態ベクトルの時間発展は、シュレーディンガー方程式で表される。

射影仮説(波束の収縮)

ただし、量子力学の基本原理の表し方には、他に経路積分形式などもある[10]
古典力学との関係
相違点

量子力学における、古典力学相対性理論ニュートン力学)や古典的な電磁気学との大きな違いとして、不確定性原理相補性原理が挙げられる。観測行為とそれによって記述される物体状態の取り扱いや、それによって要求される確率的な現象の記述は、古典論にはない相違である。事象が確率的にのみ記述されるということは、ニュートン力学などで成り立っていたような「強い意味での因果律」が成り立たないことを意味する。より詳細に言えば、量子力学において成り立つ因果律とは、シュレーディンガー方程式によって記述される波動関数の時間的変化が因果的であることをいう[12]。量子力学では粒子が「波」として記述される一方で、電波のような電磁波(波としての性質をもちろん示す)にもまた粒子としての特徴も示されている(光量子仮説[13]。一般に観測に際しては、粒子性と波動性は同時には現れず、粒子的な振る舞いをみた場合には波動的な性質は失われ、逆に波動的な振る舞いをみる場合には粒子的な性質は失われている。

量子力学の応用例として古典論の未解決問題を明らかにした事例としては、原子の安定性や大きさの一様性、黒体放射におけるプランクの法則の説明[14]や、多原子分子からなる気体比熱容量の決定[15]などが挙げられる。
古典対応

古典力学は、巨視的な極限をとった際の量子力学の近似理論であり、たとえば以下のような量子力学基礎方程式の近似によって古典論との対応関係がみられている。
いくつかの有力な模型で、
プランク定数を 0 とみなせば古典力学に等価になる

シュレーディンガー方程式期待値を取ることで、運動方程式が得られる

一方、反対に古典力学における物理量量子化することで量子力学が得られる

ボーアの対応原理
ボーアの
対応原理により、古典力学は「プランク定数が充分小さな場合の量子力学の極限」として位置付けられている。
エーレンフェストの定理
詳細は「
エーレンフェストの定理」を参照ポテンシャルの空間微分(古典的にはに対応するもの)の空間的な変化がゆっくりで、波動関数の広がっている範囲で一定と近似できるならば、シュレーディンガー方程式期待値を取ることで運動方程式が得られる。すなわち、位置の期待値と運動量の期待値が古典力学における運動方程式であるハミルトン方程式を満たす。
量子力学の解釈問題
量子力学と観測詳細は「観測問題」を参照

量子力学では対象を状態の重ね合わせとして記述し、観測によって一つの状態がある確率で実現する。この枠組みは、それ以前までに育まれていた客観的実在を想定する決定論的記述を見直す契機となり、量子力学の解釈問題が重要なテーマとなった。閉じた系を扱う標準的な解釈では、量子力学は古典物理学とは異なり、対象とする量子系の外部に観測者(: observer)を必要とする理論構成となっている[16]。ここでは、観測者は人でも装置でもよく、量子系と観測者の境界は任意に設定できる[17]

コペンハーゲン解釈においては、観測が行われると、状態を記述する波動関数が一つの状態に収縮する。上記の標準解釈では、観測という行為がいつどのように量子系に影響を与えて、その状態が実現したのかについては定義されない。例えば、有名なシュレーディンガーの猫の思考実験では、観測とはどの時点のことを指すのか、粒子検出器が反応した時点なのか、毒ガスが発生した時点か、それを猫が見た時点か、箱が空けられた時点か、箱を開けた人が猫を見た時点か…、といったどの時点で観測が成立するのかは標準解釈では決まっていない。どの時点で観測が起きるのか、どこまでを量子系とするのかは、測定者が任意に設定できる。

一方で、アインシュタインは「量子力学では記述されていないが、実際にその状態を実現させた変数が存在するはずである」と主張した(局所的な隠れた変数理論)。


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