太平洋地域や日本、中国(香港・マカオを含む)、インド、インドネシア、タイ王国、ベトナム、マレーシアなどアジアの多くの国は、国籍選択年齢に達していない者以外の二重国籍を制限または禁止している[25]。パキスタンでは特定の国家[注釈 3]の二重国籍のみ認めている[40]。
イランや北朝鮮では他国の国籍を取得しても、自国の国籍を放棄することは困難・不可能となっている。オーストラリア、フィジー、ニュージーランド、フィリピン、サモア、バヌアツでは、二重国籍が認められている[25]。フィリピン、オーストラリア、フィジー[注釈 4][41]では二重国籍が認められているが、公職者になることは禁止している[42][3]。ニュージーランドでは国益に反したり、他国を重視しているなど市民権の付与が不適切と判断された場合は剥奪できる[25]。
オーストラリア憲法44条a項は多重国籍者が選挙で公職に就くことを禁止している[43]。オーストラリアでは二重国籍をめぐる問題によって2017年に上下両院で10人が辞任に追い込まれたうえ、2018年にも裁判で5人の議員資格が無効とされて与党の下院での過半数に影響が出かねない事態となり、政界を不安定化させるまでに至った[43]。 アメリカ合衆国、イギリス、フランス、デンマークなどの国々では法律上、大統領など一部の公職位以外の政治家の二重国籍を容認している。二重国籍者に被選挙権を認めていても、在住期間に規制が設けられている国もある。 政治家に多重国籍を認めていない国では、就任後に辞任や解任の例がある。
政治家の二重国籍事情
二重国籍者の被選挙権を全面的、または部分的に認めている国
アーノルド・シュワルツネッガーは、取得したアメリカ国籍と生国のオーストリア国籍を保持したまま、2003年から2011年の間にアメリカ・カリフォルニア州知事を務めていた。
2008年5月から2016年5月まで英国のロンドン市長を務め、2016年7月からテリーザ・メイ内閣に外務・英連邦大臣 として入閣したボリス・ジョンソンはアメリカ国籍も保持していたが、2017年2月に離脱したことが明らかになった。
2016年アメリカ合衆国大統領共和党予備選挙に出馬した共和党のテッド・クルーズ上院議員は、2013年から2014年に放棄するまでカナダ国籍を保持していた。
2014年にフランスのパリ市長に就任したアンヌ・イダルゴは、フランスと出身国であるスペインの二重国籍であり、フランス国籍取得時に失ったスペイン国籍を、後のスペインの法改正により改めて取得し直していた[44]。
2010年7月より2013年2月までにドイツのニーダーザクセン州の首相を務めたデイヴィッド・マカリスターは父の出身国であるイギリスの国籍も持っている。
政治家に多重国籍を認めていない国
オーストラリア詳細は「オーストラリア政治家二重国籍問題」を参照
移民の国であり、国民の多重国籍は問題のないオーストラリアでは、外国の国籍を有する者は連邦議員には就任できない旨が、憲法44条で規定されている。ニュージーランドの国籍を保有することを知らずに9年間活動していた緑の党所属の連邦上院議員、スコット・ラドラムが、2017年7月14日に議員辞職していた[45]。2017年7月18日に同じく緑の党所属[46]の上院議員、ラリッサ・ウォーターズも出生国のカナダの国籍をまだ放棄していないことが判明したため、議員を辞職した[47]。また2017年7月25日、当時現職資源・北部担当相のマシュー・キャナヴァンが、母親が無断で申請していたことでイタリア国籍を保有していることが判明し閣僚を辞任したが、本人が署名していない国籍取得の有効性が確認できるまでは上院議員にとどまるとしている[48]。さらに同年10月27日、オーストラリアの高等裁判所は、国民党党首で副首相でもあるバーナビー・ジョイスが、ニュージーランドとの二重国籍であり議員資格がないとの判断。バーナビー・ジョイスの父親がニュージーランド出身で、自動的に国籍が付与されていた結果であった[49]。2017年、オーストラリア連邦議会では選挙当時に二重国籍を保有していたとして、上下院で合わせて10人が辞任に追い込まれた[50]。2018年5月9日、最高裁にあたるオーストラリア高等裁判所は、ケイティー・ギャラガー元老院(上院)議員と4人の代議院(下院)議員について、議員不適格との判断を下した[50]。
インドネシア
2016年8月15日、インドネシアのジョコ大統領は、自身が国外より招聘し任命したアルチャンドラ・タハル・エネルギー鉱物資源相を米国との二重国籍を理由に解任した。インドネシアでは成人の二重国籍保持は禁止されている[51][52]。
フィリピン
フィリピンでは、二重国籍者は被選挙権がなく、「フィリピン国内における出生」および「投票日からさかのぼって10年間の国内居住」が大統領選挙への立候補要件である。2016年フィリピン大統領選挙のグレース・ポー候補者が、過去にアメリカ合衆国の市民権を取得して長期に居住していたことを指摘されて、候補者資格が無効だとの裁判があった[53][42]。
ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が指名した閣僚を審査するフィリピンの閣僚任命委員会はヤサイ前外相の就任を虚偽答弁により全会一致で否決した。