重国籍
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外交官などの外務公務員については、外国の国籍を有することを欠格事項にしており[13]人事院人事院規則第9条2項において、国家公務員の外務省専門職員採用試験の受験資格につき、外国の国籍を有することを欠格事由としている[14]。その他の公務員については、法律上の直接規定はないが、他省庁のキャリア官僚(幹部自衛官も含む)に関して外務省における在外公館への出向が想定されている人事構造の省庁では、多重国籍者は事実上制限されている[15]

日本国民が、外国の国籍も有する多重国籍であることは、公職選挙法上「被選挙権の欠格事由」には該当しない。また、外国の国籍を有する日本国民が国務大臣内閣総理大臣になることにも法律上の規制はないが、国会議員から起用されることも想定されている外務公務員(全権委員特派大使など)に就任することはできず、選挙で当選しても国籍法により日本国籍を失った場合は被選挙権喪失という形で公職を失職となる。

国籍法第11条の規定により、他国の国籍を自分の意志で取得した者、すなわち他国に帰化した者は自動的に日本国籍を失う。しかし、外国政府が日本国政府にその事実を通知するようなシステムはないため、現実的に日本国政府はこうした帰化の事実を自動的には把握できない。そのため、戸籍法では国籍離脱者に対して国籍喪失の届出を義務付けているが、罰則はなく届け出が徹底されていない。国籍喪失が届け出られないと日本国民としての戸籍がなお日本に残存し続けるため、結果的に多重国籍者であると誤解してしまう余地が存在する[16]

日本弁護士連合会は、2008年に「国籍選択制度に関する意見書」[17]、2017年に「国籍留保・喪失制度に関する意見書」[18]を公表している。

1949年に制定され、1979年に廃止された「外国人の財産取得に関する政令」では、政令の施行地に住所を有する者を除き、日本国籍と外国籍を保有する二重国籍者は外国人として扱われた。

日本の多重国籍者数については、1984年(昭和59年)の改正国籍法の施行前については未調査で、1985年(昭和60年)当時は年間約1万人程度、その後に増加して1992年(平成4年)には2万人程度、2002年(平成14年)では約3万3千人を超えている[19]。1985年(昭和60年)から2002年(平成14年)までの数の総計は約40万人であり、2008年(平成20年)の国籍法改正の時点の集計では約58万人である[5]
各国の実情

ヨーロッパでは1997年の国籍に関するヨーロッパ条約において、域内の国際結婚などで多重国籍となった場合は成人するまで容認するという規定が盛り込まれた。このため、オーストリアブルガリアなどのように二重国籍を認めない国では、出生時に2つの市民権を持つ場合、相手国の法律で自国籍離脱が不可能な場合は例外として容認されている[5]。また、多重国籍を認めている国でも、政府要職に就任する人物が多重国籍である場合は国家の権力行使において問題視されることがあるため、多重国籍者の政府要職者就任禁止が規定されていることがある。法の明文で禁止されていなくても、多重国籍を公表したうえで他国籍離脱の検討および国家に対する忠誠に問題ないか、厳しく問われる社会文化となっている国もある[20]

国籍(または市民権)に関しては、国ごとに基準を設け、国ごとに決定されている。1国を超える市民権を得る状況になった時、どちらかの国に法の規定がない場合は、二重国籍が発生し得る。認めている国でも、ロシアのように二重国籍の秘匿は避けるべきものと考えている国もある[21]
アメリカ合衆国の実情

アメリカ合衆国では、多重国籍者の存在を認めてはいるものの、積極的には容認していない。アメリカ合衆国国務省も、多重国籍は租税回避テロリズムへの対策のために推奨しないと公表している。出生時に自動的に他国の国籍を得た場合はアメリカ国籍に影響を与えないが、アメリカ人は米国籍を放棄する意志を持ってアメリカ以外の国籍を得た場合は、米国移民国籍法によってアメリカ国籍を失う可能性がある[2][22]

アメリカ合衆国連邦政府が多重国籍を公式に支持しない理由は、アメリカ国民が国民に義務を要求する場合に、他方の国の法律と反するような状況に陥ったり、二重国籍者が他方の国で問題となった場合に、政府が自国民として保護することが制限されたりする場合があるためとしている[2]。さらには、新たにアメリカ合衆国市民となる移民は、アメリカ合衆国に対して忠誠を誓う宣誓を宣誓式で行うこと、以前に保持したすべての外国への忠誠の放棄、法律が定めた場合の兵役従事・内外の敵と戦う国防などの誓いが必要とされる(忠誠の誓い (アメリカ))[23]

二重国籍者は中央情報局 (CIA) やアメリカ合衆国国務省で、国家機密を扱う職への応募資格を失うことがある[24]1967年連邦最高裁では、重国籍の権利が憲法修正第14条第1節(市民権条項)に基づいて認められているとする判例が出ている[7]
欧州の実情

民間資料によれば、オランダオーストリアアンドラノルウェーグリーンランドデンマーク領)、ベラルーシエストニアモナコモルドバスロバキアウクライナボスニア・ヘルツェゴビナサンマリノアゼルバイジャンブルガリアジョージアなどでは一定条件下での多重国籍を認めており[25]欧州連合加盟国では出生時に2つの市民権所持で成人以前・相手国の法律で自国籍離脱が不可能な場合は例外として容認されている。スペインではラテン系やスペイン語圏の国家[注釈 1]の二重国籍の場合にのみ認めている[26]

ポーランドでは、他国の市民権を持つ者は非多重国籍者同様に防衛の義務[注釈 2]を負うことが求められている。いくつかの州では二重国籍を認識せずに他国の市民権を取得した場合、自動的に以前の市民権を失うことがある[27][28]

フィンランドではウクライナを巡るロシアとEUの緊張関係を背景として、2017年にロシアとの二重国籍者にはフィンランド軍への入隊を認めないとともに、現職士官軍事機密情報へアクセスできる立場から外す[29]ほか、外務省での採用を見送った[30]。さらには、ロシアとの二重国籍者について政府全体としても二重国籍者の重要公職への就任制限を検討中であると報じられた[29]。同年には、フィンランドの防諜機関は二重国籍保持者がロシアのスパイとして勧誘されていると警告した[31]

きわめて特殊な例ではあるが、バチカンでは国籍に相当する「居住権」はバチカンで居住権を必要とする職務についている期間に限って必要に応じて与えられる特殊な地位であり、バチカンの居住権を持つ者は全員が従来の国籍を合わせて保持している二重国籍者である。
ロシアの実情

ロシアでは二重国籍は公職者以外は認められているが、国籍や保有する他国の市民権の秘匿が犯罪である。2014年2月以降、アメリカの市民権取得者のように厳密な忠誠宣言と、他国の市民権・国籍を取得した場合には2か月以内にロシア連邦移民局に届け出をしなければならず、違反した場合は500 - 1000ルーブル(約1500 - 3000円)の罰金が課され、意図的に隠した場合は20万ルーブル(約60万円)の罰金か400時間の労働刑がある[21]
中東の事情

イスラエルでは多重国籍は認められており、兵役義務もある[32]

バーレーンオマーンカタールサウジアラビアクウェートアラブ首長国連邦イエメンなどでは二重国籍は認められていない[25]
アフリカの実情


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