里親
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この条文では、「都道府県知事」は、「児童を里親……に委託し」とし、里親とは、「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童を養育することを希望する者であって、都道府県知事が、適当と認める者」と規定するのみであった。その後1974(昭和49)年の「短期里親の運用について」(昭和49年9月17日児発第596 号)において里親制度における最初の拡充が試みられた。この中で、「短期里親制度」が新たに導入され、「短期里親」が養育する対象児童は、「保護者の疾病、傷害、拘禁等の理由により、おおむね一か月から一か年の期間、保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」とされた。「短期里親」は通常の里親の一環として位置づけられることになった[26]

制度の当初は戦争により親を失ったものが多く、一時は里親登録数が2万人里子は9千人以上に達した。その後児童養護施設の拡充などにより減少し90年代以降は里親登録数は7千人里子は2千人台になった[27]。近年はともに増加し平成25年は登録里親数が9441人、委託里親数が3560人、委託児童数が4636人となっている[28]。里親等委託率には自治体間で大きな差があり、新潟県で57.5%など、里親等委託率が5割を超えている県もあるが、最小では秋田県が9.6%(平成29年度末)と自治体間の差が激しい [29]

元高萩市長草間吉夫は生後すぐ乳児院に措置され、児童養護施設で育ったが当時の市長が週末里親となり触れ合いがあったことを語っている[30]
海外との比較

日本でも最も古くからの上流階級であった公家の社会では「恵まれた上流階級の家での養育ではなく、他人に子どもを預けることで子どもを強く育てよう」という考え方はイギリスの貴族の子育ての文化とも類似する点があった。そのような制度の名残か、華族の家では学習院に寄宿舎ができる以前から、子どもを教師の家や屋敷の外に構えた家などで下宿生活をさせ、上流階級であれば子どもの養育は実の両親がおこなわず使用人にゆだねる部分も多かった。

現在、他の先進諸国では子供は里親などの家庭的な環境で育てるのが一般的であり、里親への委託率が15%の日本は特殊であるとされる[31]。政府はできる限り家庭的な環境で子どもを育てるために里親への委託を増やすのが望ましいとしており、2016年版の子ども・若者白書日本では「児童養護施設などに里親支援の専門相談員を配置し、里親制度の普及を促進する」としている[32]。委託期間も諸外国に比較し長いケースが多く、3分の1が5年以上であり、10年を超すケースも珍しくない。里親は熱心に養育にあたっており、過半数はそのまま養子にしたいとも願っているという。このため、外国の「実親に戻すまでの短期間保育型」に対し、日本では「長期間保育による里親家庭とりこみ型」が中心となっているとの指摘がある[33]。その背景には、実親への支援が不十分であると指摘されている。アメリカではスティーブ・ジョブズが養子であり、養子は教育水準高い傾向にあり養子として育ち、成功している著名人は多い[34]

なお、国外では、子どもの施設養護と里親養育に取り組む国際協会FICEインターナショナルによると、欧州の大多数の国では施設養護から里親養育に移行したものの、「ユーロチャイルド」とユニセフの報告によれば児童養護施設に措置される子どもは増加し、その数は脱施設化プロセス開始前より多いという。FICEでは施設養育と里親養育を対立モデルではなく、補完し合うものとしてとらえている[35]。複雑な問題や行動上の問題を抱えた年齢の高い子どもは、里親での家庭における親密な関係を形成する準備ができていないケースもあり、またグループホームの方がケアの質を保てるなど、治療的入所型ケア等が適している場合もある[36]

アメリカオハイオ州では通常ペットが里親家庭を移ることに使う「リホーミング(rehoming)」という用語が人の子どもにも使われ、アンダーグラウンドなネットワークで子供が合法にやり取りされていると報じられている[37]。質問項目には、子どもの性別・年齢・人種に対する問いがあるマッチングサイトもニューヨークにあり、不妊治療中に同時並行で養子も探すことがある[34]

イギリスの委託後の里親研修であり、子どもの問題行動に里親が適切に対応するために開発されたフォスタリングチェンジ・プログラムの導入が国内でも図られている[38]
その他

日本においても、知識、経験を有する等、児童を適切に養育できると認められる者については、必ずしも配偶者がいなくても里親になれるが、東京都では児童養育の経験があること、又は保健師、看護師、保育士等の資格を有していることなどの全ての項目を満たさなくてはならない
[39]


里親の身分を公的に証明するための「里親登録証」を兵庫県など4県が導入している[40]


養子縁組里親の場合はその間は養親が育休を取ることができないため、取れるようにするよう厚労省の研究会が提言をしている[41]


里親は同性カップルであっても認定される。大阪市などへの取材で大阪市が30代と40代(当時)の男性カップルを2016年12月22日付で里親認定したことが明らかにされたが、これは全国で初めて同性カップルが里親として認められた例である[42]。2020年2月には愛知県でも男性カップルが里親認定されている[43]


委託児童への傷害事例の調査が行われており[18][19]、厚労省の「被措置児童等虐待届出等制度の実施状況」によれば、養育者による虐待の割合は里親の元の方が、児童養護施設の元より高いとされる[25]


委託費用として、養育里親の場合は月に86,000円(2人目以降43,000円加算)、専門里親 137,000円(2人目以降94,000円加算)が支給される。ほかに一般生活費として乳児 58,310円、乳児以外 50,570円が支給され、また必要に応じて幼稚園費、入進学支度金、医療費等も加算される[44]。児童は所得税法上の扶養親族とみなされるため、扶養控除の対象となる[45]。里親手当は令和2年度より養育里親は1人目が9万円へ、2人目以降も9万円へと倍増となる。このため、制度上の上限である4人の子どもを受け入れた際の里親手当は最大で36万円となる。また専門里親は、1人目が14万1000円へ増額し、2人目以降は14万1000円に拡充する[46]


経済的な面からも施設偏重よりも里親制度の方が合理的であるとされる。例えば0歳から18歳まで大都市の乳児院及び児童養護施設で育つ場合、1人当たり8,373万2,000円の経費がかかるものの、里親宅で生活するならば3,200?3,800万円との試算がある[47]。ちなみに施設別の社会的養護の費用比較では、東京都では2015年現在、次のとおりとなっている[注釈 1][48]

東京都における養育の種類別予算等(平成27年度)養育の種類予算額予算規模児童一人当たりの予算額
民間(=社福)児童養護施設(社会的養護の必要な児童を養育する施設)111億313万円2,803人396万1千円(民間グループホームの一部経費を含む。予算規模には、民間グループホームを含む。)
民間(=社福)グループホーム(地域の中で家庭的な雰囲気の下、6人程度の児童を養育する小規模施設)22億4千338万3千円852人263万3千円(民間児童養護施設に含まれるものは除く。)
乳児院(社会的養護の必要な乳幼児を養育する施設)34億5千609万7千円507人681万7千円
ファミリーホーム(養育者の自宅で5~6人の児童を養育する事業)3億5千53万1千円123人285万円


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