遺伝子
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生物学において、遺伝子(いでんし、: gene、ギリシア語: γ?νο?)という言葉には2つの意味がある。メンデル遺伝子は、遺伝の基本単位である。分子遺伝子は、DNA内のヌクレオチド配列であり、転写されて機能的なRNAを生成する。この分子遺伝子にはタンパク質コード遺伝子と非コード遺伝子の2種類がある[1][2][3][4]

遺伝子が発現するとき、まずDNAがRNAに転写される。RNAには直接機能するものもあれば、タンパク質合成の中間鋳型となるものもある。

生物の子孫(英語版)へ遺伝子を伝達することは、ある世代から次の世代へ表現型形質を継承する基礎をなす。これらの遺伝子は、特定の集団からなる遺伝子供給源で、個体ごとに特異的な遺伝型と呼ばれるDNA配列を構成する。遺伝型は、環境因子や発達因子とともに、最終的には個体の表現型を決定する。ほとんどの生物学的な形質は、多遺伝子(異なる遺伝子の集合)と遺伝子-環境相互作用(英語版)が関わる複合的な影響下で発生する。遺伝形質には、花の色や背の高さのようにすぐに分かるものもあれば、血液型や特定の病気のリスク、あるいは生命を構成する何千もの基本的な生化学的過程など、そうでないものもある。

遺伝子はその配列内に変異を獲得し、集団の中でアレルと呼ばれる多様体(変異体)をもたらすことがある。これらのアレルは遺伝子のわずかに異なる改版をコード(符号化)しており、異なる表現型形質を引き起こす可能性がある[5]。遺伝子は自然選択適者生存とアレルによる遺伝的浮動によって進化する。

遺伝子という用語は、1909年にデンマークの植物学者、植物生理学者、遺伝学者であるウィルヘルム・ヨハンセンによって導入された[6]。これは、子孫や生殖を意味する古代ギリシャ語の γ?νο?(genos)に由来する[7][8]
定義「古典遺伝学」、「遺伝学(英語版)」、および「遺伝子中心の進化観(英語版)」も参照

一口に「遺伝子」といっても、遺伝、選択、生物学的機能、あるいは分子構造など、さまざまな側面に基づいて、さまざまな用途で使われているが、これらの定義のほとんどはメンデル遺伝子または分子遺伝子の2つに区分される[1][9][10][11][12]

メンデル遺伝子(: Mendelian gene)は遺伝学の古典的な遺伝子であり、あらゆる遺伝性の形質を指す。これはドーキンスの著書『利己的な遺伝子』に記述された遺伝子である[13]

一方、分子遺伝子(: molecular gene)の定義は、生化学、分子生物学、そして遺伝学の大部分にわたって、より一般的に使用されており、DNA配列の観点から説明される遺伝子である[1]。この遺伝子にはさまざまな定義があり、その中には誤解を招くものや不正確なものもある[9][14]

分子遺伝学となったこの分野のごく初期の研究は、1つの遺伝子が1つのタンパク質を作るという概念を示唆した(もとは「一遺伝子一酵素説」)[15][16]。しかし、1950年代にはリプレッサーRNAを産生する遺伝子が提案され[17]、1960年代の教科書では既に、タンパク質をコードする遺伝子だけでなく、リボソームRNAやtRNAのような機能的RNA分子(非コード遺伝子)を含めた分子遺伝子の定義が用いられるようになった[18]

「2種類の遺伝子」というこの考え方は、今でもほとんどの教科書で遺伝子の定義の一部となっている。たとえば次のように説明されている。

『ゲノムの主な機能はRNA分子を作り出すことである。DNAヌクレオチド配列の選択された部分が、対応するRNAヌクレオチド配列に複写され、タンパク質をコードするか(mRNAの場合)、あるいはトランスファーRNA(tRNA)やリボソームRNA(rRNA)分子のような「構造的RNA」を形成する。DNAらせんの各領域が、機能的なRNA分子を生成する遺伝子を構成している。』[19]

『遺伝子を「転写されるDNA配列と定義する。この定義には、タンパク質をコードしない遺伝子も含まれる(すべての転写産物がメッセンジャーRNAというわけではない)。この定義では通常、転写を制御してもそれ自体は転写されないゲノムの領域は除外される。この遺伝子の定義に対していくつかの例外が見つかるが、驚くことに、完全に満足のゆく定義は存在しない。』[20]

『遺伝子とは、拡散性の産物をコードするDNA配列である。この産物はタンパク質であったり(大半の遺伝子が該当)、RNAである場合もある(tRNAやrRNAをコードする遺伝子が該当)。重要な特徴は、その産物が合成部位から拡散して、別の場所で作用することである。』[21]

このような定義で重要な部分は(1)遺伝子は転写単位に対応すること、(2)遺伝子はmRNAと非コードRNAの両方を生成すること、(3)調節配列(英語版)は遺伝子発現を制御するが、遺伝子自体の一部ではないことである。しかし、この定義にはもう一つ重要な部分があり、Kostas Kampourakisの著書「Making Sense of Genes」で強調されている。

『したがって、本書では遺伝子を、タンパク質であれRNA分子であれ、機能的産物の情報をコードするDNA配列として考える。「情報をコードする」とは、DNAの塩基配列が、ある機能を果たすRNA分子やタンパク質を生成するための鋳型として使われるという意味である。』[9]

機能性を強調することが重要なのは、DNAの中には機能的でない転写産物を生成する領域が存在し、それらは遺伝子と見なされないからである。これらには、転写された偽遺伝子のように明白な例だけでなく、転写エラーによってノイズとして生成されるジャンクRNAのような、あまり明白でない例も含まれる。この定義に従うと、真の遺伝子と見なされるためには、その転写物が生物学的機能を持つことが示されなくてはならない[9]

典型的な遺伝子のサイズに関する初期の推測は、高解像度の遺伝子マッピングとタンパク質やRNA分子のサイズに基づいていた。1965年当時は、1500塩基対という長さが妥当だと考えられた[18]。この数字は、遺伝子は機能性産物の生成に直接関与するDNAであるという考えに基づいていた。1970年代のイントロンの発見は、多くの真核生物の遺伝子が、機能性産物のサイズから推定されるよりもはるかに大きいことを意味した。たとえば、典型的な哺乳類のタンパク質をコードする遺伝子は、長さ(転写領域)が約62,000塩基対で、その数は約20,000個であるため、哺乳類ゲノム(ヒトゲノムを含む)の約35-40%を占める[22][23][24]

タンパク質コード遺伝子も、非コード遺伝子も、50年以上前から知られているにもかかわらず、遺伝子をタンパク質を特定するDNA配列として定義している教科書、ウェブサイト、科学出版物がいまだに数多く存在している。言い換えれば、その定義はタンパク質コード遺伝子に限定されたものである。次の引用は、アメリカン・サイエンティスト 誌の最近の記事からの一例である。

... de novo遺伝子の潜在的な重要性を真に評価するために、我々はほぼすべての専門家が同意できる「遺伝子」という言葉の厳密な定義に頼った。まず、ヌクレオチド配列が真の遺伝子とみなされるには、オープンリーディングフレーム(ORF)が存在しなければならない。ORFは「遺伝子そのもの」と考えることができる。ORFは、すべての遺伝子に共通する開始マーカーで始まり、3種類ある終了マーカーのうちの1つで終わる。この過程における重要な酵素の一つであるRNAポリメラーゼは、モノレールの列車のようにDNA鎖に沿って走行し、DNAをメッセンジャーRNAの形式に転写する。この点が2つ目の重要な基準である。真の遺伝子とは、転写と翻訳の両方が行われるものをいう。つまり、真の遺伝子は、まず一時的なメッセンジャーRNAを作るための鋳型として使われ、次にそれがタンパク質に翻訳されるものである[25]

この限定された定義は一般的であり、そのためこの「標準的な定義」を批判し、非コード遺伝子を含む新しい拡張された定義を求める多くの最近の論文が発表されるほどであった[26][27][28]。@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}しかし、このいわゆる「新しい」定義は半世紀以上も前から存在するものであり、なぜ現代の著者が非コード遺伝子を無視しているのか明確に説明されていない。[独自研究?]

一部の定義は他の定義よりも広範に適用できるかもしれないが、生物学の基本的な複雑さは、遺伝子の定義がすべての側面を完璧に捉えることができないことを意味する。


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