遺伝子組み換え作物
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このような事態を避けるための方策として、複数の除草剤に対して耐性を持つ作物と複数の除草剤の混用、異なる除草剤とその除草剤耐性作物の複数の組み合わせを用いた定期的な輪作などが推奨されている[11]

除草剤を含めた薬剤に対する耐性化機構として次のものが挙げられる。

薬剤とその標的との親和性の低下

標的の過剰発現

薬剤の分解・修飾による無毒化

薬剤の移行・吸収の阻害

薬剤が阻害しない別経路の誘導

もともとは活性を持たない薬剤を活性を有する物質に変換する経路の抑制

除草剤に対しても、これらの機構を単独もしくは複数組み合わせて植物を耐性化している。

以下に除草剤の種類ごとの耐性作物について説明する。
ラウンドアップ耐性作物詳細は「ラウンドアップ」を参照
ビアラホス耐性作物

ビアラホス (bialaphos)[注釈 1]放線菌 Streptomyces hygroscopicus, S. viridochromogenes などが生産する抗生物質であり、窒素代謝においてアンモニウムイオンの同化に関与するグルタミン合成酵素の阻害剤として作用する[注釈 2]。グルタミン合成酵素が阻害されると毒性の高いアンモニウムイオンが植物体内に蓄積して、植物体を枯死させると考えられている。

ビアラホス生産菌は、ビアラホスが自身のグルタミン合成酵素を阻害する事態に対処するため、ビアラホスを無毒化する酵素ホスフィノスリシン N-アセチル基転移酵素(英語版)[注釈 3]の遺伝子 bar を持っている。そこで bar を植物内で発現できるように改変して導入することでビアラホス耐性作物を開発した(薬剤の分解・修飾による無毒化)。
ブロモキシニル耐性作物

ブロモキシニル[注釈 4]やアイオキシニル[注釈 5]はオキシニル (oxynil) 系除草剤であり、光合成系の電子伝達系を阻害することで除草活性を示す。肺炎桿菌クレブシエラ・ニューモニエKlebsiella pneumoniae subsp. ozaenae由来のブロモキシニル・ニトリラーゼ[注釈 6]は、ブロモキシニルを3,5-ジブロモ 4-ヒドロキシ安息香酸 ( ⇒3,5-dibromo 4-hydroxybenzoate) とアンモニアに、アイオキシニルを3,5-ジヨード 4-ヒドロキシ安息香酸 (3,5-diiodo 4-hydroxybenzoate) とアンモニアに加水分解できる。そこで、このニトリラーゼの遺伝子oxyを植物に導入してブロモキシニル耐性にしている(薬剤の分解・修飾による無毒化)。バイエルクロップサイエンス株式会社の西洋ナタネ・カノーラ OXY-23については、「除草剤ブロモキシニル耐性セイヨウナタネ (oxy, Brassica napus L.) (OXY-235, OECD UI: ACS-BNO11-5) の生物多様性影響評価書の概要[12]」などで公表されている。
スルホニルウレア系除草剤耐性作物

スルホニルウレア (sulfonylurea) 系除草剤(SU剤)には多数の薬剤が登録されている。SU剤は後述の「ALS遺伝子の特異的置換」の小節で述べているbispyribacと同様にALS/AHAS[注釈 7]の阻害剤で分岐鎖アミノ酸[注釈 8]の生合成系を阻害する。ALS/AHASのSU剤に対する感受性の低下した耐性変異が知られており、耐性型のALS遺伝子を導入して発現させることによりSU剤耐性作物が分子育種されている(薬剤とその標的との親和性の低下による耐性化)。そのほか、ヒト肝臓で発現しているシトクロムP450 (cytochrome P450) の分子種のうち、CYP2C9やCYP2C19をイネで発現させてSU剤であるクロルスルフロン[注釈 9]とイマゾスルフロン (imazosulfuron) に対してそれぞれ耐性化させた例もある[13]。ヒトの肝臓でクロルスルフロンがCYP2C9によって、イマゾスルフロンがCYP2C19によってそれぞれ水酸化されて代謝されるという知見から応用されたものである(薬剤の分解・修飾による無毒化)。
イミダゾリノン系除草剤耐性作物

イミダゾリノン (imidazolinone) 系除草剤はスルホニルウレア系除草剤と同様にALSを阻害する。そこで、イミダゾリノン系除草剤に対して感受性の低下したALSの遺伝子を導入して耐性作物を育種した(薬剤とその標的との親和性の低下による耐性化)。その例として、BASFアグロ株式会社のイミダゾリノン系除草剤耐性ダイズがあり、「イミダゾリノン系除草剤耐性ダイズ(改変csr1-2, Glycine max (L.) Merr.)(CV127, OECD UI: BPS-CV127-9) 申請書等の概要[14]」などで公表されている。
2,4-D耐性作物

2,4-D[注釈 10]植物ホルモンオーキシン様の生理活性を示し、高濃度では植物を枯死させる作用を持つ。2,4-Dを2,4-ジクロロフェノール[注釈 11]へ変換する酵素2,4-D モノオキシゲナーゼ[注釈 12]タンパク質名: TfdA)を利用して2,4-D耐性のタバコワタなどの作物が作られた[15](薬剤の分解・修飾による無毒化)。TfdAはグラム陰性細菌Alcaligenes eutrophusのプラスミドpJP5上の遺伝子tfdA由来のものである。なお、グラム陰性桿菌Sphingobium herbicidovoransの同様の酵素の遺伝子aad-1が改変されて導入された2,4-D耐性トウモロコシは、ダウ・ケミカルにより開発されている。


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