遺伝子組み換え作物
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SAM加水分解酵素[注釈 28]遺伝子の導入によって達成された。Agritope Inc.の開発したトマト品種35 1 N[58]やメロン品種AとB[59]の例がある。

エチレン生合成が抑制されたトマト果実は出荷前に倉庫でエチレン処理をすると正常に熟しはじめる。エチレンによる果実の追熟は多くの果実で取り入れられている。たとえばバナナマンゴーなどの熱帯輸入果実は、害虫移入防止のため未熟果実を輸入しエチレンによって追熟されている[注釈 29]。エチレン合成抑制による収穫適期拡大手法ではそのための設備を利用できる。
マイコトキシン分解酵素生産作物

植物体の傷口より進入した糸状菌の生産するマイコトキシンは食料や飼料の安全性を脅かす大問題である。Bt toxin生産作物では害虫による食害が減るために、マイコトキシン含量が減っている。それよりも生産されたマイコトキシンを分解する酵素を作物に生産させて、積極的にマイコトキシン含量を低減させる試みがある。

その一つが、マイコトキシンであるフモニシン分解酵素をトウモロコシに生産させてフモニシン含量を低減させようというものである。黒色酵母Exophiala spiniferaのフモニシン分解系の酵素はすでに解析されている[60]。そこで、これらの酵素をトウモロコシで生産させようというものである[61]

次に、ゼアラレノン[62](Zearalenone) 分解酵素遺伝子の導入である。糸状菌Clonostachys roseaよりラクトン環解裂酵素遺伝子zhd101をトウモロコシに導入したところ、ゼアラレノンをほとんど分解してしまったという結果が得られた[63]
雄性不稔形質作物
概説

収量の増加、病虫害抵抗などの雑種強勢を目的に多くのF1(first filial generation:雑種第一代)作物が作られている。自家受粉可能な作物の固定された品種では多くの遺伝子座においてホモ接合状態になっているため、異なる品種をかけ合わせた雑種第一世代であるF1状態になれば多くの遺伝子座においてヘテロ接合状態になって雑種強勢の効果による収量の増加や品質の向上が期待される。F1種子を得ることはトウモロコシの様に雄花雌花が別れている作物では比較的容易ではあるが、人手がかかる。さらに、自家受粉する作物に他家受粉させて安定的に均一なF1種子を得ることは困難である。そのため、花粉を形成しない、花粉に稔性がないという雄性不稔系統があればF1種子が得やすくなる。現在では、さまざまな作物で雄性不稔系統を用いてF1品種が開発されているが、それでも利用できる作物が限定されている。そこで、遺伝子組換え技術が雄性不稔系統の開発に応用されている。
組織特異的な除草剤感受性を利用した雄性不稔

花粉の成熟に関与しているタペート細胞では発現しないようなプロモーターを利用した除草剤耐性作物を用いた雄性不稔の付与である。公開されている「除草剤グリホサート誘発性雄性不稔及び除草剤グリホサート耐性トウモロコシ(改変 cp4 epsps, Zea mays subsp. mays (L.) Iltis)(MON87427, OECD UI: MON-87427-7) 申請書等の概要[64]」を例とする。

除草剤グリホサート(ラウンドアップ)耐性化遺伝子(ラウンドアップの項を参照)をタペート細胞および小胞子においては発現しないかあるいは発現しても微量であるが、栄養組織および雌性生殖組織においてはグリホサート耐性を付与するのに十分な量を発現できるようなプロモーターに連結する。それが導入されたトウモロコシをグリホサート非存在下で自家受粉させ、導入遺伝子をホモ接合で持つ品種(BB)を種子親として育種する。一方、種子親とは別系統の品種で、全組織で耐性を示すような別のプロモーターで制御されているグリホサート耐性化遺伝子をホモ接合で持つ品種(AA)を花粉親とする。種子親と花粉親を隣接して栽培し、雄花が分化する8葉期頃および10葉期頃にグリホサートを散布して、種子親(BB)の花粉を不稔にする。タペート細胞でも耐性である花粉親(AA)の花粉は稔性があるため、種子親の雌花に受粉する。種子親のみから種子を採種すればそれはヘテロ接合(AB)のF1種子となる。F1植物体はAのゲノムも持つため、植物全組織はグリホサート耐性を示す。
葯特異的発現をするDNAメチル化酵素を利用した雄性不稔

プロモーターエンハンサーのDNAがメチル化されることによりトランス転写因子がそれらを認識できなくなり、その結果、細胞の分化や生育に影響を与え死滅させることがある。そこで大腸菌の遺伝子damにコードされているDNA中のアデニン残基をメチル化する酵素[注釈 30]を、トウモロコシの特異的に発現する遺伝子512delのプロモーターを用いてトウモロコシ中で生産させると葯や花粉を形成できず雄性不稔となった。Pioneer Hi-Bred International Inc.の開発したトウモロコシ 676、678、680の例がある[65]
BARNASEを用いた雄性不稔形質の付与とBARSTARを用いた雄性不稔からの回復

遺伝子組換え技術により花粉が成熟できなくなるような人為的な雄性不稔系統と雄性不稔からの稔性回復系統が作られた。その実現には次の四つのものが重要な役割を果たす。

に存在する、花粉の成熟に関与しているタペート細胞において特異的に発現しているタバコ (Nicotiana tabacum) 由来の遺伝子TA29( ⇒配列)のプロモーター

グラム陽性細菌Bacillus amyloliquefaciens由来のRNase(リボヌクレアーゼ)であるBARNASEの遺伝子barnase( ⇒配列

BARNASEと特異的に結合して阻害する、同じくB. amyloliquefaciens由来のタンパク質であるBARSTARの遺伝子barstar( ⇒配列


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