遺伝子組み換え作物
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

FATBとは、パルミトイル-ACP チオエステラーゼ(palmitoyl-ACP thioesterase, EC 3.1.2.14[注釈 47], ACP: acyl carrier protein、アシル輸送タンパク質)であり、炭素鎖14-18の飽和脂肪酸残基を持つアシル-ACPを加水分解でき、その中でも主にパルミトイル-ACP (16:0-ACP)を加水分解する。一方、FATAはオレオイル-ACPを加水分解する[注釈 48]。FATBが抑制され、FATA活性が十分ある場合、飽和脂肪酸残基が減少し、不飽和脂肪酸残基が増加する。更に、多価不飽和脂肪酸残基への変換を触媒するFAD2が抑制されていれば、一価不飽和脂肪酸残基であるオレイン酸残基の含量は増加する。このような形質を持つモンサント社のMON87705系統に関しては、「低飽和脂肪酸・高オレイン酸及び除草剤グリホサート耐性ダイズ(GmFAD2-1A, GmFATB1A, 改変cp4 epsps, Glycine max (L.) Merr.)(MON87705, OECD UI: MON-877O5-6)申請書等の概要[96]」により、公表されている。
ステアリドン酸含有遺伝子組換えダイズ

エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid(20:5): EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid(22:6): DHA) などの長鎖ω-3脂肪酸は、心臓発作のリスクを軽減することが知られている。これらの脂肪酸の前駆体であるステアリドン酸(stearidonic acid(18:4): SDA)の残基を含むダイズを育種した。ダイズにはSDAが含まれない。これは、炭素鎖18個の脂肪酸カルボキシル基から数えて6番目と7番目の炭素の間を二重結合を導入するω12-desaturase[注釈 49]がダイズにないためである。そこでサクラソウの一種であるPrimula juliaeからω12-desaturaseに対応するコーディング領域が導入された。

また、ダイズのリノール酸残基からα-リノレン酸残基へ変換するω3-desaturase(Δ15-desaturase: FAD3)の活性を高めるために、アカパンカビ(Neurospora crassa)のΔ15-desaturaseの遺伝子も導入されている。その結果、リノール酸のCoAチオエステルであるリノレオイル-CoA (linoleoyl-CoA[97])からω12-desaturaseによってγ-リノレン酸のCoAチオエステルであるγ-リノレノイル-CoA (γ-linolenoyl-CoA[98])[注釈 50]に、γ-リノレノイル-CoAからω3-desaturaseによってステアリドノイル-CoA(stearidonoyl-CoA[99])へと変換される。もしくは、リノレオイル-CoAからω3-desaturaseによってα-リノレン酸のCoAチオエステルであるα-リノレノイル-CoA (α-linolenoyl-CoA[100])へ、α-リノレノイルCoAからω12-desaturaseによってステアリドノイル-CoA[注釈 51]へと変換される。

ステアリドン酸含有遺伝子組換えダイズに関してはモンサント社のMON87769が、「ステアリドン酸産生及び除草剤グリホサート耐性ダイズ(改変Pj.D6D, 改変Nc.Fad3, 改変cp4 epsps, Glycine max (L.) Merr.)(MON87769×MON89788, OECD UI:MON-87769-7×MON-89788-1)申請書等の概要[101]」で公表されている。
リシン高含有トウモロコシ

L-リシン (L-lysine) は必須アミノ酸の一種である。しかし、イネ科の植物の貯蔵タンパク質ではその含有量が低いため、飼料として使う際にはリシンを添加している。このコストを低減するために、リシンを多く含むトウモロコシであるモンサントLY038が開発された。

現在、市販されているリシンは、微生物[注釈 52]を用いたアミノ酸発酵によって工業生産されているものである。各アミノ酸生合成系では、それぞれのアミノ酸濃度が低下すると生合成が促進されるとともに、必要以上にアミノ酸濃度が上昇すると生合成が抑制されるようにフィードバック制御されている。微生物によるアミノ酸発酵においてはそのアミノ酸の生合成系の鍵酵素のフィードバック阻害が解除されたものを利用することが多い。あるアミノ酸の生合成系のフィードバック阻害解除株はそのアミノ酸のアナログに対する耐性株(アナログ耐性株)として得られる。リシン生合成の場合、フィードバック阻害は、リシン生合成系の酵素群の1つで鍵酵素でもあるジヒドロジピコリン酸合成酵素[注釈 53](DHDPS)の酵素活性の低下で生じる。最終産物であるリシンがネガティブ・エフェクターとしてアロステリック酵素であるDHDPSに作用する。

そこで、リシン・アナログ耐性のCorynebacterium glutamicumのDHDPS(リシンによるフィードバック阻害が解除されている変異型)をコードしている遺伝子cordapAが利用された。更に、植物の細胞質中で合成されたC. glutamicumの変異型DHDPSが植物のリシン生合成の場であるプラスチドへ移行できるように、トウモロコシのDHDPSの遺伝子mDHDPSのプラスチドへの移行配列(transit peptide)部分の塩基配列が、C. glutamicumのDHDPS遺伝子(cordapA)と連結された融合遺伝子がつくられた。それにトウモロコシの胚乳の貯蔵タンパク質であるグロブリン(globlin 1)の遺伝子のプロモーターと連結されたものがトウモロコシに導入された。導入されたC. glutamicumの変異型DHDPSはフィードバック阻害が解除されているため植物でもリシン生合成がフィードバック阻害されず、また、胚乳中で発現するグロブリン遺伝子のプロモーターによってトウモロコシ種子中のリシン含有量が増加した。モンサントLY038の「生物多様性影響評価書の概要[102]」、「高リシン(lysine)トウモロコシ(cordapA, Zea mays subsp. mays (L.) Iltis)(LY038, OECD UI: REN-OOO38-3)の生物多様性影響評価書の概要[103]」は、公開されている。形質転換における選択系・選択マーカー遺伝子の除去系として、後述の「選択マーカー遺伝子の除去系」のうちの「Cre-loxP system」が用いられている。
プロビタミンA強化作物


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:469 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef