遺伝子組み換え作物
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そのため、その特定のウイルス以外の被害が大きい地域では、生産者はウイルス抵抗性品種を採用する必要性を感じないと考えられる[31]

特にウイルス抵抗性作物の成功例としては、papaya ringspot virus(PRSV, パパイヤ・リングスポット・ウイルス)によってほぼ壊滅したハワイパパイヤ栽培が遺伝子組換えパパイヤ品種(Rainbow:レインボー)によって復活できた事例が挙げられる。これについては後述する。なお、2011年2月以降に報道された、沖縄におけるレインボーとは異なる未承認遺伝子組換えパパイヤが栽培されていた事例についても記す。植物ウイルス耐性を与える手法としてはさまざまな機構が用いられているが、その手法は少なくとも4種類挙げられる。
decoatingの阻害
植物ウイルスが植物細胞内に侵入してゲノムを複製させたり、ゲノムにコードされているタンパク質を生産させたりするためには外皮タンパク質 (coat protein) を脱ぐこと(decoating、脱殻)が必要である。もし、侵入した細胞内で外皮タンパク質が大量に存在している場合、decoating してもウイルスのゲノムがすぐに外皮タンパク質に覆われて (recoating)、植物ウイルスのゲノムはゲノムの複製やタンパク質の翻訳に必要な酵素やリボソームと接触できず、ゲノムの複製や翻訳が阻害される。そこで植物細胞に植物ウイルスの外皮タンパク質の遺伝子を導入し、細胞中で外皮タンパク質を大量に生産させてdecoatingを阻害する手法が用いられている。
PTGS (post-transcriptional gene silencing) という機構の利用
多くの植物ウイルスのゲノムはRNAであり、その生活環の中で二本鎖RNAの形成が生じる。そのウイルスのRNAと相同性や相補性のあるRNAが発現されるように改変された形質転換植物は、対応するウイルスに対して、PTGSと同様の機構により、dicersiRNA (short interfering RNA) やRISC (RNA-induced silencing complex)などを通じてウイルスの二本鎖RNAの分解が行えるようになり、植物ウイルスに抵抗性になる。これはRNAiの一例といえる。
植物ウイルスのゲノムの複製に必要なreplicaseの変異型遺伝子の導入による耐性化の利用

植物由来のウイルス抵抗性遺伝子 (R gene) の導入および発現強化

レインボー・パパイヤ

ハワイのパパイヤ・リングスポット・ウイルス(PRSV)抵抗性のパパイヤはレインボー・パパイヤ[32]としてすでにアメリカやカナダや日本などで市販されている。東南アジアにおいてもPRSVの別の株に耐性を示すパパイヤが開発されている。レインボー・パパイヤに関しては、「パパイヤリングスポットウイルス抵抗性パパイヤ(改変PRSV CP, uidA, nptII, Carica papaya L.)(55-1, OECD UI: CUH-CP551-8) 申請書等の概要[33]」で公表されている。外皮タンパク質を大量にパパイヤ中で生産させることによってPRSV抵抗性が現れることが期待されたが、実際にはRNAiによってPRSV抵抗性が現れた。赤肉種のパパイヤ・サンセット (Sunset) に外皮タンパク質遺伝子が導入され、その自殖後代で外皮タンパク質の遺伝子をホモ接合で持つ赤肉種のPRSV抵抗性のサンアップ (SunUp) が選択された。サンアップと非形質転換体でPRSV感受性の黄肉種のカポホ (Kapoho) を交雑させたF1品種がレインボーである。レインボー・パパイヤの一種使用が日本でも2011年(平成23年)8月31日に認可され、同年12月1日より市販された。これは、未加工の生の遺伝子組換え植物体をそのまま食用とする日本における初めての例となった。レインボー・パパイヤの果実中の種子からは、メンデルの法則に基づきウイルス抵抗性と感受性の苗が3:1で得られる。ただし、レインボー・パパイヤはF1品種であるため、発芽した苗はF2世代であり、さまざまな形質を持つ雑多な集団になる。
沖縄における未承認のウイルス抵抗性遺伝子組換えパパイヤ栽培・市販事例

レインボーとは異なる未承認のウイルス抵抗性遺伝子組換えパパイヤが沖縄において市販および栽培されていたことが、2011年2月と4月に公表された[34][35][36]。それらによると、市販・栽培されていたものは台湾で開発されたPRSV抵抗性の品種であり、台農5号として販売されていた。台農5号は本来、遺伝子組換え体ではない通常の品種として、交雑育種により1987年に開発されたものである。それにレインボーと同じ機構によるウイルス抵抗性が台湾で導入されたものが、台湾の種苗会社から輸入された種子に混入していたことが未承認の組換えパパイヤの栽培・市販事例の原因と考えられている。この組換え品種はカルタヘナ法に基づく承認を受けていないため、カルタヘナ法と食品衛生法に基づいて市販や栽培は規制され、販売されていた種苗や果実は回収・破棄され、台農5号の疑いのある植物体は抜き取りや伐採された。厚生労働省によると、この遺伝子組換えパパイヤの摂食による危害につながるような情報は今のところ確認されていない[37]。更に、環境省農林水産省の共同見解ではこの未承認の遺伝子組換えパパイヤによる生物多様性への影響は低いとされている[38]
ウイルス抵抗性品種のほかの病害虫被害

ウイルス抵抗性品種はウイルスによる被害は少なくなるが、害虫による食害や害虫によって媒介される細菌性の病害を受けやすくなるという報告がある[39]。これはカボチャの仲間であるスクアッシュ (squash) をウイルス耐性にするとウイルスが広がった場合、当然のことながらウイルス抵抗性品種の方が生産性が高いが、害虫であるキューカンバー・ビートル (cucumber beetle) が健全な植物体であるウイルス抵抗性品種を好んで食害するため、キューカンバー・ビートルが媒介するErwinia属細菌などの病害が増すというものである。
ディフェンシン生産イネ

ディフェンシンとは、約80個のアミノ酸残基から構成されシステイン残基に富む構造を特徴とする抗菌ペプチドの総称である。さまざまなアブラナ科植物の種や葉がディフェンシンを含むが、これはカイコカブトムシウサギヒトなどがもつディフェンシンとは構造・活性範囲および活性強度が異なる。

イネにはアブラナ科植物のディフェンシンと配列類似性の高いものは存在しない。そこで、アブラナ科植物のさまざまなディフェンシンをイネで生産させて、イネの重大な病害であるいもち病や白葉枯病に抵抗性を付与する研究が進められてきた。ディフェンシン遺伝子はイネの緑葉組織特異的発現をするプロモーターと連結されて、イネ(母本品種:どんとこい[40])に導入されている[41]


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