遺伝子組み換え作物
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そのような状況下に、根においてBt toxinを生産する組換えトウモロコシ品種が上市され、連作可能となった[21]
Btスイートコーン品種

トウモロコシの栽培面積は、圧倒的にデントコーン品種が多くを占めているため、トウモロコシの組換え品種の大部分はデントコーンのものである。組換えスイートコーン品種は遺伝子組換えトウモロコシ品種開発の初期から少数ではあるが存在していた[注釈 22]が、近年、相次いで複数の組換えスイートコーン品種が上市されている。スイートコーンは、茹でトウモロコシや焼きトウモロコシや缶詰として利用されるため、害虫の食害痕があると大きく商品価値を下げる。そのため、加工されることが多いデントコーンの場合、収量が重要であるが、スイートコーンの場合、収量よりも食害痕がなく商品となるかどうかの商品化率の方が大きな意味を持ち、栽培には殺虫剤が重要な役割を果たしている。アメリカにおいてスイートコーンの主要害虫はアメリカタバコガ (Heliocoverpa zea) である。そこで、アメリカタバコガに抵抗性を持つBtスイートコーンとその母本の大規模な栽培試験が行われ、その商品化率が調べられた[22]。その結果、Btスイートコーン品種の商品化率は安定的に高かったが、一方、その母本の商品化率はBt品種に比べ低くその値の変動幅も大きかった。そこで、Btスイートコーン品種の栽培は殺虫剤の使用を大幅に減少させるとともに、大量の殺虫剤使用に伴う職業上や環境上の危険を減少させることになろうと結論づけている。
Bt toxin生産作物の改善すべき点と益虫の増加

作物の主要害虫に対する殺虫活性を持つBt toxinの遺伝子が選択されて導入されている。その結果、主要害虫の被害は低減するため、殺虫剤の散布が減少する。その結果、Bt toxin自体の殺虫スペクトルが狭いため、副次的な害虫が主要害虫に作用するBt toxinに非感受性であれば、増加して主要害虫に代わって新たな被害を与えることがある[23]。また、主要害虫が複数あって、それぞれ別のBt toxin感受性の場合も同様である。そのほか、ある作物の主要害虫を減少させることができたために、農薬散布量が減って副次的な害虫が増加してその作物だけでなく他の作物に被害を与えることがある。これは前述の同じ主要害虫の減少による他の作物に対する被害の減少[20]とは逆に副次的な害虫による他の作物に対する被害の増大である。その例として、中国においてBtワタの導入によって殺虫剤散布が減った結果、殺虫対象外のカスミカメムシ類が増え、ワタ以外の果樹園にも被害をもたらしていることが報告されている[11]。そのための対策として、

新たな害虫に作用する別のBt toxinの遺伝子も導入する。

広範囲の害虫にも作用するBt toxinの遺伝子を導入する。

別の原理の抵抗性遺伝子を導入する。

ことが考えられる。そのため、広範囲の害虫に抵抗性を持たせるためには複数の異なる殺虫スペクトルのBt toxin遺伝子を導入された作物が開発されている。

一方、上記とは逆にBt toxin生産作物の栽培により害虫を食べる益虫が増加し、周辺の非組換え作物にも天敵による害虫コントロールが及ぶ利点を示唆する報告も存在する ⇒[23]。Bt toxin生産作物が害虫と益虫の両者とも殺す殺虫剤処理を必要としないため、Btワタはオオタバコガ (Helicoverpa armigera) などによる被害を予防するだけでなく、この害虫を食べる益虫の数を増やすことを発見した[24]

なお、ほかの殺虫剤と同様にBt toxin抵抗性害虫の発生も報告されている。そこで、Bt toxin 耐性害虫の出現管理対策として、

Bt toxinを高濃度に生産する系統を用いる。

Bt toxin抵抗性害虫はある遺伝子座劣性ホモ接合で出現するため、感受性個体の供給源として、周辺に非Bt品種を栽培する(緩衝帯の設置)。

定期的に害虫を採集して、抵抗性の発達程度をモニタリングする。

ことが推奨されている[25][26][27]
Bt toxin生産作物の自家採種と抵抗性害虫の出現

Bt toxin生産作物で害虫の抵抗性発達を抑える対策の基本は、上記のように高濃度のBt toxinを生産する品種を用い、非Bt toxin生産作物を緩衝区として栽培することであり、さらに複数のBt toxinを生産する品種を用いることも有効とされている。高濃度Bt toxin生産作物においては害虫を幼虫段階で死亡させ、次世代に生き残る個体を大幅に減らせる。しかし、不正増殖種子や自家採種によるBt toxin濃度が不十分な作物の栽培面積が広がるとBt toxin抵抗性害虫の出現を助長することになり、不正増殖種子や組換え作物種子の自家採種が重大な問題となってくる[28]。そのため、栽培農家による正規の種子の購入と害虫出現のモニタリングは重要である。
天敵誘引物質生産作物

殺虫性の線虫の誘因剤の合成酵素遺伝子の導入による害虫防除の例が報告された[29]。植物食の昆虫による食害が起きると、天敵を誘引する揮発性物質を植物は放出することがある。そこで、作物の害虫防除を改良するうえで、これらの揮発性物質の利用が提案されてきた。トウモロコシの重大な害虫であるウェスタンコーンルートワーム (D. virgifera virgifera) の食害は、多くのトウモロコシ品種の根から(E)-β-カリオフィレン ((E)- ⇒β-caryophyllene: EβC) を放出させる。EβCは殺虫性の線虫 (Heterorhabditis megidis) を誘引する。そして、殺虫性の線虫は根を食害する害虫に感染して殺す。しかし、大部分の北米のトウモロコシ品種はEβCの放出能を失っており、そのため線虫による防除をほとんど受けられない。それらのトウモロコシ品種のEβC生産能を回復させるために、オレガノ由来のEβC合成酵素( ⇒(E)-β-caryophyllene synthase, EC 4.2.3.57, ⇒反応)遺伝子を導入されたトウモロコシは、恒常的にEβCを放出できるようになった。その結果、ウェスタンコーンルートワームが発生している圃場に線虫を散布した試験では、EβC放出トウモロコシでは有意に根に対する被害が減少し、非形質転換の非放出系のトウモロコシに比べ60%少ない成虫しか羽化できなかった。
耐病性作物
概説

第一世代組換え作物として耐病性を有するものも作られている。病害抵抗性遺伝子や糸状菌の細胞壁成分であるキチンを加水分解するキチナーゼの遺伝子の導入(多数あるうちの一例[30])によるものであるが、その中でも植物ウイルス耐性のものが特に成功している。


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