遺伝子組み換え作物
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ホモゲンチジン酸はいくつかの段階を経て、光合成やカロテノイド生合成に重要なプラストキノン[注釈 18]トコフェロール類の前駆体である2-メチル-6-フィトキノール[注釈 19]へ変換される。

イソキサゾール系除草剤であるイソキサフルトール (isoxaflutole: 5-cyclopropyl-4- (2-methylsulfonyl-4-trifluoromethylbenzoyl) isoxazole, ⇒CAS No. 141112-29-0) は、その代謝産物2-シアノ-3-シクロプロピル-1-(2-メチルスルホニル-4-トリフルオロメチルフェニル)プロパン-1,3-ジオン[注釈 20](DKN)がHPPDの基質である4-ヒドロキシフェニルピルビン酸と競合してHPPD活性を阻害することにより除草活性を示す。

植物にイソキサフルトール耐性を付与するために、シュードモナス属細菌Pseudomonas protegens Pf-5株のhppd遺伝子から1塩基置換されたものが用いられている。この遺伝子は、1塩基置換によるミスセンス変異によって本来のアミノ酸配列 (GenBank: ⇒AAY92656.1) から1アミノ酸置換されたHPPDをコードしている。この変異型HPPDはDKNによって阻害されにくいためホモゲンチジン酸が合成される(薬剤とその標的との親和性の低下による耐性化)。なお、植物のHPPDはプラスチドに局在しているが、バクテリアであるP. protegenes由来の変異型HPPDはそのままではプラスチドへ移行できない。そこで、変異型HPPDのアミノ末端側にはプラスチドへ移行できるように移行ペプチドが融合されている。なお、P. protegenes Pf-5株はかつてP. fluorescensに分類されていたため、P. fluorescens Pf-5株と記載されている場合がある。バイエルクロップサイエンス社のイソキサフルトール耐性ダイズに関しては、「除草剤グリホサート及びイソキサフルトール耐性ダイズ(2mepsps, 改変hppd, Glycine max (L.) Merr.)(FG72,OECD UI: MST-FG072-3) 申請書等の概要[18]」などで公表されている。
メソトリオン耐性作物

メソトリオン[注釈 21]は、トリケトン系除草剤である。メソトリオンも上記のイソキサフルトールと同様にHPPDの阻害剤である。そこで、エンバク (Avena sativa) 由来のメソトリオンに感受性の低下した変異型のhppd遺伝子の導入により、メソトリオン耐性ダイズが育種された(薬剤とその標的との親和性の低下による耐性化)。シンジェンタ社のメソトリオン耐性ダイズに関しては、「除草剤メソトリオン耐性ダイズ(改変avhppd, Glycine max (L.) Merr.)(SYHT04R, OECD UI: SYN-???4R-8) 申請書等の概要[19]」などで公表されている。
害虫抵抗性作物
概説

害虫に対して毒性を有するタンパク質や害虫の天敵を誘引する物質を生産させることで、害虫の発生を抑える害虫耐性のものも存在する。その機構としては、

グラム陽性桿菌Bacillus thuringiensisの結晶性タンパク質の遺伝子導入

マメ科植物由来のトリプシン阻害剤(タンパク質)の遺伝子導入(摂食したタンパク質を消化・吸収しにくくなる)

インゲン豆由来のα-アミラーゼ阻害剤(タンパク質)の遺伝子導入(摂食したデンプンを消化・吸収しにくくなる)

昆虫の外骨格の成分であるキチン (chitin) を分解するキチナーゼ( ⇒chitinase, EC 3.2.1.14, ⇒反応)の遺伝子導入

殺虫性の線虫(ネマトーダ)の誘因物質の合成遺伝子の導入

が挙げられるが、特にBacillus thuringiensisの結晶性タンパク質 (Bt toxin) 遺伝子導入による害虫抵抗性作物が成功している。
Bt toxin生産作物
概説

Bt toxinのBは属名Bacillusの頭文字に、tは種小名thuringiensisの頭文字に由来する。B. thuringiensisの性質として、

土壌細菌で芽胞を形成するときに結晶性タンパク質(δ-内毒素: δ-endotoxin, Bt toxin)を蓄積する。

結晶性タンパク質が昆虫の腸に達すると部分消化され、殺虫性毒素ペプチドが遊離する。

哺乳類には殺虫性毒素ペプチドと結合する特異的な受容体がないため、毒性を発揮できない。

菌株によって生産する結晶性タンパク質が作用する昆虫の種類が異なる。

というものがある。Bt toxinは哺乳類には毒性を持たないため、Bt toxinを生産する植物を人間が食べても害はない。そこでBt toxinを生産する害虫耐性組換え作物の開発につながった。日本においては市民団体などによって人体への害が喧伝されているが、現時点において人体への有害性は確認されていない。Bt toxinをそのまま植物に生産される場合もあるが、多くの場合、部分消化の際に取り除かれる配列を除去して、殺虫性毒素ペプチドを含む部分を主体とした、もっと小型のタンパク質として植物に生産させている。生産株の違いによりBt toxinにはさまざまな種類がある。その種類により、殺虫スペクトルが異なってくる。そのため、作物に導入されたBt toxin遺伝子の種類により、殺虫活性を示す昆虫が異なる。

Bt生産作物の導入により、

殺虫剤使用量の大幅削減

組織内へ侵入済みの害虫にも作用

害虫以外への殺虫剤による影響の大幅低下

虫害による傷口からの糸状菌感染症が著しく低下し、また収量増加の効用。

その結果としてカビ毒 (mycotoxin) の含量(フモニシン: fumonisin、アフラトキシン: aflatoxinなどの総量)の低下(「害虫抵抗性トウモロコシにおけるカビ毒含有量の低下」の小節参照)

Bt生産作物の殺虫対象害虫の減少に伴う、同じ害虫による他の作物の被害の減少[20]

という結果が得られている。

その他の重要な利点は、ある種の作物の連作を可能にするということである。米国中西部におけるトウモロコシ栽培の例が挙げられる。トウモロコシは肥料をコントロールすれば連作障害の出にくい作物である。しかし、かつては米国中西部のコーンベルトにおいて連作できなかった。その原因は、ウェスタンコーンルートワーム (western corn rootworm: Diabrotica virgifera virgifera LeConte) などの数種類のネクイハムシによる被害であった。


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