遺伝子組み換え作物
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初めて市場に登場した遺伝子組換え作物と言われるのは、アンチセンスRNA法(mRNAと相補的なRNAを作らせることで、標的となるタンパク質の生合成を抑える手法でRNAi法の一種)を用いて、ペクチンを分解する酵素ポリガラクツロナーゼの産生を抑制したトマト "Flavr Savr" である。ほかのトマトと比較して、熟しても果皮果肉が柔らかくなりにくいという特徴を持つ。
分類

遺伝子組換え「植物」として開発されているものは、植物自体の研究に用いられるモデル植物として利用されているものと、産業的に利用されている、もしくは産業的利用を目指して研究されている遺伝子組換え「作物」に分けることができる。さらに、遺伝子組換え作物は、非食用作物、食用作物(遺伝子組換え食品)、飼料用作物などに分類可能である。なお、食用作物と飼料用作物との境界は明確ではないため、食用作物と飼料用作物の双方を遺伝子組換え食品の範疇に含めて説明する。また、食用作物と飼料用作物はエタノール生産や燃料用油生産に利用されることもある。
非食用遺伝子組換え作物

非食用の遺伝子組換え作物としては、園芸作物と林木が主である。園芸作物としては花卉が主体である。たとえば、青い花色のカーネーションムーンダスト」は、一般の消費者に花屋で売られている遺伝子組換え作物である。また、2009年11月に国内で市販が開始された青いバラも遺伝子組換え作物である。そのほか、カロテノイド含量を変化させたり、トレニアアントシアニン生合成系をオーロン生合成系へ変化させて黄色いトレニアの花を作ったりする試み[4]がある。林木の例としては製紙用にリグニンの構造や含量を改変されたポプラヤマナラシユーカリテーダマツラジアータマツが多く、セルロース含量を高めたギンドロ[5]などもある。

なお、食用作物と飼料用作物がエタノール生産や燃料用油生産に利用されることもあるが、バイオエタノールバイオディーゼル用にスイッチグラスやナンヨウアブラギリなどの非食用植物を分子育種する研究も進んでいる。たとえば、スプラウトとして食用とされることもあるアルファルファにおいては、反芻動物飼料用としてタンニン含量を増加させたものが開発されているとともに、リグニン生合成を抑制してリグニン含量を低下させたものが上市されている[6]
遺伝子組換え食品の分類

遺伝子組換え食品の分類としてはさまざまなものがあるが、一例として以下のように分類されることがある。本項目においては、この分類に従って解説する。なお、第三世代に関してはまだ明確ではない。
第一世代
除草剤耐性、病害虫耐性、貯蔵性増大など
第二世代
成分改変食品で消費者の利益が強調されたもの。
第三世代
過酷な環境でも成育できたり、収量が高かったりするような作物か?

日本において第一種使用(食用または飼料用に供するための使用、栽培、加工、保管、運搬および廃棄ならびにこれらに付随する行為)を認められている組換え品種には、たとえば、選択マーカー遺伝子以外に1品種に6種類の害虫抵抗性と2種類の除草剤耐性の計8種類の外来遺伝子が導入されたもの[7]や、1品種に7種類の害虫抵抗性と3種類の除草剤耐性の計10種類の外来遺伝子が導入されたもの[8]、除草剤耐性と改変された脂肪酸残基組成の貯蔵脂質の双方を持つという、世代をまたいでいるといえるもの[9]もある。このように、異なった形質を持つ組換え品種をかけ合わせて、複数の形質 (stacked traits) を導入された組換え品種をスタック(ド)品種 (stacked GM line (variety, cultivar)) ということがある。

なお、前述の通り、まだ第三世代については確たる定説がないため、ストレス耐性作物に関しては「第一世代組換え食品の開発状況」において説明する。
第一世代組換え食品の開発状況
概説

第一世代組換え食品は、作物に除草剤耐性、病害虫耐性、貯蔵性増大などの形質が導入されたものである。これらの特質は、生産者や流通業者にとっての利点となるだけでなく、安価で安全な食品の安定供給につながるという点で消費者にとっても大きなメリットとなる。また、農薬使用量の減少や不耕起栽培の利用可能性などにより環境面での負荷の減少を図れることや、収穫量が多かったり、損耗が少なかったりという性質を持つことは持続的農業を進めていく上でも有用である。

以下に、除草剤耐性作物、害虫抵抗性作物、耐病性作物、保存性を増大させた作物、雄性不稔形質の付与と雄性不稔からの稔性の回復、耐熱性α-アミラーゼ生産トウモロコシ、乾燥耐性トウモロコシなどに関して、それぞれの種類と原理について説明する。
除草剤耐性作物
概説

第一世代組換え作物としては、ラウンドアップやビアラホス (bialaphos) など特定の除草剤に耐性を持つ品種を作成し、その除草剤による雑草防除を利用するような作物も開発されている。これは農作業の効率化だけではなく、土壌流出による環境破壊を防ぐ不耕起栽培を適用できる。ダイズの主要生産地である南北アメリカ諸国では表土流出が大問題となっている。前作の植物残渣を放置できるため、植物残渣がマルチ(マルチング)となって風雨から土壌流出を防ぎ、土壌を耕すことによって土壌が流亡しやすくなることを不耕起栽培によって防ぐことができる[10]。そのほか、有毒雑草の収穫物への混入を減らせるとの主張もある。

単一の除草剤と除草剤耐性作物の組み合わせで長年栽培を続けると、その除草剤に対する耐性雑草が出現する。この現象自体は一般的なものであり、すでに除草剤ラウンドアップに対する耐性雑草の出現が報告されている。このような事態を避けるための方策として、複数の除草剤に対して耐性を持つ作物と複数の除草剤の混用、異なる除草剤とその除草剤耐性作物の複数の組み合わせを用いた定期的な輪作などが推奨されている[11]

除草剤を含めた薬剤に対する耐性化機構として次のものが挙げられる。

薬剤とその標的との親和性の低下

標的の過剰発現

薬剤の分解・修飾による無毒化

薬剤の移行・吸収の阻害

薬剤が阻害しない別経路の誘導

もともとは活性を持たない薬剤を活性を有する物質に変換する経路の抑制

除草剤に対しても、これらの機構を単独もしくは複数組み合わせて植物を耐性化している。

以下に除草剤の種類ごとの耐性作物について説明する。
ラウンドアップ耐性作物詳細は「ラウンドアップ」を参照
ビアラホス耐性作物

ビアラホス (bialaphos)[注釈 1]放線菌 Streptomyces hygroscopicus, S. viridochromogenes などが生産する抗生物質であり、窒素代謝においてアンモニウムイオンの同化に関与するグルタミン合成酵素の阻害剤として作用する[注釈 2]。グルタミン合成酵素が阻害されると毒性の高いアンモニウムイオンが植物体内に蓄積して、植物体を枯死させると考えられている。

ビアラホス生産菌は、ビアラホスが自身のグルタミン合成酵素を阻害する事態に対処するため、ビアラホスを無毒化する酵素ホスフィノスリシン N-アセチル基転移酵素(英語版)[注釈 3]の遺伝子 bar を持っている。そこで bar を植物内で発現できるように改変して導入することでビアラホス耐性作物を開発した(薬剤の分解・修飾による無毒化)。
ブロモキシニル耐性作物

ブロモキシニル[注釈 4]やアイオキシニル[注釈 5]はオキシニル (oxynil) 系除草剤であり、光合成系の電子伝達系を阻害することで除草活性を示す。肺炎桿菌クレブシエラ・ニューモニエKlebsiella pneumoniae subsp. ozaenae由来のブロモキシニル・ニトリラーゼ[注釈 6]は、ブロモキシニルを3,5-ジブロモ 4-ヒドロキシ安息香酸 ( ⇒3,5-dibromo 4-hydroxybenzoate) とアンモニアに、アイオキシニルを3,5-ジヨード 4-ヒドロキシ安息香酸 (3,5-diiodo 4-hydroxybenzoate) とアンモニアに加水分解できる。


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