遺伝子検査
[Wikipedia|▼Menu]
2023年4月現在、191の遺伝疾患の遺伝学的検査が保険適用となっており、例としては、筋強直性ジストロフィーデュシェンヌ型筋ジストロフィーベッカー型筋ジストロフィー球脊髄性筋萎縮症ハンチントン病、先天性難聴、などがあげられる[9][10][11]
発症前遺伝学的検査

医学的介入が臨床的に有用である可能性がある場合に行うのが原則である。未成年者について発症前診断により予防や治療が可能となる場合は、両親等の代諾や、可能なら本人の了解を得るのが原則であり、また、成年期以降に発症する疾患については、原則として、本人が成人し自分で判断できるようになってから実施すべきとされている[1]

発症前遺伝学的検査により予防や治療が可能になりうる疾患の例としては、家族性アミロイドポリニューロパチー(遺伝性トランスサイレチン型アミロイドーシス)脊髄性筋萎縮症(SMA)があげられる[12]

一方、ハンチントン病など、有効な予防法や治療法が確立されていない疾患について発症前遺伝学的検査を行う場合は、検査前後の本人のみならず血縁者への心理的配慮、十分な遺伝カウンセリングなどの支援が必要となる[1][12][13]
遺伝性腫瘍

がんでみられる体細胞遺伝子の変化自体は基本的に子孫に伝わることはないが、がんを発症しやすくする生殖細胞系列の遺伝子異常(子孫に伝達される異常)が存在しており、がん全体の5-10%が、遺伝的要因の関与が大きい遺伝性腫瘍であるとされる[14]。日本人では乳癌・卵巣癌のうちの5-10 %程度が遺伝性腫瘍とされる。また、大腸癌では4-6 %が遺伝性腫瘍のリンチ症候群によると考えられている[15]

がんの遺伝子検査で遺伝性腫瘍を発見した場合は、遺伝学的検査に準じて取り扱いに倫理的配慮を要する。下の表に生殖細胞系列の遺伝子異常に関連するがん・腫瘍の代表的なものをあげる[3]:697-727[16][17]

代表的な遺伝性腫瘍名称遺伝子関連するがん・腫瘍
家族性大腸腺腫症APC大腸癌(ポリポーシス)、デスモイド腫瘍、十二指腸癌、胃癌甲状腺癌
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)BRCA1, BRCA2乳癌卵巣癌前立腺癌膵癌悪性黒色腫
リンチ症候群MLH1, MSH2, MSH6, PMS2大腸癌、子宮体癌、胃癌、腎盂・尿管癌、卵巣癌、 小腸癌、膵癌、胆道癌脳腫瘍
リー・フラウメニ症候群TP53軟部組織肉腫、骨肉腫、脳腫瘍、副腎皮質腫瘍、乳癌
カウデン症候群PTEN乳癌、子宮体癌、甲状腺癌、大腸癌、腎細胞癌、過誤腫
多発性内分泌腫瘍1型MEN1副甲状腺腫瘍、下垂体腫瘍
多発性内分泌腫瘍2型RET甲状腺髄様癌、褐色細胞腫
神経線維腫症1型NF1神経線維腫、神経鞘腫
Von Hipple-Lindau症候群VHL腎細胞癌、褐色細胞腫、脳血管細胞腫、血管芽種
遺伝性網膜芽細胞腫RB1網膜芽細胞腫、骨肉腫
遺伝性びまん型胃癌CDH1びまん型胃癌、乳癌、など

遺伝性乳がん卵巣がん症候群については、当該臓器のがんを発症していない場合でも、卵管・卵巣摘出術、乳房切除手術・乳房再建手術を行うことがある(予防的手術)[※ 5]。2023年現在、乳がんや卵巣がんを発症したことのある人については、健康保険で予防的手術が認められている[18]
非発症保因者遺伝学的検査

たとえば、常染色体潜性(劣性)遺伝疾患の非発症保因者は当該疾患を発症することも治療の必要もないが、同じ遺伝子異常を持つ非発症保因者と子をなした場合、約4分の1の確率[※ 6]で子が疾患を発症するリスクがある[19]。本人の同意が得られない状況での検査は特別な理由がない限り実施すべきではないとされる(未成年者に対しては、原則として本人が成人し自律的に判断できるまで実施しない)[1]
新生児マススクリーニング

フェニルケトン尿症をはじめとする先天代謝異常等を早期に発見して治療をおこなうことを目的に広く行われているが、日本のガイドラインでは遺伝学的検査に位置づけられており[1]、保護者への十分な説明と、検査陽性であった場合の専門施設における確定のための遺伝子検査や遺伝カウンセリングをはじめとする情報提供や支援を要する[20]。詳細は「新生児マススクリーニング」を参照
出生前遺伝学的検査

出生前遺伝学的検査には、羊水、絨毛、などの胎児検体を使用する方法、母体から採取した血液(胎児DNAが含まれている)で行う方法(NIPT)、などがある(日本の遺伝学的検査のガイドラインでは、超音波検査などを用いた画像診断的方法も適用範囲に含まれている)[1]。適切な出生前検査のあり方、妊婦への情報提供・サポートなどの支援、など、倫理的・社会的課題が多数あることが指摘されている[21][22][23]。「出生前診断」および「新型出生前診断」も参照
着床前遺伝学的検査

体外受精や顕微授精によって得られた胚の割球や栄養外胚葉細胞を検体とする遺伝学的検査である。医学的・社会的・倫理的課題が多く、実施する場合は、関連学会や関連専門医の意見に留意するとともに、適切な遺伝カウンセリングや支援を提供する必要がある[24][21]。「着床前診断」も参照
多因子疾患の遺伝学的検査(易罹患性診断)

多因子疾患とは、複数の遺伝子や環境が複雑に関わって発症するものであり、例をあげれば、2型糖尿病、本態性高血圧症、冠動脈疾患、肥満、など、多数の疾患が該当する[4]

多因子疾患については、遺伝子と疾患の相関関係は認められても因果関係については不明であるため、遺伝学的検査を行っても、疾患発症に関わる確率的なリスクしか得られず、また、予測力も必ずしも高くない。生活環境の改善など有効な対策があるものについては有意義である可能性も否定できないが、臨床的意義は必ずしも明確でない[4]

後述のDTC遺伝子検査の中には多因子疾患の易罹患性診断を提供するものも含まれており、適切な説明、支援やカウンセリングなしの検査は望ましくないとされている[1]
薬理遺伝学検査

薬理遺伝学検査(ファーマコゲノミクス検査)は、薬物応答(薬物の体内動態および有効性と副作用)に関する遺伝学的検査であり、特定の薬剤の有効性や重篤な副作用の有無と遺伝情報の関連が判明している場合に実施される。例をあげれば、UDPグルクロン酸転移酵素(UGT1A1)は抗がん剤イリノテカンの代謝(不活性化)に関与する酵素であるが、UGT1A1遺伝子の多型によってはイリノテカンが不活性化されにくく、その結果として重篤な副作用が発生する場合があることが知られており、イリノテカン投与量を調節する目的でUGT1A1遺伝子の検査が行われる[25]

薬理遺伝学的検査は生殖細胞系列の遺伝情報の検査、すなわち、遺伝学的検査ではあるが、その結果により患者や血縁者が不利益を被る可能性が一般的な検査と変わらないものも多いと考えられ、遺伝性疾患の診断や発症リスクを扱う遺伝学的検査とは異なる側面がある[26][27][2]

2022年5月に日本臨床薬理学会より独自のガイドラインとして「診療における薬理遺伝学検査の運用に関する提言」が公表されている[26]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:61 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef