違憲審査制
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最高裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。

 2 前項の規定は、行政機関が前審として審判することを妨げない。

 3 この法律の規定は、刑事について、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。 ? 裁判所法第2章第8条
法的性格

最高裁判所の違憲審査権の法的性格については司法裁判所説、憲法裁判所説、法律事項説が対立する[11][12]

司法裁判所説(付随的違憲審査制説)(通説)憲法81条はアメリカ型の付随的違憲審査制を採っていると解するのが通説である[8][12]。裁判所は具体的争訟の解決に付随してのみ違憲審査をすることができることになる。日本国憲法の違憲審査制は制定過程の経過をみてもアメリカの制度の流れをくむものであると考えられ、また、「第6章 司法」の章に違憲審査権について定める憲法81条の規定を置いており、この「司法」とは伝統的に具体的事件に法令を適用して紛争を解決する作用を指すからである[8][12]

憲法裁判所説(独立審査権説)憲法81条は最高裁判所に抽象的違憲審査権を付与したものである(憲法裁判所)とする見解。この見解によれば最高裁判所は具体的事件を離れて違憲審査権を行使することが可能あるいは違憲審査が義務づけられているとする。しかし、抽象的審査制を採用する場合には提訴要件、提訴権者、裁判官の選任方法、裁判の効力が明示されているのが通例であるにもかかわらず、日本国憲法にはこのような規定がないという問題点が指摘されている[8][13]。かつて最高裁判所を第一審として、自衛隊の前身である警察予備隊の設置や維持に関する法令の制定をも含む一切の行為の無効確認を求める訴えが提起されたことがある(警察予備隊違憲訴訟)。これに対し、最高裁は、具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するものではないものとして、訴えを却下した(日本国憲法に違反する行政処分取消請求 最高裁昭和27年10月8日大法廷判決)。

法律事項説憲法81条は付随的違憲審査制を採っているが、法律の制定によって最高裁判所に抽象的違憲審査権を付与することは憲法上許容されており可能であるとする見解。なお、前掲の最高裁判決(最高裁昭和27年10月8日大法廷判決)はこの点について触れていない[6]

違憲審査の主体

最高裁判所最高裁判所は憲法の明文において違憲審査の主体とされている(
日本国憲法第81条[14][15]

下級裁判所付随的違憲審査制の下では違憲審査権は司法権に内在するものと位置づけられること、日本国憲法第81条の「終審裁判所」の文言は前審の違憲審査を前提としているものとみられること(憲法81条は最高裁判所が終審裁判所として違憲審査権を行使する点を強調した規定とみられること)、裁判官は憲法尊重擁護義務(第99条)を負っていることなどから、解釈上、下級裁判所も違憲審査の主体として具体的争訟の解決に付随して違憲審査をすることができるとみるのが通説である[14][15]。判例(最高裁昭和25年2月1日大法廷判決)も下級裁判所の違憲審査の主体性を認める[16]

違憲審査の対象

日本国憲法第81条は「一切の法律、命令、規則又は処分」を違憲審査の対象として定める[16]

対象説明
法律「法律」は国会の制定する形式的意味の法律を意味する[17]
命令「命令」には行政機関が制定するもの一切が含まれる[18]
規則「規則」には議院規則最高裁判所規則も含まれる[18]。なお、会計検査院規則や人事院規則については「命令」に含まれるとする説と「規則」に含まれるとする説がある[17]
処分「処分」には行政機関の処分(行政処分)のほか、立法機関(国会)の処分、司法機関(裁判所)の処分も含まれる(通説及び判例は裁判所の判決も含まれると解する。昭和23年7月8日最高裁大法廷判決参照)[18][19]
条例憲法81条の列挙には条例が挙がっていないものの国内法規範であり一般に違憲審査の対象に含まれると解されているが、その根拠としては「命令」に含まれるとする説と「法律」に含まれるとする説[18]があり学説は分かれている[17]
判例大審院の判例と高等裁判所の判例とは、最高裁判所小法廷で変更することができる。最高裁判所自身の判例の変更は、必ず全員の合議体である大法廷でこれをしなければならない[20]。また裁判所法10条は、最高裁判所は、「当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く)」、「前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき」、「憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき」については小法廷で裁判をすることはできないと定めている。
条約憲法81条は違憲審査の対象として条約を挙げていない。憲法と条約と形式的効力の優劣については条約優位説と憲法優位説が対立する。条約優位説では当然に違憲審査の対象とならないとみる。これに対し、憲法優位説に立つ場合、憲法81条の文言や国家間の合意であるという条約の特殊性から違憲審査の対象とはならないとする否定説(消極説)と、「規則又は処分」として違憲審査の対象となるとする肯定説(積極説)(通説)、このほか部分的肯定説などの学説があり対立している[18][21]。なお、条約が違憲審査の対象となる場合には憲法81条の列挙との関係が問題となるが、「法律」に準じるものとして違憲審査の対象となるとする説[22]と憲法81条の列挙は例示とみるほかないとする説[23]がある。

違憲審査の審理

日本では付随的違憲審査制が採用されていると理解されているため、日本においてもブランダイス・ルールにいう憲法判断回避の準則が基本的に妥当すると解されている。下級審の判決であるが、自衛隊基地内の電信線を切断したことが自衛隊法第121条の「その他の防衛の用に供する物を損壊」に該当するとして起訴された事件につき、公判では自衛隊法の合憲性について争われたものの、判決では被告人が切断したものは「その他の防衛の用に供する物」に該当しない以上無罪であり、無罪の結論が出た以上は憲法判断に立ち入るべきではないとした例がある(札幌地昭和42年3月29日判決・下刑集9巻3号359頁、いわゆる恵庭事件)。また、違憲判決の効力はあくまでも当該事件にしか及ばないと解されていることもアメリカと同様である。

付随的違憲審査制の例外とも解されるものとして、客観訴訟における違憲審査がある。行政事件訴訟法に定められる民衆訴訟や機関訴訟などの訴訟類型を、講学上、客観訴訟と呼ぶ。客観訴訟は、国や公共団体の具体的な行為を争うものではあっても、当事者間の権利義務関係に関する争いではない。客観訴訟の審理においても違憲審査はできるので、その限度において、憲法秩序自体を保障する制度に近づいているとも言える。

なお、在外日本人選挙権訴訟(最大判平成17年9月14日・民集59巻7号2087頁)は、法律の規定の違法性確認が適法となりうることを示した(もっとも本件では確認の利益を欠くとされ不適法とされている)が、これはあくまで具体的な法的紛争の解決のためには許されうるとしたものに過ぎず、およそ具体的な紛争から離れた抽象的審査制を認めたものではない。
違憲判断の効力

最高裁判所の違憲判断の効力については一般的効力説と個別的効力説、このほか法律委任説もあり対立している[24]


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