鋼鉄製大型船舶の建造は全てが溶接ブロック建造法といわれる方法で建造されている。これは造船所内のブロック組立工場で鋼材から切断、加工、小組立、大組立の順を経て、最終的には部分的な船体のかたまりであるブロックをあらかじめ製作し、ドック、または船台で各ブロックをつないで組み立てて行く工法である。もっとも工数がかかり、精度が求められて、各種の大型工作機械が必要な工程を屋内のブロック組立工場内で行えるため、コンピュータ制御のガスプラズマ・トーチなどを使った流れ作業による効率化と、管理された環境での再現性のある作業が産む確実性が実現出来る工法である。
大規模な流れ作業であるため、ドックでのブロックの組立作業とは別に、ブロック組立工場では次の船のブロックの製作にかかれる。ドックが1つの場合や2つ以上でも生産量を求める場合には、ドック内で完成しつつある船体を少しずつ出口方向へと押し出して行き、空いたドック内で次の船の船尾のブロックの組立をはじめるという「セミ・タンデム工法」がとられる。
ブロックの段階で配管などの艤装品類も取り付けられることが多い[1]。
生産設計と鋼材発注
工場でいかに効率よく船を建造していくか、すなわち、どこまでをひとつのブロックとするか、どの順番でブロックに組み立てていくか、どの艤装品をいつ付けるかなどの設計、または、クレーンや加工機械などの工場設備を計画する。また、鋼板の量を見積もる「外板展開」(がいはんてんかい)を行い、必要な鋼材類や艤装品をスケジュールに基づいて鉄鋼会社へ発注する。
水切り
通常は船で運ばれて来る鋼材は、鋼材桟橋で受け取られ、この受領は「水切り」、桟橋や岸壁は「水切り場」と呼ばれる。納品された鋼板は鋼材ヤードに留め置かれた後、加工場に運ばれる。加工場ではまず、加工前に錆を取るため、1-2mm程の小さな鉄球を鋼板表面にぶつけるショットブラストと呼ばれる方法できれいにされ、防錆塗装が行われる。加工の準備が出来た鋼材は1枚ずつ切断ステージへと運ばれる。
加工
切断ステージでは、板、骨(型鋼)などの船殻構造用の鋼材や配管材用の管材を、事前に設定されたカッティング・プランに沿ってコンピュータ制御による自動罫書き(けがき)を行い、無駄を省いた切図に元づく切断線や部材番号などが直接鋼板等に描かれる。次に、コンピュータ制御の自動トーチ(フレーム・プレーナー)が必要な形に切ってゆく。平面での切断はコンピュータ制御のガス切断機やプラズマ切断機で設計図どおりの大きさに切断される。プラズマ切断機の方が高速で熱変形が少ないが、厚板の切断はガス切断機で行われ、必要に応じて穿孔と曲げ加工を行う。単純な曲面はプレス機による機械力で冷間加工され、一部には完全自動での曲げ加工機も導入されている[4]。船首部や船尾部のような複雑な球面形状を作る曲げ加工は特に「撓鉄」(ぎょうてつ)と呼ばれる、専門の作業者が行う熟練の技によって熱間加工される。熟練の作業者がバーナーと水ホースを持って何度も加熱と冷却を繰り返して微妙な曲面を作り出してゆく。
小組み立て
小組み立てからは溶接作業が行われる。加工された板や管は内業工場の一部の小組み立て工場に運ばれ、互いを溶接によって小さなブロックを造り上げていく。場合によっては溶接の利便や精度のために、ブロックを保持して回転させ自動溶接機によって部材を取り付けてゆく。小組み立ての後で内業工場の大組み立て工場へ運ばれ、小さなブロックは互いに溶接によって大ブロックへと組み立てられる。配水管や電線管、浴室や調理台等が必要に応じて取り付けられ、基本的な塗装はこの段階で行われる。加工・組立のことを「内業」と言い、内業工場での工程である。
ブロック搭載
内業工場で作られた大ブロックをドック(船渠)または船台の上で電気溶接して船のかたちに仕上げていく工程である。「総組立」とも呼ばれる。巨大なクレーンを使って大ブロックを組み上げて行く過程で、後で船体に搭載する事が困難な主機関や大きな補機類、プロペラ・シャフト等が取り付けられる。この工程は屋外で行われるため「外業」と呼ばれる。
1つめの大ブロックは「基準ブロック」と呼ばれ、この最初の設置作業を「起工式」として式典を行うことがある。大ブロックがいくつか組み合わさって区画が完成する度に、船会社や検査機関による検査を受ける[5]。
塗装工程
造船工程の中での塗装だけを見れば以下の工程が行われている。
造船工程塗装工程
鋼板受領
↓=ショットブラスト処理
ショッププライマー塗装
鋼板切断曲げ加工
↓
ブロック組立=ブラスト処理
ブロック塗装
↓
艤装工事1=船内塗装
外板塗装
↓
進水
↓
艤装工事2
最終ドック=船内塗装
外板仕上げ塗装
↓
海上公試
↓=引渡し前補修塗装
引渡し
[6]
進水ハンブルクにおける進水の様子(2006年)
一通り大ブロックが組み上がり船の形になると次の段階では船を水上に浮かべて作業が行われるため、ドックか船台から船を水上に浮かべる作業が必要となる。その作業を進水式という式典で祝うことが多い。船台式では船首が着水した瞬間、船渠式では船体がドックから完全に外に出た瞬間を進水という。進水した瞬間から「船」として認められる。進水式には船主なども立会い、華やかな儀式が執り行われ、ドック式では行われないこともある。
艦艇や特定用途の船または商船の一番船では船台式同様の儀式が行われるが、その他の場合は命名式のみであったり、特に何も行われない場合もある[注 2]。
艤装
進水したばかりの船は、いわば、棟上式を終えたばかりの家であり、各機器(艤装品)の工事がまだ残っている。これらを取付・据付するのが艤装(ぎそう)である。進水後に岸壁艤装が引き続き行われる。工期短縮や工程削減を目的に、進水前の内業(組立・ブロック組立)や外業(ブロック搭載)の段階で先行艤装も行われ、船内配管や居住設備の多くがあらかじめブロックに作り付けられるようになっている。
船体艤装:操船設備(操舵装置等)、航海設備、係船設備、救命設備、消防設備、荷役設備、通風空調設備、諸配管、居住設備、など
機関艤装:主機関と補機類、管系統、など
電気艤装:電気配線、照明と電気機器類の取り付け、など
検査
船主検査や船級検査が行われる。船主検査では艤装工事段階から監督者が派遣されて契約どおりの工事が行われているか検査を行う。船級検査でも各段階での検査が行われる。各国政府は船級検査は船級協会に代行権限を与えている。ただし日本では日本籍の客船の場合には、日本政府自身が行っている。進水後の岸壁で係留されたまま作動検査等が行われる。
重心査定試験
船の重量と重心位置を測定する。
係留運転
係留したまま主機関を低出力で運転して動作を確認する。[3]
公海試運転
艤装がほぼ終わった段階で「公海試運転」によって性能が確認される。仕様書を満足しているかどうかを、実際に海に出て計測・確認を行う。航海計器をはじめ各機器の動作を確認し、速力試験、旋回力試験、前進惰力試験、主機関始動試験などを行う[注 3]。
建造段階から続く船級協会の検査も受けて合格を受ける[7]。公海試運転は造船会社の船長である「ドックマスター」が操船する。2-5日間かかることが多い。
速力試験
従来はマイルポストを使ったが、今ではGPSを利用した位置測定が多く、一定区間の往復時間を計り、潮流や風の影響を出来るだけ排除して[注 4]最高速度を求める。
操縦性能
一定速度で舵を切った時の旋回航跡の直径と切ってからどれくらい前進するかを計測する。
緊急停止試験
クラッシュ・アスターンを行い、停止するまでの航跡を記録する。
Z試験
船をジグザグに走らせる
アンカー・テスト
アンカーを落とし巻き上げる
振動と騒音の計測
引渡し
船主検査と船級検査で問題がなく、船の全ての機能に支障がなければ引渡し式によって造船会社から船主(船会社)へ引渡される[注 5]。
完成した船は造船所の岸壁を離れ、乗組員の手で旅立って行く[注 6]。進水式などで命名されていなければ引渡し式で命名される。引渡し式が最も感慨深いという造船所関係者も多い。
以前は保証技師が処女航海に同乗することが多かったが、最近は減っている。引渡されてから1年間は保障期間であり、不具合は造船会社の手で修理される。最初のドック入りは「保証ドック」と呼ばれる[8][9]。
支払い
鋼製大型船舶の場合、製造原価が大きな額となるため、一般的な契約では契約締結時、起工時、進水時、引渡時という受注から引渡しまでの節目を基準として、四分割して支払いが行われる。分割比率は各契約によって異なることもあるが、金利や為替レートの影響を受けるため、支払いの基準となる節目の時刻は厳密に記録される。