送粉シンドローム
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吸蜜するヒメアカタテハ (Vanessa cardui)

送粉シンドローム(そうふんシンドローム、英語:pollination syndrome)は、受粉(送粉)様式に合わせて特化したの特徴(形質群)である。一般的には動物媒花の送粉者の種類ごとに分類するが[1][2]風媒花・水媒花にも特有の送粉シンドロームがある[* 1]。それらの形質には、花の形・大きさ・色、受粉媒介行動への報酬(花蜜または花粉・それらの量や成分)および受粉時期などがある。例えば、筒状の赤い花と多量の蜜はを引きつけ、異臭を放つ花はハエを引きつける[* 2]

これらの送粉シンドロームは、類似した選択圧に対応した収斂進化の結果であり[3]、送粉者と植物の共進化の産物である[* 3]
風媒と水媒の送粉シンドローム

非生物的な花粉媒介が起きる風媒花と水媒花は、送粉者を引き寄せることはないが、それぞれの受粉様式で共通した送粉シンドロームを持つ。風媒あるいは虫媒受粉をするオオバコ属植物(Plantago media)の花
風媒

風媒花は小さく目立つことがなく、色も緑など派手ではない傾向があり、小さな粘着力が低い花粉粒を大量につける[* 2]。花粉粒を捕えるために、小形の花ながら比較的に大きな羽状の柱頭を持つ。彼らは多様性が少ない群落に生育し、その群落では比較的に背丈の高い植物種である。花粉を集めるために昆虫が花を訪れることもあるが、効果的な送粉者ではなく、選択圧にもほとんど寄与しない。
水媒

水媒花は小さく目立つことなく、大量の花粉粒をつけ、花粉を捕らえる大きな羽状の柱頭を持つ。水媒は水中花をつける植物に見られ、それ以外の水面より高い位置で花をつける水生植物の多くは虫媒受粉であることが多い。
動物媒の送粉シンドローム

以下、送粉者となる昆虫類および脊椎動物の種類別に送粉シンドロームを記述する。ハナバチとチョウによって送粉される花:ヒマワリ
ハナバチ媒

ハナバチ媒花は次の2種類に大別される傾向にある。

目立つ、開いたボウル状(状)で、比較的に特殊化していない花 - ヒマワリ ・野生のバラなど

目立つ、複雑な、非放射状の対称形で、より特殊化した花 - エンドウジギタリスなど

ハナバチ媒花は白色・黄色・青色である傾向があり[* 2]、しばしば紫外線領域の蜜標[* 4]を持ち、香りを放っている[* 2]。花蜜の糖分ショ糖が主体である。

ハナバチはミツバチマルハナバチほかなど多様なハチを含む大きなグループであり、それらは体長・口吻の長さ・行動(単独性と社会性)が全く異なっている。したがってハナバチ全体を総括するのは難しい[3]スズメガ媒花ラン科植物Angraecum sesquipedale
19世紀当時には、この植物の送粉者は知られていなかった。ダーウィンは1862年の著書『蘭の受精』中で「このランの送粉に対応した自然選択されている」と予想した[* 5]。そのガは1903年に発見されキサントパンスズメガと命名された。
チョウ媒

チョウ媒花は大きく目立ち、赤系統色もしくは薄紫色である傾向があり、しばしば外側に広がった花弁を持っていて、通常は香りがする[* 2]。ほとんどのチョウが花粉を消化しないので、チョウ媒花の多くは花粉よりも花蜜を提供する。通常は蜜腺の近くに細い管もしくは距[* 6]で隠された簡単な蜜標が花にあり、チョウは長い口吻で蜜を吸い取る。
ガ媒

の中でも重要な送粉者はスズメガである。スズメガの行動はハチドリに似ており、花の正面で素早く羽ばたき停止飛翔(ホバリング)する。

ガの多くは薄明活動性(薄明性)もしくは夜間活動性(夜行性)である。ガ媒花の多くは、白っぽく、夜間開花し、管状の花冠で大きく目立ち、夕方から朝にかけて作られる強く甘い香りをさせる傾向がある[* 2]。スズメガ媒花は、スズメガの飛翔に必要な高い代謝効率を支えるため、大量の蜜を作る。

ヤガなどの他のガは、ゆっくり飛び花弁に降りて吸蜜する。彼らは停止飛翔するスズメガほど多くの花蜜を必要としない。それらのガ媒花は、(ガが頭花に複数が停まるかもしれないが)スズメガ媒花より小さい傾向がある[4]訪花するハナアブの一種 Leucozona glaucia
ハエ媒およびアブ媒

双翅目ハエアブなど)による送粉には、"myophily"(仮意訳:双翅目媒)および"sapromyophily"(仮意訳:腐生双翅目媒)の2種類がある。
myophily
双翅目成虫の食性多様性に富み、ツリアブハナアブなどは花粉食蜜食のために花を訪れる。またある種のミバエの雄は、花蜜を作らないランが作る特殊な花の化学物質(ハエの性フェロモン前駆体または効能促進物質)に誘引される[5][6]。このように花の持つ花粉・花蜜・化学物質(香り)に誘引される場合を、myophilyに分類する。Myophilous(仮意訳:双翅目媒性)植物は強烈な異臭を持つ傾向はなく、紫・すみれ色・青・白の花色を持ち、開いた皿状もしくは筒状を持つ傾向がある[7]
sapromyophily
双翅目には動物遺体デトリタス)を餌とするハエも多く含まれる。それらのハエは異臭を放つものに似た香りの花に誘引される。報酬がない場合、ハエはすぐにその花から離れるが、離れるのを遅くする罠を持った花もある。そういった花は、強烈で不快な匂いを持って、茶色またはオレンジ色をしている。それらは sapromyophilous(仮意訳:腐生双翅目媒性)植物と呼ばれ、 myophilous植物ほどは一般的ではない[8]

双翅目昆虫は多くの異なった食料源を利用しており、送粉活動は頻度が低く不安定である。しかしながら、年間を通した各種の双翅目昆虫の存在と、その圧倒的な生息数は、双翅目昆虫が多くの植物にとって重要な送粉者である要因になっている[9]

他の昆虫類の種類が少なく双翅目昆虫が比較的に多くなる寒冷な状態(高山・高緯度地域[10]、晩秋から早春[* 7])では、双翅目昆虫は重要な送粉者である。
甲虫媒

甲虫媒花は、通常大きく、緑色・灰色・黄色がかった白っぽい色で、無臭から強い香りの花まである[* 2]。香りは、香辛料臭・果物臭・腐敗物臭などと似ている傾向がある。


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